第388話 ケポリン
最近、響子の様子がおかしい。
何かを隠している。
しかし、それが何かが分からない。
何がどう、ということでもない。
相変わらず俺に甘え、抱き着いて来るのは今まで通りだ。
しかし、俺が風呂に入れてやろうとすると、嫌がる。
ベッドに一緒に寝転がると、俺からちょっとだけ距離を取る。
いつものようにパンツを脱がそうとすると、必死に抵抗する。
おかしい。
響子は俺にパンツを脱がされるのが好きなはずだ。
「響子、俺に脱がされるの好きだよな?」
「……」
六花も否定しない。
六花に聞いても、思い当たらないと言う。
何度か隠れて菓子を大量に食べていたが、そういうものでもない。
六花とくすぐりの刑にしたが、吐かない。
「いやぁー、やめてー! へへへへへぇ!」
カワイイだけだ。
最終手段だ。
「響子、俺はクビになるそうだ」
「エッ!」
「来週にはクビになって、病院には二度と来れない。院長からそう言われた」
「なんでぇ!」
「お前の悩み一つ解決できないボンクラはもういらないってさ」
「そんなことないよー!」
響子が泣き出した。
カワイイ。
「響子、元気でな」
「タカトラー! 行かないでぇー!」
「ダメだよ。お前は俺なんかに頼ってくれないだろ?」
「そんなことないよー!」
「じゃあ、悩みを聞かせてくれるか?」
「うん!」
響子が語り出した。
泣いた真っ赤な目で俺を見詰めている。
カワイイ。
「あのね」
「なんだ?」
「いや」
「おい!」
「あのね」
「なんだよ?」
「あの、出てきたの」
「何が?」
「だからね」
「うん」
「やだ」
「!」
「六花! 響子を押さえろ!」
「はい!」
「いやぁーーーーー!」
「パンツを降ろしちゃうぞ!」
「絶対やめてぇー!」
「じゃあ、言え!」
「パンツはダメだよー!」
「パンツはどうでもいい!」
「だって、見られちゃうもん!」
「「?」」
散々見ている。
「毛が生えてきたのー!」
「「!」」
六花と顔を見合わせた。
六花に確認する。
「おい」
「はい」
「そうなのか?」
「いえ、気付きませんでした」
響子を抱き寄せ、優しく言った。
「響子、それは大人になってきたということだぞ?」
「やだー!」
「みんなそうなんだよ。俺だって、六花だってそうだろう?」
「やだー!」
「六花!」
「はい!」
響子は抵抗したが、俺たちに敵うわけがない。
簡単に下を脱がせた。
「おい」
「はい」
「いつも通りじゃねぇか」
「ツルツルですね」
「タカトラのばかぁー!」
カワイイ。
「なんだよ、全然生えてねぇじゃねぇか」
「ちょっと期待しましたよね」
俺は六花の頭にチョップを入れた。
「生えてるもん!」
「ねぇよ」
響子が指をさした。
「あんだ、コレ?」
ヘソから長い毛が生えてる。
一本だけ。
チョロっと。
俺と六花は大笑いした。
「タカトラのばかぁー!」
「お前、変わったところに」
「全然気付きませんでした」
響子は猛烈に怒っている。
カワイイ。
「なんで見るのよー!」
「いや、だって。お前がカワイイから」
「ばかぁ!」
「悪かったって。じゃあ抜いてやろうか?」
「え、折角生えたのに?」
「大事なのかよ?」
「うーん」
何を考えているのか。
「恥ずかしいけど、なんかカワイイ」
まあ、なんとなく分からんでもない。
「じゃあ、このままにしておくか」
「うーん」
結局、保留になった。
「よし! 俺が名前を付けてやろう」
「ほんとに!」
「命名! 《ケポリン》!」
「やったぁ!」
なんか喜んだ。
ようやく俺と一緒に風呂に入るようになり、響子はしょっちゅうケポリンに話し掛け、撫でるようになった。
「ケポリン、おはよう」
「ケポリン、元気ですかー」
「ケポリン、おやすみー」
仲良しだった。
風呂でも、自分でケポリンを洗う。
指先にシャンプーを付け、優しくなでなでする。
俺と六花は、笑って見ていた。
「ギャァーーーーー!」
ある朝、六花が着替えさせようとすると、響子が叫んだ。
見ると、ケポリンが下着に貼りついていた。
慌てて六花が俺の部屋に飛び込んでくる。
「ケポリンが、大変です!」
「あ?」
ケポリンは、響子の下着の上で寝ていた。
響子は大泣きだった。
「響子、お墓をつくってやろう」
「うん」
一緒に病院の敷地にケポリンを埋め、小さな石を建てた。
三人で手を合わせる。
響子がまた涙を流した。
六花が響子の肩を優しく抱いた。
俺は結構忙しいんだが?
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