第564話 フランス外人部隊 Ⅵ

 それは人間の形をしていた。

 しかし、全身に貼りつけられた金属プレート。

 そして左腕に装着されたブレード。

 両肩にある何かの発射装置。

 何よりも、全身から漂う虚無の波動。

 それは高速で移動し、俺たちに迫って来た。


 亜紀ちゃんが「轟雷」を放つ。

 まったく効いていない。

 栞が「虚震花」を撃つ。

 通じない。


 皇紀が電磁波発生装置を向けている。

 変化なし。


 聖がM82で攻撃した。

 頭部にライフル弾が当たり、一瞬止まった。


 俺は「虎王」を抜いて走った。

 こちらを向いた「ソレ」に振り下ろす。

 頭部が二つに割れた。

 「ソレ」は倒れ、手足をバタつかせた。

 俺は頭部の切り口から「虎王」を突き刺す。

 やっと動きを止めた。

 切り口からは、回路と金属の骨格と一部の血肉が見えた。




 「なんだよ、こりゃ」

 聖が言った。


 「タカさん! まだいるよ!」

 ルーがインカムで叫んだ。

 5体が公園に入って来た。


 「全員! 「花岡」の使用を許可する! 戦え!」

 「「「「「はい!」」」」」

 「栞! 鷹と皇紀を守ってくれ」

 「分かった!」

 「ルー、ハー! こっちに来い!」

 「「はい!」」


 「聖! 装甲車を頼む」

 「おう!」

 中にまだ誰か乗っているはずだ。


 俺は4体に囲まれた。

 俺の排除が優先項目なのだろう。

 一体の背後に回り、他の三体の攻撃を受けさせた。

 左手のブレードが振り下ろされ、俺が盾にした「ソレ」に突き刺さる。

 すると三体の肩の装置が低く唸った。

 俺は咄嗟に盾の「ソレ」を蹴り、三体にぶつける。

 空中に真っ赤な電光が放たれた。

 俺はその間に装置を「虎王」で潰していく。


 「タカさん!」

 後ろで亜紀ちゃんが叫んだ。

 

 「大丈夫だ! まず肩の装置を壊せ!」

 「はい!」

 見ると、双子が「ソレ」を羽交い絞めにし、亜紀ちゃんは臆せずに俺の指示を守り、背中に乗って強引に装置を引き剥がしていた。

 素晴らしい相棒たちだ。


 俺は「虎王」に「螺旋花」を込めた。

 二体を次々に斬り裂く。

 最後の一体の動きが変わった。

 左手のブレードの動きが速くなる。

 

 「汎用モードと剣士モードかよ」

 俺は「風流」で加速し、胴を薙いだ。

 「ソレ」は真っ二つになりながらも、まだブレードを動かしている。

 

 聖がM82を何発も撃ち込み、頭部を粉砕した。

 亜紀ちゃんたちは俺が斃した「ソレ」からもぎ取ったブレードで、なんとか破壊したらしい。

 三人とも腰を折って肩で息をしている。

 強敵だったはずだ。




 聖が顎を振って俺に一緒に来いと言っていた。

 二人で装甲車に向かう。


 「やあ、はじめまして、なのかな?」

 大柄な男が聖に足を吹っ飛ばされて床に転がっていた。


 「アダンだ。どうやら僕らの負けなんだね」

 「余裕だな、てめぇ」

 「でも楽しんでもらえたかな?」

 「あれはなんだ」

 「「ヴァーミリオン」だよ。まだプロトタイプだけどね」

 初めて聞く。


 「今回はさ、「業」と「ヴァーミリオン」の運用テストの両側でお金をもらっていてね」

 「てめぇがクタバレば、どうしようもねぇだろう」

 「そうでもないさ。僕には大事な家族がいる。家族が幸せになるさ」

 「じゃあ、俺たちがてめぇの家族をぶっ殺しに行く」

 アダンの顔が一瞬変わった。


 「ああ、君はそんなことはしない。君は優しい子だもんね」

 俺と聖は顔を見合わせて笑った。


 「てめぇは俺のどんな経歴を洗ったのよ? 俺は「魔王の息子」、こいつは「セイント」っていう無慈悲な殺し屋だったんだぜ?」

 アダンが動揺している。


 「まあいい。お前は頭が干からびるまで全部の情報を搾り取られる。俺たちが家族の首を刈り取ってる時にはもうこの世にいねぇ」

 「や、やめろ」

 「女がいれば女房でも娘でもやりまくってやる。ああ、こいつは年上趣味だからな。お前のかあちゃんとかおばあちゃんもやるからな」

 「やめてくれ!」

 

 俺はしばらく、どんなに残虐に壊していくのかを話した。

 アダンは完全に信じた。

 もう「余裕」などは全く無かった。


 二トントラックが来た。

 アダンと遺体と「ソレ」らを回収する。

 千万組の人間たちだ。

 蓮花の研究所に運ぶ。

 ちなみに、千万組には警察用の陽動もやらせていた。

 簡単な爆破工作だが、人的被害はないはずだ。

 予告爆破だったので、大勢の警官がそちらへ向かった。


 俺たちも手早く撤収した。




 俺がハンドルを握り、聖が隣に座った。


 「トラ」

 「あんだよ」

 「お前っておっかない奴だったんだな」

 「あ?」


 「俺やだよ、他人の家族を無茶苦茶にするなんてよ」

 「お前な!」

 「お前、地獄に堕ちるぞ?」

 「お前は一体何百人やったんだよ!」

 「ああ、俺も来週から教会に行くわ。お前も一緒に行こ?」

 「冗談じゃねぇ!」


 子どもたちと栞が後ろで大笑いしていた。

 聖に、あれが芝居だと納得させるのに苦労した。




 「皇紀!」

 「はい?」

 「てめぇ、笑ってやがるけどよ!」

 「はい!」


 「お前の予想は全ハズレだったじゃねぇか!」

 「だって、タカさんも」

 「う、うるせぇ! こっちは大変だったぞ!」

 「すみません!」

 「何が「大出力で来ます」だぁ! なあ、聖!」

 「え、トラだって「それだ!」って言ってたじゃん」


 「お前、ヘンなとこで頭よくなってんじゃねぇ!」

 

 みんなが大笑いした。



 

 俺はマックの前でハマーを停めた。

 「亜紀ちゃん」

 「はーい!」

 聖のハンバーガーを山ほど買ってくる。

 ポテトとナゲット、それにカップのコーラも忘れない。


 「さきゅー、ブサイク姉ちゃん!」

 「亜紀です!」

 「車の中で喰うなよ!」

 「分かってるよ!」

 「あ、ちょっとネコにやってもいい?」

 「「「「「やめろ!」」」」」


 「わ、分ったよ!」


 「あ! テンガ忘れた!」

 「あ? ああ、俺の貸してやるよ」

 「ほんとかよ! やっぱトラって優しいよな!」

 後ろで双子がゲェーっと言っている。


 「ちゃんと洗って返すからな」

 「いいよ!」

 「え、使ったままでいいの?」

 「お前にやる!」

 またみんなが大笑いした。

 先ほどの死に掛けた戦いがウソのようだ。

 別に聖が気を遣ったわけではない。

 ただのバカだ。




 でも、昔からこいつは、こういう奴だった。

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