6章 special thanks
special thanks(1)
町に響く蝉の音がツクツクボウシの野暮ったい声に変わり始めた折、夏休みは幕を閉じた。
約一ヶ月半ぶりに訪れた学校はまったくと言っていいほど久しさを感じなかった。やるべき事に満たされた、しかもそれが同じ事を繰り返すような毎日は、瞬く間に過ぎていく。
ひと夏を超えて顔を合わせるクラスメイト達の様相は千差万別だった。火を通し過ぎた唐揚げのように肌が焼けた者。髪の毛色が僅かに明るくなった者。明らかに体の輪郭が膨らんだ者。野球選手のアイブラックよろしく、目の下に濃いクマを作り上げた者。どうやら自分が感じた時間の速さとは裏腹に、世界ではおもしろおかしい一ヶ月半が過ぎたらしい。
そんな様々な変化を眺めながら自分の席に腰をかけると、前から友人が「久しぶり」と声をかけてきた。
「修志は夏休み何やってたんだ?」
音楽漬けの日々だった、と僕は苦笑気味に答えた。それはもう、どこにいても何をしていても音楽が聞こえてきそうなほど。
そのまま会話を続けていると、間もなく校内にチャイムが鳴り響いた。体の向きを戻した友人の背中を一瞥した後で、僕は頬杖をつき教室内を改めて眺め回してみる。
そこで僕は気がついた。よく見ると一つだけいつもと違う光景がある。右前方に彩音の姿が無かった。新学期早々遅刻かと考えていると、彼女は病欠であると担任の口から告げられた。
僕は一瞬、仮病なのではないかと疑った。昨日、一切着手していなかった夏休みの課題の山を終わらせるべく、苦難の時を共にしていたからだ。その際はとても体調が悪そうには見えなかった。むしろ、無慈悲に襲いかかってくる数字や英字への嘆きや文句を声高に叫ぶほどに元気溌溂だった。もしやそこで全ての体力を使い果たしてしまったのだろうか。
適当な憶測を巡らせていると、前からプリントが回ってきた。担任の話を耳にしていなかった僕は内容を確かめるべく紙面に目を落とす。
それは、進路希望調査票だった。
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