第387話 勝利者の朝
風呂から上がり、俺たちは亜紀ちゃんが焼いてくれたステーキを食べた。
双子はそのまま今日は鷹のマンションにいさせる。
響子はアメリカ大使館にいた。
極秘で移送したのだ。
大使館にはジェイを中心にマリーンたちが護衛についた。
そちらには襲撃はなかった。
流石に蓮華も、正面からアメリカと揉める気は無かったのだろう。
まあ、俺が合流すれば分からなかったが。
聖も食事に誘ったが、「作業」が忙しそうだったのでやめた。
あとは勝手に寝るだろう。
俺は栞と六花を連れて寝室へ行った。
「私も一緒に寝ていいですか?」
亜紀ちゃんが言った。
「うぉぉぉぉーーー! 70歳のオカァサーン!」
聖の声が聞こえた。
「やっぱりいいです」
亜紀ちゃんは赤くなって自分の部屋へ入った。
俺たちは部屋に入った。
六花が買って来たものがベッドに拡がっている。
俺は後ろから栞に羽交い絞めにされ、六花にテンガを使われた。
「70歳のぉ!」
俺が叫ぶと二人が笑った。
テンガはなかなか良かった。
翌朝、最新のニュースを見て、皇紀が録画していた夕べの報道を幾つか観た。
蓮華は警察を集中させるために、歌舞伎町で別動隊によるテロ騒ぎを起こした。
3人の蓮華の配下がアサルトライフルを乱射し、一般人80名が死んだらしい。
ゴールデン街で通行人や建物の中の人間を手当たり次第に殺した。
集まった警察官と撃ち合いになったが、武器が違う。
グレネードも使われ、警官隊にも20名の死者が出た。
俺の家、鷹のマンションでのことは何も出ていない。
俺の家では銃声も何発かあったが、子どもが爆竹でも鳴らしたくらいに思われたのだろう。
日本人が銃声を知っているわけがない。
中央公園での爆発も、歌舞伎町のテロリストと結びつけられていたが、交番の死者が分かっているだけで、歌舞伎町の方が話題になっていた。
覆面をした歌舞伎町の3人は、爆弾で自決した。
中央公園での決着の直後、歌舞伎町の連中も自決した。
これは、何らかの通信手段があったことを示している。
周辺の電子機器は使えなかったはずだが、蓮華は方法を持っていた。
更に驚くべきことがあった。
御堂から電話が来た。
「石神、うちの敷地の中で軽トラックが壊されていた」
「みんなは無事か!」
「ああ、いや。うちのものじゃないんだ。知らない誰かが侵入して、そこで壊されたらしい」
「詳しく話してくれ」
御堂の話によると、農作業に出てきた御堂家の雇っている農家の人が見つけたらしい。
車体は正面が高熱で溶け、炎上した跡があった。
車には一人の人間が座っていたが、焼け焦げて炭化しており、性別すら分からない。
ウインドウも解け崩れ、シャーシもほとんどが高熱でボロボロになっている。
今警察が現場にいるらしい。
御堂も事情聴取で先ほどまで呼ばれていた。
軽トラックの助手席から、ライフルなどの銃器が見つかっている。
間違いなく、蓮華の配下だろう。
しかし、一体誰が迎撃したのか。
しかも、尋常の方法ではない。
俺は御堂との夕べの会話を思い出した。
「御堂、夕べ庭が光ったと言っていたな」
「石神も、それが関連していると思うか?」
柳が庭の灌木が焦げているのを見つけたらしい。
軽トラの現場と線で結んで伸ばすと、あの「軒下」になる。
「オロチがやったんだろうか」
「俺に聞くなよ」
「オロチは石神の管轄じゃないか」
「お前! まあ、卵を倍置いてやればいいんじゃないか?」
「10個置いた」
「……」
双子が帰って来た。
鷹を病院まで送って来たらしい。
俺は両手で抱き上げて褒めてやった。
「怖かったか?」
「全然!」
「また来るかな!」
俺は笑ってもう来ないと言うと、ちょっと残念がった。
聖が起きて来た。
勝手にシャワーを使ったらしい。
俺がステーキを焼いて出してやる。
ガツガツと三枚食べた。
食後のコーヒーを出してやる。
子どもたちに、聖は気にせずに勉強するように言った。
「トラ、一応片付いたってことでいいのかな?」
「ああ、助かった。礼を言うぞ」
「へ? 大したこともしてねぇだろう」
俺は笑った。
バカな奴だ。
「ところでよ。あのカラテマンたちはヘンなことしてたよなぁ」
「ああ」
「お前たちもな」
「そうだな」
「なんだよ、最近はガンを使わなくなったのか?」
「お前はちゃんと斃してたじゃねぇか」
「まあ、俺は天才だからな」
「そうだな」
「またお前が泣いて頼むんなら、いつでも来てやんよ」
「あんだと?」
「お前って昔から弱かったじゃん。俺がいなきゃなぁ」
「このハゲぇ!」
「「表に出ろぉ!」」
俺たちは庭で激しくやり合った。
子どもたちが楽しそうに見ている。
「ねえ、亜紀ちゃん」
「なーに?」
ルーが亜紀ちゃんに聞いた。
「タカさんは簡単に聖さんを倒せるよねぇ」
「どうかなー。昨日聖さんと一緒に戦ったけど、スゴイ人だったよ?」
「でもタカさんだったら」
亜紀ちゃんは笑っていた。
双子が出てきた。
「タカさーん! 私たちもまぜてー」
「やめとけ。バカがうつるぞ?」
「あ? 三人がかりか。トラは弱いからなぁ」
まあ、双子にはいい経験か。
聖も相手してくれるようだ。
「よし、二人でやってみろ」
俺は二人に「花岡」を止めなかった。
双子は左右から聖を襲う。
ルーが上段回し蹴りで頭部を。
ハーは金的に姿勢を低くしながら拳を放つ。
双子の悪魔の必殺コンビネーションだ。
聖は笑いながらルーの足を左手で跳ね上げて、尻に右手のブローを。
同時にハーには、左足で顔面に蹴りを入れる。
二人とも吹っ飛んで地面を転がった。
双子が目線を合わせた。
離れた位置から、ルーが「虚震花」を放つ。
栞が驚いた。
「ウォ!」
聖がとっさに横に転がった。
俺は「闇月」で波動を霧散させ、庭を守る。
聖はルーに迫りながら、右のハーに右手を振った。
「足かぁ!」
「螺旋花」を使おうとしたルーに、スライディングしながら脛を蹴り、転倒させた上で流れるような動きで馬乗りになり、上からパンチを浴びせ続ける。
ハーは額に石が当たり、昏倒していた。
小学四年生の女子をボコボコにし、聖は高笑いした。
「ダァーッハッハッハァー!」
みんなが聖の強さとバカっぷりを確認した。
ハマーで成田まで聖を送った。
一日くらいゆっくりしていけと言ったのだが
「今日の夜はゴンズの店の女を全部買ってるんだ」
と言った。
一番若いので60歳らしい。
出発ロビーまで送ろうとしたが断られた。
「ここでいいよ。トラ、面白かったな!」
「本当に助かった。また泣いて頼んだら来てくれ」
「もちろんだぁ!」
聖は笑って去って行った。
俺が深々と礼をし、聖の背中を見送っていると、数十メートル先で聖が振り返って叫んだ。
「そうだぁ! テンガとエロDVDをありがとー、とらぁー!」
手を振っている。
俺はゲートに寄りかかり、時計を見て知らない人間の振りをした。
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