ハロウィンの夜、再び君と会えたなら。

自由らいく

10月31日

【now a day】


 僕はアキラ。一応高校2年生だが、わけがあって学校には通っていない。


 僕には3か月前まで彼女がいた。名はアカリ。黒髪ロングのかわいらしく、元気な少女だった。


 今となってはもういない…


 彼女がいなくなってから、僕はいわゆるうつ病というものになってしまったのか、3か月間ほとんど外出していない。ヒキニートというわけだ。


 もともとは普通に人と話せたし、根暗なわけではなかったので、初めのうちは周りにはとても心配されたが、今となっては関わってくる奴はいない。




 そんなわけでいつもどおりすることも無く適当にパソコンを触っていたのだが、つけっぱなしのテレビからにぎやかな声が聞こえ、目を向ける。


 いつも写されている交差点なのだがいつもとは比べ物にならないくらい人が多い。人でにぎわっている。ほとんどの人は様々な格好をしている。


 今日はそういえば10月31日。ハロウィンだ。テレビを見るまで覚えてもいなかったイベントだし、そもそも興味がないがハロウィンについての説明が始まって思わず目を向けた。




 ―ハロウィン―


 外国では死者を迎え入れるイベントとしても知られ…




 そんな一文に目が行った。


 死者が蘇る。そんなことはあり得るはずがないし、子供でも信じない。また、普通に連想するのはハロウィンでも定番のゾンビなどだろう。


 ただ、この一文を見たせいで勝手に足が動く。まるで操られているかのような足取りで外へ出る。3か月ぶりの外出だ。


「アカリ…」


 そんなことをつぶやきながら夜の街を歩いていった。






 街中はお祭りムードで仮装した人々であふれかえっていた。久々に外に出て、人混みで疲れた僕は近くの喫茶店に入った。


 そもそも行先などないし、自分でもよくわからないまま歩き出したので、いち早く休みたく戸を引いた。




 中に入るとカウンターには高校生くらいの男女がいた。楽しそうに話している。カップルでバイトをしているのだろうか。


 とりあえず一人でカウンター席に座る。


 すると男子高校生の方が僕に気づいたのか定番のセリフを口に出す。


「いらっしゃいませ。ご注文が決まりましたらお呼びください。」


 うっすら聞き覚えのある声だった。中を見渡せば店内の落ち着いた雰囲気も見覚えがある。


 そうか。ここはアカリとのデートで来た店だった。


 中の落ち着いた雰囲気と、男女のバイト店員が印象に残っている。




【bygone day】


 僕はあの日の事はなるべく思い出さないようにしていた。


 思い出してしまえば、あの日々が懐かしくなってしまうから。


 消えた日々にすがって今の何もない自分が悲しくなってしまうから。


 だから彼女の事も思い出さないように外に出なかった。


 思い出さないように外出しなかったのに、外へ出てしまった。


 思い出す懐かしい日々。


 懐かしい教室、二人で歩いた通学路、よく行った場所、


 この喫茶店は最後に彼女とデートをしたときによった場所だった。


 二人で一緒にコーヒーを飲んで、一緒に笑った。そして思い出す。


 その後に起こった出来事を…




【now a day】


 それから僕はコーヒーを注文した。


 そのコーヒーはやはり飲んだ覚えのある味だった。


 ただ、落ち着くことはできなかった。飲み終えた後、会計をして店を出た。


 その後、長い間、訳も分からないまま歩き続けた。


 気が付けばとある交差点へ着いていた。


 さっきテレビに映っていたところとは違い、交通量は少なく、人気のない交差点だ。


 そこで僕は自然とあの子の名前を呼んだ。


「アカリ…」






【bygone day】


 あの日、僕らはあの喫茶店で店員に見られながらも、ひと時を過ごして一日の最後にディナーをいただく予定だった。


 途中この交差点に居た時の出来事だった。


 一緒に他愛もない話をしながら交差点を渡っていた。信号は青だったにも関わらず、右側からトラックが飛び出してきた。


 僕は驚いて固まってしまっていた。そんな時強く背中が押された。


 地面に勢いよく手をついて痛みを感じていたが、それどころではなかった。


「ごめんね」


 そんなささやきが聞こえた後、隣では何かが砕けるような音がした。


 隣を見ると顔が潰れてしまい、誰だか分からなくなってしまった人型の物体が、赤い液体でできた水たまりの上に転がっていた。


 僕は何が起こったかわからないまま呆然と立ち尽くしていた。




 後から聞いた話によると、近くを通りかかった人が通報してくれ、僕は無傷だったが、意識を失っていたらしい。


 トラックの運転手は逮捕。飲酒運転だった。


 ただ、それに苛立ちを覚えるわけもなく、ただ一つの出来事が理解できず、呆然としていた。


 それは僕の隣をいつも歩いていたアカリが死亡したという事実。




 それから僕は3か月間引きこもっていたわけだが何故か足が動き出した。


 でも、なぜ動き出したのか今ではわかる。


 今、目の前には死んだはずのアカリがいた。




【now a day】


「アカリ…」


 僕の目の前には死んだはずのアカリがいた。


 見覚えのある黒髪を後ろに垂らし、いつもの立ち方で。あの時と同じ服装で。


 ハロウィンだからこんなことが起こってもおかしくないと思っているのか、はたまた相手がアカリだからか、恐怖心などは湧かなかった。


 ただ、これが夢であるかのように、


 いつもどおり、明るく、柔らかい笑みを浮かべながら話しかけてくる。


「久しぶりアキラ。驚いた?」


「久しぶりだね。アカリ。」


 僕は平然と話しかける。


 ただし、アカリと再び会ってしまったことで、あの日の後悔がこみあげてくる。


 あの時、なぜ僕は固まってしまったのか。アカリを救えなかったのか。


 自然と涙が込み上げてきた。


 すると何かが近づいてくる。


 ふと、見上げるとアカリに僕は抱きしめられていた。


 ただし、懐かしい甘い匂いはしない。こういう所は死んでしまっているからなのだろうか。


「ごめんね。私が死んじゃったせいで辛い思いをさせたね」


 ああ、助けられて、何もできずにここへ来て、アカリに慰められて、僕ってかなりだらしないのかもしれない。


「そんなことはないよ」


 アカリが優しい声でそう言った。


 死んでしまった後、心も読めるらしい。


 ただし、僕は今のこの気持ちをきちんと口で伝えたくて声を出す。


「せっかくアカリに助けられて、僕は何もできないままここにいる。アカリがいないとダメなんだ。アカリが、アカリがいないと…」


 すると彼女は微笑んで返す。


「大丈夫。私の事はもう忘れていいよ。新しい彼女を作っても全然かまわない。私はもう死んでいるんだから」


 彼女はそう言うがそんなことができるはずがない。


 彼女と過ごした楽しい日々を忘れられるはずがない。新しい彼女なんて、君以外と付き合えるわけがない。


「最後に嬉しいことを言ってくれるね。でも、私と会うのは今日が最後、もう私の事は忘れて。」


 気づけば彼女も泣いていた。


 そんな顔されたらもう離れられるわけがない。一緒に居続けたい。


 そう願って僕は彼女を強く抱きしめる。


「じゃあこうしようか」


 そう言って彼女は僕を抱きしめていた手をいったん離し、僕は差し出す。


 僕がその手を取ると彼女は横断歩道の真ん中へと僕を連れて歩いた。


「少しだけ痛いのは我慢してね」


 その言葉が合図だったかのように右側からトラックが飛んでくる。


 でも、恐怖心はない。


 だってこれさえ耐えればアカリと一緒に居続けられるから。




 アカリが見守る中、トラックが衝突し、右側に衝撃が走った。


 ただし、アカリと一緒に居られるようになるという喜びからか、あまり痛みは感じない。


 地面に倒れこむと、最後に見えたのはあの時と同じ赤い水たまりだった。


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ハロウィンの夜、再び君と会えたなら。 自由らいく @Raikdam

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