第389話 「ディアブロ亜紀」:初出

 一つ、仕事が残っていた。

 俺は物置の「モノ」をハマーに積んだ。

 それぞれがブルーシートでくるまれている。

 亜紀ちゃんが手伝うと言ったが、断った。


 斬の家に向かう。






 電話をしておいたので、裏手の車用の門で斬が待っていた。

 無言で門を開き、入るように手を振る。

 庭の隅で「モノ」を降ろした。

 五つだ。


 「ここでいいか?」

 「ああ」

 「じゃあな」

 俺は最後に包みを渡し、帰ろうとした。

 斬は包みを開き、すぐに閉じた。


 「茶でも飲んでいけ」

 そう言った。


 俺は斬について屋敷に上がった。

 座敷に案内される。

 また知らない女が茶を持って来た。

 今度はまっとうな人間のようだ。


 俺の前に茶が置かれる。

 俺は車から持って来た水筒のコーヒーを飲んだ。


 「おい」

 「お前の家のものが喰えるか!」

 斬が俺の茶を奪い、一口飲んだ。


 「これでいいだろう」

 「お前が口付けていいわけあるか!」

 斬が俺を睨む。




 「最期を聞かせろ」


 俺は中央公園で全てを撃破した後で、蓮華が自爆したことを話した。

 そこに誰がいたなどは当然話さない。


 「あの庭に転がしたのは、俺の家を襲った連中だ。派手なことはできないから、「アレ」が残った」

 「そうか」

 「その包を拾ったのは偶然だ。帰る途中で落ちてた」

 蓮華の着物の切れ端だった。


 「そうか」

 斬の表情に変化はない。

 しかし、包を掴んだ手はそのままだった。


 「そういえばお前、数日中だって言ってたよな。人数も倍いたじゃねぇか!」

 「油断してやられれば、お前が甘かったということだな」

 その通りだ。

 俺がのんびりと時間をかけて斬の言葉を鵜呑みに準備していれば、誰かがやられていたかもしれない。


 「業はどうしている?」

 教えるわけはないと思いながら、俺は聞いてみた。


 「あいつは花岡の枠を飛び出した。お前は信じないかもしれんが、花岡は国に尽くすために存在してきた」

 「……」

 俺は茶を啜り、席を立った。


 「待て、お前今回の「ケジメ」はどうするんだ?」

 「そうだなぁ。斬、「花岡」は俺の下につけ」

 「分かった」


 驚いた。

 斬は畳に額をつけている。

 俺はそのまま帰った。






 俺が家に着いたのは、もう夕方だった。

 一江に電話する。


 「長く休んで悪かったな」

 『いーですよー。こちらは大丈夫ですから』

 「変わったことはないか?」

 『ありません。来週はどうですか?』

 「月曜日からは普通に行く。迷惑をかけたな」

 『いーえー。ではまた月曜日に』

 「おう!」



 亜紀ちゃんが呼びに来た。


 「今日もステーキですけど、いいですか?」

 「亜紀ちゃんが食べたいな」

 「もーう!」

 笑いながら、早くいらして下さいと言って降りて行った。


 御堂家に行く前の肉が大量に残っている。

 「大会」でもやらない限り、数日はステーキだ。

 次の休みには、寿司でも喰わせるか。


 風呂をあがると、亜紀ちゃんに呼ばれた。


 「ちょっとだけ」

 亜紀ちゃんが梅酒の用意をする。

 チーズと双子のたこ焼きも亜紀ちゃんが用意した。


 「今回も大変でしたね」

 「ああ、246事件以上だったな」

 「あの蓮華って人、ちょっと可愛そうでしたね」

 「そうかもな」

 梅酒を口に入れると、もっと強い酒が飲みたくなった。

 ワイルドターキーを出す。

 亜紀ちゃんも飲みたがるので、グラスの梅酒を空けさせて少し注いだ。


 「喉が灼けますね」

 俺は微笑んで、舐めるように飲めと言った。


 「蓮華も愛によって動いたんだな」

 「はい」

 「あいつは、業以外に接する人間はいなかった」

 「……」


 「特殊な才能を見込まれて斬に連れて来られ。業にその技を教えながら生きていた」

 「はい」

 恐らくは業の愛人であっただろうことは、亜紀ちゃんには話さない。


 「斬は蓮華を通して業の動向をある程度は把握していた。しかし蓮華は業の命令により、破滅した」

 「はい」

 「それ以外の道は無いとはいえ、それに殉じたんだ。敵とはいえ、悲しんでやるくらいはいいだろう」


 「タカさん、必死に探してましたもんね」

 「ああ、全員がナノテルミットの爆薬を身に着けていたんだろう。蓮華はその他にRDXあたりで全部吹き飛ばしたんだと思う。本来何も残らないんだろうが、なんとか切れ端が残っていた」


 「斬さんは何か言ってましたか」

 「あいつが他人に感傷的になるわけもないな。ただ、包を最後まで離さなかったよ」

 「そうですか」


 「亜紀ちゃんも大活躍だったな! よく皇紀や俺の家を守ってくれた」

 「いいえー!」

 亜紀ちゃんが嬉しそうに笑う。


 「中央公園でもカッコ良かったよなぁ。電光が俺の脇を抜けた時なんて、しびれたぜ!」

 「じゃあ、「雷鳴のアキ」で!」


 「そう言えば聖が言ってたな、亜紀ちゃんがおっかない顔してたってなぁ」

 「えー! そんなことないですよー!」

 「ディアブロかよって」

 「何ですか、ディアブロって?」

 「ああ、悪魔のことだな。スペイン語でな」


 「えー、やだー!」

 俺は笑った。


 


 その後、聖の話題で盛り上がった。

 あいつは本物のバカで、どこまでもいい奴ということで一致した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る