special thanks(12)
それからの事の進みは本当にあっという間だった。彩音が完成したバンドスコアを用意し、全員でアレンジを練り、曲も、その演奏も、すぐに上質な形に仕上がった。
その曲が完成すると、予定通りCDのレコーディングも始まった。僕たちが選択したレコーディング方法は一発録り。それぞれの楽器の音を別々に録音する重ね録りと比べればいくつか不利な点も有る。しかし逆に、全員で同時に音を合わせるからこそ生まれるグルーヴや、その演奏の熱量を、ありのまま表現することができる。
自分が一つミスをするだけで演奏はやり直しになってしまう、といったプレッシャーに怯えながらも、特に滞りなくレコーディングは進んでいった。
自分で言うのも烏滸がましいが、ギターの演奏も、ボーカルも、非常に調子が良かったと思う。弦を震わせる両手は淀みなく動き、頭でイメージした通りの流麗な音を奏でられていた。その音符を辿る歌声は、ほんの一分の音程のズレも無かった。
五線譜に乗せるいくつもの言葉。
それは例えば、今を生きることを祝うような言葉。強かな意志と誇りを持って夢を追おうとする言葉。幸福と切なさが入り混じる小さな恋心を胸で温めるような言葉。
あるいは、理不尽や懊悩の中でもがく人間を励ますような言葉。青春の日々の訳も無い希望と不安を讃えるような言葉。
そして、大切な人たちに特別な感謝を伝えようとする言葉。
彩音の様々な感情が込められた言葉たちを、出来る限り美しく響くようにと、そう願いながら僕は歌った。
みんなで音を奏でることが楽しくて、それを色々な検討と共にレコーディングすることがとても新鮮で、そんな濃密な時間は瞬く間に過ぎていく。
そして月が変わり、町に冬の足音が微かに聞こえ始めた頃。
僕たちのアルバムは完成した。
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