バンド名を決めよう(1)

 音を鳴らすことに明け暮れる毎日を過ごしている内に梅雨は過ぎ、本格的な夏が到来した。


 新しい季節の訪れを喜ぶように満天には澄み切った群青が溢れ、そこここに鮮烈な陽光を受けて白を濃くする入道雲が浮かぶ。木立からは空気を震わせるような蝉時雨が降り注ぐ。町が一面夏の装いとなった頃、学校では一学期の最終登校日を迎えた。


 それは、熱気と気怠さが立ち込める体育館での終業式を終え、バンドメンバー四人揃ってホームルーム棟へ移動していた時のことだった。


「そういえば、今更なんだけどさ」


 蝉時雨の中で、ふと、圭一が口を開く。


「なになに?」と、長袖のブラウスに身を包む石川が聞き返した。学校では相変わらず右手に手袋をはめている彼女は、この猛暑の中でも上半身を完全に布で覆っている。


 そんな彼女に小さく頷き、「本当に今更だけど」と改めて前置きをして圭一は言った。


「僕たちのバンドって、バンド名決まってるんだっけ?」


 その言葉を受けた途端、石川は咄嗟に立ち止まった。釣られて僕と他の二人も足を止める。振り返ると、彼女は見事にきょとんとした表情を浮かべている。その顔だけで答えは明らかだった。


「言われてみれば、まだ決めてなかった!」


 不覚、といった風に石川は声を上げる。

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