第27話 ゴブリンVSミレイユ
決意を固めて森を歩いていると、見たことのない生物が視界の奥から向かって来るのが見えた。
バンライさんより濃い緑色の肌であり、何かから逃げているみたいに走っている。手に棍棒を持っているそれはモンスター、見た目からおそらくゴブリンって奴なのかもしれない。
小人っていうのかな、表現するならそれが近いと思う。身長が低い私よりもさらに低い、お腹に届いているかってところ。モンスターなのにくたびれた藁みたいな素材で作られた服まで着ていた。顔は怖い。眉間にシワが寄ってるし、目もギラギラしてる。鼻が人間の2倍は大きい。開いた口からは牙が見えている。
「あら、出ましたわね。随分と急でしたが」
「やっぱりあれがゴブリン?」
「そうですわね。まあ、群れてもないゴブリンなど大したことありませんわ。私達なら瞬の殺ですことよ」
ミレイユの言動からは強い自信が伝わってくる。
私とは違うな。私はまだモンスターとの戦闘が少し怖いし、クリスタもいないから不安に思っちゃってる。ダメだダメダメ、ミレイユ達を信頼しないと。きっと大丈夫大丈夫。
「ね、ねえ、おかしくないかなミレイユちゃん。ゴブリンは普段洞窟とか薄暗いところを根城にしているって、マヤさんが教えてくれたよね? まだ洞窟まで距離があるし、何だか様子もおかしいよ」
……それが本当ならマズいかも。
自分が感じている恐怖で気付かなかったけど、あのゴブリンも何かを怖がっている気がする。勘違いならいいけどもし合っていたら? もし、ゴブリンが臆して逃亡するしかないような存在がいるとしたら?
あのゴマみたいにとんでもなく強い奴だっているんだもん。もしかしたらこの先に今の私達じゃ太刀打ち出来ないような、とっても強いモンスターがいるかもしれない。そうだったらこのまま進むのは危ない、よね。
「気にしすぎでしょう、どうせ大した理由などありはしません。あったとして、こっちに来るのだから討伐以外の選択肢はありませんわ!」
うん、考えるのは後回しだ。
今は目の前の敵に集中。幸い5対1だしやれるはず。
「ふっ、まずはバニアに私の実力を見せてあげますわ!」
「え、1人で戦う気なの!?」
「モチのロン! あの程度のモンスター、敵じゃありませんもの!」
そう言ってミレイユが手を突き出す。
走って来るゴブリンはどんどん距離を詰めてきているけど、まだ棍棒が届くような近さじゃない。間合いに入る前に倒さないと危ない。
まだ慣れてないけど私には軽弓がある。
ミレイユが1人でやる気でも、遠距離武器での援護くらいしてもいいよね? 余計な真似を、とか怒られたりしないかな? ううん、迷ってる暇ないよ!
「待ってバニアちゃん」
軽弓を手に取って構えたらバンライさんに手で制された。
何で……! このままじゃ危ないのに!
「大丈夫。ミレイユちゃんなら勝てるよ」
「で、でも」
「信じて。ミレイユちゃんは強いから」
私は……この目を知っている。
バンライさんのこの目、これは信頼だ。ケリオスさんがクリスタに向けていたような信頼している目だ。そんな顔で見られたら手出しする気もなくなるよ。
うん、信じよう。ミレイユの実力を。
「〈アイシクルランス〉」
ミレイユの手の先から白い気体が出て、何もない所から氷が生まれた。粒のような大きさが瞬く間に身長ほどの槍状へと変化する。
力強く「いけ」と言うと氷槍が敵目掛けて放たれた。
飛来する氷槍に気付いたゴブリンは棍棒を振るう。出鱈目に見えるような振り方でも氷槍は折れた。私が棍棒を振っても壊れそうにないのにあっさりと、砕ける。
え、いいの!? 壊されちゃったんたけど!
「ふっ、今の〈アイシクルランス〉は隙を作るためのもの。今です、やりなさいウィン! ウィンドブレス!」
ミレイユの持ちドラ、ウィンドドラゴンのウィンがブレスを吐いた……んだと思う。今の、ブレスだよね? 口を開けて何かを吐き出したように見えるのに何も出ていない。
そう思っていたらゴブリンが発音のよく分からない悲鳴を上げた。目を向ければゴブリンは鋭利なもので斬られたような傷を全身に負っており、傷口から紫色の血液が噴き出している。
何がどうなってるの? いきなり、斬られた?
「トドメの〈アイシクルランス〉!」
再び作られた氷槍が一直線に向かう。
今度はゴブリンに回避も迎撃もする余裕がないから、すんなりと体を貫通した。数歩後ろに下がってから絶命したのか地面に倒れる。
すごい、軽々と倒しちゃった……。ミレイユがこんなに強いなんて思いもしなかった。私よりも遥かに強い、私は魔法なんか使えないし。……でもこれ1人って言うのかな。正確に言うなら1人と1頭なんじゃない?
ゴブリンの死体から青白い球体が出て、ミレイユの体に吸い込まれていく。
ワイドウルフを倒した時と同じだ。あれが何なのかは分かってないんだけど、多分モンスターの魂みたいなものだと思う。勝者に敗者の経験が渡る……的な感じ。
「やはり大したことありませんでしたわね。このミレイユの前に現れたが運の尽き。バニア、見ましたか私とウィンの実力を!」
「うん、すごいよミレイユ! 私はまだ魔法使えないから憧れちゃう!」
いやー、私もいつか魔法使ってみたいなあ。
あ、ステータスを見るのって一応魔法に入るのかな。そう考えると使えることになるのか……。でも、もっと派手な攻撃魔法とかを使ってみたいんだよね。
「そういえばバニアちゃんのジョブは? 弓持ってるしアーチャーとか?」
「ライダーだよ。バンライさんとミレイユは?」
「私達2人はウィザードなんだ。だから魔法得意なの」
ウィザードは魔法専門みたいなジョブだ。ライダーは魔法とか覚えないのかなー、そういう話は聞いたことがないから覚えないんだろうなあ、残念。ガーディアンはどうなんだろう。
「2人共、先へ進みますわよ! あと9体、サクッとぶっ倒すのです!」
ミレイユの声に頷いてから奥へ歩いて行く。
ちなみに解体はちゃんとやっていて、ゴブリンの場合は牙らしいからバンライさんが引き抜いた。私もあれくらいなら出来そう。
さ、あと9体。無事に倒して帰りたいね。
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