第386話 襲撃者の夜 Ⅳ
昔はたくさんいたホームレスも、条例のためにいまはほとんどいない。
中央公園は静まり返っている。
病院から追跡されているのは分かっている。
俺は幾つかの監視カメラを「轟雷」で破壊しながら移動した。
タクシーで来た聖には、既に装備を渡している。
俺と六花は、今、木陰にいる。
圧が高まった。
60名。
全員が武装している。
10人は日本刀だ。
じじぃ、勘定が合わねぇぞ。
俺は走って来る集団に「虚震花」を放った。
前方の数人が手を前に出す。
何事も起こらない。
「闇月花」だ。
「花岡」はちゃんと返しの技を編み出していた。
俺は放ちながら、左手でブリガディアを撃つ。
数人の頭が吹っ飛んだ。
乱戦になった。
主に「螺旋花」を使っての攻防だ。
それに銃と刃物が加わっている。
一際大きな銃声がする。
最も外縁にいた人間の胴体が千切れた。
聖のバレットM82だ。
数人が六花に向かう。
六花は「金剛」と「仁王花」を使い、素早いスピードで動きながら撃破して行く。
俺は一瞬視線を向け、任せて大丈夫だと判断した。
俺の周囲では、次々に肉体がひしゃげ、手足や頭が粉砕されていく。
徐々に、指示を出していた蓮華に近づいていく。
おかっぱ頭に着物を着ている。
薄気味の悪い目だ。
ずっと俺を見ている。
残りが10人ほどになった時、蓮華の両脇にいた三人の男が向かって来た。
聖が左端の男を撃った。
顔の前で銃弾を掴んだ。
俺は一瞬驚く。
対物ライフルの巨大な弾を止めたのだ。
しかし、その銃弾が破裂した。
男の顔に破片が突き刺さる。
聖がさく裂弾を使ったのだ。
相変わらず戦闘のセンスがいい。
俺が「虚震花」を放ち、男は消失した。
他の二人が同時に攻撃してくる。
速い。
電光が迸って、男の一人に当たって吹っ飛んだ。
高速で近づいて来る。
亜紀ちゃんだった。
亜紀ちゃんはそのまま駆け抜け、吹っ飛ばした男に「螺旋花」を打ち込んだ。
男の身体は霧散し、地面に大きな穴が空いた。
その間、俺ももう一人の下半身を吹き飛ばし、残った上半身を蓮華に向かって蹴り飛ばした。
六花が後ろの連中を撃破し、横に立った。
「石神ぃ」
恐ろしく低い声で蓮華が言った。
「業様が仇を討ってくださる」
亜紀ちゃんと六花が俺の前に立った。
俺は二人を下がらせる。
「それで、結局お前は何しに来たんだ」
蓮華がニタリと笑った。
「業様に、お前たちの力をお教えするためだ」
「なんだと?」
「戦闘状況、お前たちの準備や戦略、すべて業様に渡る」
「電子機器は破壊したはずだけどな」
「アハハハ!」
蓮華は甲高く笑った。
先ほどまでの男のような声とは違った。
「蓮華、お前と業の関係はなんだ?」
「私は業様の女。すべてを捧げる女」
「残念だな! 業は栞に懸想してるぞ?」
揺さ振りをかけた。
「業様はすべてを手に入れる。それだけのことだ」
蓮華が右手に何か握っているのが見えた。
俺は亜紀ちゃんと六花を抱えて「飛んだ」。
中央公園の北エリアが半壊した。
蓮華のいた場所を中心に、地面が大きく抉れている。
周辺に転がっていた遺体も、跡形もなく燃え尽き粉砕されていた。
俺たちはナイアガラの滝にいたはずの聖を見に行った。
聖は裏側で寝転がっていた。
爆発の瞬間に飛び降りたのだろう。
勘のいい奴だった。
「トラぁー! これは何なんだよ」
「だから最初に説明しただろう」
「あ? 全然覚えてねぇ」
「このバカ!」
「お前の説明が悪い」
「お前! チャップのブリーフィングだってまともに覚えてたことはねぇだろう!」
「あの時は俺は英語がダメだったんだ!」
「俺が毎回日本語で通訳してやったじゃねぇか!」
「お前の説明が悪い!」
「やんのかゴラァ!」
「上等だ!」
俺たちは殴り合った。
亜紀ちゃんと六花が呆れた顔で見ていた。
「元気ですね」
「そうですね」
俺たちはハマーに乗って、俺の家に向かった。
途中の青梅街道沿いのマ〇クで、ハンバーガーを大量に買う。
「おい、ネエチャンたちよ! 日本のバーガーは美味ぇんだぜ!」
聖がニコニコして言う。
「二人とももっといいもん食ってるよ!」
「何言ってんだよ。ハンバーガーは最高だろ?」
「「「……」」」
「あぁ!」
「どうした!」
聖の声に、残党の攻撃を警戒する。
俺は何も感じていなかった。
「トラ! お前コーラ買ってねぇよ!」
「あんだと?」
「戻れ! さっきも何か足りねぇと思ったんだ」
「バカ!」
「おい、頼むよ! コーラがねぇとバーガーが泣くぜ」
俺は自販機の前で止まり、亜紀ちゃんにコーラを買ってこさせる。
「これでいいか?」
「あーあ。俺はマ〇クのカップのコーラを飲みたかったんだけどな」
「日本のマ〇クは、缶のコーラが合うんだよ」
「ほんとか! トラ、お前やっぱ頭いいな!」
亜紀ちゃんと六花が笑っていた。
俺は聖のために、また途中の本屋に寄る。
コミックと一緒に、エロ本、大人のおもちゃが置いてある。
24時間営業の、偉い店だ。
俺は六花に「テンガ」を買ってくるように言った。
しばらくして、六花が戻って来る。
なんか一杯買って来た。
「おい、一個で良かったんだぞ?」
「はい、ついでに石神先生のも」
「……」
人選を失敗した。
しかし、亜紀ちゃんに行かせるわけにもいかなかった。
家には栞が来ていた。
だから亜紀ちゃんが来てくれたのだろう。
皇紀と一緒に出迎えてくれる。
「新宿は大騒ぎよ」
栞が言った。
「歌舞伎町で暴動とテロ騒ぎ。その後で中央公園での大爆発。中央公園では交番の警官が惨殺されてたって」
歌舞伎町の方は分からない。
蓮華の別動隊だろうが。
「テロ騒ぎは、中央公園の爆発の後で片付いたわ」
「どうなった?」
「自決したようよ。誰かの名前を叫んでいたみたいだけど、まだ報道はないわ」
皇紀が録画しているとのことで、俺は一旦保留にした。
「栞、六花、一緒に風呂に入ろう」
「「はい!」」
「あたしもいいですか?」
亜紀ちゃんが言うので、俺は笑って手を引いた。
「おい、お前だけお楽しみか! いいなぁ!」
俺はテンガを聖に渡した。
客用の寝室に連れて行き、使い方を説明する。
単純なものなので、聖でも流石に理解した。
DVDも何枚か渡す。
俺たちが風呂に入っていると、聖が風呂場の前に来て大声で叫んでいた。
「おい、トラ! これスッゲェなー!」
「分かったから行け!」
俺たちは笑った。
亜紀ちゃんだけは、よく分かっていなかった。
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