そして音楽は続く(4)

 修志くんへ



 こうやって誰かに手紙を送るのは初めてなので少し緊張します。


 そしてなんだか、書くことにも迷います。


 きっと、何を書いても後悔が残りそうな気がするのです。あれを言い忘れたとか、これも伝えたらよかったとか、そんな感じで。すごく難しいです。


 だから深く考えずに、感謝の言葉を綴ろうと思います。



 一緒にバンドを組んでくれてありがとう。修志くんがあの春の屋上で私のお願いを聞き入れてくれなかったら、この一年間の奇跡みたいな毎日は始まりませんでした。


 一緒にメンバーを集めてくれてありがとう。まったく、あんなに苦戦することになるとは思わなかったよね。でもおかげで、最終的には御堂くんと土田くんという頼もしい二人が仲間になってくれたから結果オーライです。やっぱり人生っていうのは全て繋がっているものだよ、という感じで苦労を正当化しちゃいます。


 一緒にアルバムを作ってくれてありがとう。みんなで音を合わせるの、本当に楽しかった。ライブも最高だったよね。あんなに幸せに包まれた時間は生まれて初めてでした。修志くんも同じ気持ちだったら嬉しいな。


 私の右手を受け入れてくれてありがとう。君のおかげで、隠す必要のある存在じゃないって気づくことができました。もしまた学校に行ったり街を歩いたりすることがあったなら、私はきっと手袋なんて着けずに胸を張ってこの手を見せていたと思います。今となっては私の誇りです。


 私の曲を好きって言ってくれてありがとう。その一言だけで、例えどんな人生を過ごしても、私の音楽は間違っていなかったと思うことができました。


 私のわがままを沢山聞いてくれて、本当にありがとう。



 それともう一つ、特別なありがとうを。


 あの曲を送ってくれて、ありがとう。あの日修志くんが帰った後にすぐに聴いたよ。お世辞とかじゃなくて、とっても良い曲だった。叶うなら私も一緒に演奏してみたかったなあ。


 そして、音や歌詞から修志くんの想いも伝わってきました。本当に、すごく嬉しかった。


 だから私も、これだけは言っておかなければいけません。できるなら同じように音楽で返したかったんだけど、さすがに病院にギターを持ち込むのは厳しそうなので文面で。


 私は、修志くんのことが好きです。


 友人としてじゃなくて、恋心の意味で。って書くとちょっと恥ずかしいけど、でも本当です。


 私は君のことが好きです。世界中の誰よりも、大好きです。


 だからどうか、もし私がいなくなっても、毎日じゃなくていいから、私の曲を聴いた時だけでもいいから、時々でも私のことを思い出してくれたら嬉しいな。



 最後に一つだけ、お願いがあります。


 私がいなくなってもバンドを続けて、なんて無責任なことは言いません。


 だけど絶対に、いつまでも、音楽を好きでいてください。


 いつまでも、音楽と共にある幸せな人生を生きてください。


 どんなに苦しい毎日にも、きっと、素晴らしい音楽は溢れているから。


 それが私からの最後のお願い、そして一方的な約束です。もし破ったら祟ってやるんだから。


 御堂くんと土田くんにもよろしくね。


 それでは、いつまでもお元気で。


 special thanks to you



 石川彩音

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