第28話 3人のゴブリン退治


 しばらく森を歩いていると洞窟が見えてくる。

 道中では関係ないモンスターも出て来たけどバンライさんとミレイユで倒してくれた。ありがたいけど私の戦闘経験がないまま来ちゃったよ、いいのかなあ。楽なのは問題ないんだけど……。


「ゴブリン、いましたわね」


 ミレイユの言う通り洞窟からゴブリンが9体出て来た。丁度いい数とタイミングだ。あの9体を倒しちゃえば今回の依頼は達成出来る。


 でも何だろう……さっきの個体と同じだ。

 全員何かに怯えた顔をしている。2人は特に気にした様子がないし私の気にしすぎ? それとも、ゴブリン達が恐れるモンスターが近くにいる? もし後者だったらマズい、手早く依頼を達成しないと。


「9体、みんなで倒そう!」


「賛成です。バニア、あなたの実力もしかと見させてもらいますからね」


「あいつらを倒せば依頼達成だよ2人共! 私も2人のサポートするから頑張ろうね! もちろん私だっていっぱい倒しちゃうよ!」


 背中にある短剣を抜いて構える。

 今日は軽弓を使わない。ゴブリンはミレイユの〈アイシクルランス〉だって砕いちゃったんだもん。まだ慣れない私の軽弓の矢なんて絶対に当たらないし、叩き折られるのがオチだ。動きを止めるくらいなら出来るけどダメージはたぶん通らない。


 向こうも臨戦態勢。棍棒を構えて立ち止まっている。

 行くよっ! 1体でも多く倒す!


 思いっきり走って短剣を振りかぶり、真上から振り下ろすと棍棒で受け止められる。やっぱり強い、びくともしない。力押しなんて絶対に出来ない。


 うわっ、弾き返された……! でもその程度でめげないよ!


 後ろによろけたからゴブリンはチャンスだと思ったみたい。連続で棍棒を振るってくるけど紙一重で何とか躱す。こうして連撃を回避し続けていればいつか隙が出来る……今! 今か好機!


 ゴブリンの胸に気合を入れて短剣を突き刺す。

 引き抜くと紫色の血が噴き出して、私の衣服に少し付着した。うげっ、昨日の今日でまた服が汚れちゃったよ。今日は気を付けようと思っていたのに。


 ゴブリンはもう力が入らないみたい。地面に倒れたら動かなくなった。青白い球体が出てきて私の胸に吸い込まれていく。

 あれ、レベル上がった感じがしない。倒したのに。


「危ないバニアちゃん、後ろ!」


 背後に影。振り返れば別のゴブリン。

 もう棍棒を振りかぶっているし避けられない。来る、殴られる……! どれだけ痛いのか想像もつかないけど、ミレイユの〈アイシクルランス〉を砕いたくらいだしきっと凄く痛い。腕をクロスさせて胴体の直撃だけは避けないと戦えなくなっちゃう。


「〈サンダ〉!」


 バンライさんの声が響く。

 上空に突如として現れた黒雲。雨でも降り出しそうなそれは随分と小ぶりだ。これはたぶんバンライさんのスキル……違う、魔法だ。


 私の目の前にいるゴブリンに黒雲から降った。

 雨じゃない、ジグザグの細い光が降ったんだ。

 肉が焼けるような匂いがしてゴブリンは脳天が焦げている。一瞬で死亡したらしく地面に崩れ落ちる。


 びっくりした……。今のは、雷系魔法……。

 魔法には属性があるって聞いたことがある。炎とか、氷とか。バンライさんのジョブは魔法が得意なウィザードだから使えてもおかしくない。熟練度を最高まで上げれば上位のジョブになれて、アークメイジになったら使える魔法も増えるらしい。


「あ、ありがとうバンライさん!」


「うん! サポートは任せて、バニアちゃんはバニアちゃんで思いっきり戦っていいよ! 攻撃が来そうなら私が防ぐから!」


 バンライさんの補助もあって攻撃に専念して戦えた。

 最低限の警戒をしているだけでいい。後ろからの奇襲は何とかしてくれるから、1体1体集中して倒せた。


 まあミレイユは協力なしでも、ウィンと一緒に戦って楽々ゴブリンを撃破していたけどね。それに比べて私は真っ向からの勝負で苦戦は免れない弱さ。いっぱいモンスターを倒して早く強くなりたいな。


 数分でゴブリン9体を倒すことが出来た。3人プラス2頭の戦力だからってのもあるけど怪我人はゼロ。かなり安全に依頼を終えられたと思う。倒していたらレベルも2から3に上がったしよかった。


 それにしても、洞窟の傍に行くまでは危険だと思えたのに、いざ来てみれば何事もなく終わった。私の考えすぎだったのかな……。

 色々考えているとミレイユが私の名前を呼んで歩いて来る。


「ゴブリンに苦戦するようではまだまだですわね。でも焦る必要はありませんわ、私達だって鍛え始めた頃は似たようなものでしたから」


「うんうん、バニアちゃんは強くなれるよ。あ、もちろん私達も負けるつもりないからね!」


「そっか、私よりも結構強い2人も最初から強かったわけじゃないもんね。まだまだギルドで働く生活は始まったばっかりだし、これからもっともっと強くなるぞー」


 チームに加入するのもアリかも。2人がいる『薔薇乙女』なら上手くやれそうな気がするし、純粋に楽しそう。あーどうしようかなあ。


「ふ、それでこそ我がライバル。さあギルドに戻りましょう」


 私とバンライさんは「うん!」と頷く。

 その時、地面が揺れた。

 えっ、何々これ!? 地震!?


 何か大きなものが動いているのか地響きが止まらない。私もバンライさんも目を丸くして大慌て。ミレイユは冷静に状況を把握しようとしているみたい。


 地響きの原因は何なのか。分かっちゃった。

 洞窟の奥から1体のモンスターが出て来た。赤い肌で私達を遥かに上回る巨体。手にはトゲトゲの鉄製棍棒を持っていて、服はゴブリンと同じ腰蓑。見て分かる、あれは私達が倒せるような相手じゃない。


「オーガ……」


 汗を額から垂らすミレイユが震えた声で呟いた。

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