special thanks(7)

 家路を歩きながら、夕食を食べながら、夕食後の茶を啜りながら、そして今ベッドに横たわりながら、僕は圭一に言われた言葉を反芻していた。


 僕が将来やりたいこと。どんな将来も全ては今の連続。


 今やっていることといえば音楽だが、つまり、なんだろうか。圭一は、僕が音楽関係の仕事に就くとでも予見しているのだろうか。


 たしかに昔から音楽という存在は好きだ。楽曲を聴くのはもちろんのこと、春からバンドを組んで、自分で音を奏でる楽しさも経験し、その思いは更に増した。


 だがしかし、将来の職としてその道を選ぼうと考えたことはないし、考えられるほどの実力も持ち合わせていない。演奏技術は努力次第でどうにでもなることかもしれないが、何より純粋に、僕は趣味として触れられるだけで十分だと思っている。


 果たして圭一には、僕のどんな未来が見えているというのだろうか。


 時間の経過と比例し、頭に熱が充満していく。思考が纏まらないもどかしさで神経が完全に燻っていた。


 枕元に置いた時計を見る。時刻は午後八時をちょうど回ったところ。夜もまだ深くない。


 軽く散歩でもして頭を冷やそう、と僕は上体を起こし、立ち上がる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る