第26話 2人の動機


 とりあえず森へ入ることにした。

 空から見た感じ、私が住んでいた森ほど広くない。ゴブリンは洞窟を根城にしているらしいから洞窟まで行かなきゃならないんだけど、わりとすぐ到着出来るかも。


 森の中ではモンスターに襲われるけど大丈夫。

 ミレイユとバンライさんの持ちドラが一緒なんだもん。2人のは小型だから狭い場所でも付いて来てくれる。


 2人の持ちドラは同種。ウィンドドラゴン。

 細身の長い体は木みたいだ、緑色だからキュウリとかの野菜にも近い。一見頼りない姿だけどしっかり人間を乗せてたし、そこらのモンスターなら蹴散らせるはず。


「そういえば、入口に置いてきたバニアのドラゴン。綺麗ですわよね。見たことないのだけれど、何と言う種族なのですか?」


「クリスタはクリスタルドラゴンだよ。2人のウィンドドラゴンだって綺麗だよ? かっこいいよね」


「そ、そうでしょう! ウィンはかっこいいのです!」

「ドーラもね、かっこいいよ?」


 ミレイユのウィンドドラゴンがウィン。バンライさんの方がドーラ。いい名前だ、心なしか2体とも嬉しそうに見える。


 それにしてもミレイユ同様バンライさんも、クリスタルドラゴンを見たことなかったみたい。

 やっぱり珍しいんだ。ケリオスさんが連れていたってだけで、どこに棲んでいるのかも分かってないんだけどね私。少なくともここら周辺にはいないんだろうなあ、誰かが連れているところ見たことないし。


「クリスタルドラゴン、その名前、どこかで……。あ、お父様の書庫で見た記憶がありますわ。遥か北の山脈にしか生息していない珍しいドラゴンだとか。バニアは北の方の出身ですの?」


「違うよ、私はずっとエルバニアの近くにある森で暮らしていたの。クリスタと……出会えたのは偶然だよ」


「なるほど、それは幸運でしたわね」


「……幸運、なんかじゃない」


 自然と表情が曇った気がする。

 幸運ならケリオスさんは死ななかった。クリスタだって本当は私なんかの持ちドラになることなかったんだ。持ちドラを持てたのは嬉しいけど、あんな形で持つことになるとは思わなかったよ。


「あ、えっと、バニアちゃんは何でギルドに入ったの!? 私達と同じくらいの歳の子供なんて珍しいから、その、気になっちゃって!」


 バンライさんに気を遣わせちゃったみたい。

 焦って話題転換したんだと思う。でもギルドに入った理由かあ、ちょっと暗い部分があるけど話していいのかな。うん、やっぱり所々ぼかして伝えよう。


 別にケリオスさんのこと詳しくを伝えなきゃいけないわけじゃない。改めて考えると出会って数日の関係だけど、そこらの知り合いよりもよほど親しくなれた気がする。彼のことを考えながら2人に理由を話す。


 親しかった人を、ゴマと名乗るドラゴニュート達に殺され、ギルドに入ったのはその死んだ人の息子を捜すため。そんな感じで上手い具合に伝えられたと話し終わってから思えた。……だけど重苦しい雰囲気になっちゃった。


 こうなるの目に見えてたよ。でも友達に嘘は吐きたくないし、隠す必要なんてないと思ったから話したんだ。後悔なんかしていない。


「ごめんなさい」


 謝ったのはバンライさんだった。

 何で謝るの……何も悪くないはずなのに。


「同じ種族の人が酷いことしたから、気休めにもならないだろうけど、私、謝りたかったの。ご、ごめんね?」


「あ、謝らなくていいよ! バンライさんはそういう酷いことしないでしょ!? 悪いのは全部ゴマって人なんだから!」


 申し訳なさそうな顔で謝る彼女に焦る。

 関係がギクシャクしなければいいけど……。そもそも私が一方的に苦手意識を持っているんだったよね。今更と思うかもしれないけど、これ以上関係が悪化しそうになるのは嫌なんだよ。


「でも、バニアちゃん、私とだけ壁があるっていうか」


 見抜かれていたんだ……。

 確かに私は苦手意識があって壁を作っていたのかもしれない。表情には出さないけど確かにあるんだよね。私だってそんなこと分かってる。だからこれから、自然に友達として付き合えるように努力したい。


 そう言うとバンライさんは「そっかあ」と安堵の表情を浮かべる。

 不安に思うほど、私と仲良くしたかったってこと? それともミレイユに気を遣わせちゃうからとか? どちらにせよ、私はそんな表情をしてくれたことが嬉しい。


 心の底から2人と仲良くしたいって思う。

 同年代の友達っていなかったし、この縁を大事にしたい。

 2人のことをもっと知りたいな。


「2人はどうしてギルドに入ったの? 私だけ話すなんてズルいよ」


「そうですわね、フェアじゃありませんわ。私も話すとしましょう。あまり良い話ではありませんが」


 ミレイユは真剣な顔つきで語ってくれた。

 エルフが多く住む国、シンモリン出身の彼女は大きな家の跡取りだった。過去、盗賊が家に押し入ってお母さんが殺されてしまい、頼もしかったお父さんがすっかり落ち込んでしまったとか。


 ある日、いきなりお父さんが借金して失踪しちゃったらしい。そこからミレイユがバンライさん含めた従者達と一緒に家を守ることになった。当然まだ子供のミレイユじゃ知識と経験が足りずに仕事が回せない。結局悪足掻きにしかならず、借金返済のために家を売却したから帰る場所はもうない。


 途方に暮れた2人はエルバニアにやって来て、子供でも働ける場所を探し求めてギルドに辿り着いたという。

 ミレイユの目標はお家の復興と、お父さんの捜索。バンライさんも今は従者じゃなく友達として力を合わせている。羨ましく思えるくらいに良い関係だなあ。


「まあ、こんなところですわ」


「とりあえず、不自由ない暮らしをするために働いてるの。ランクを上げれば、その分だけ高収入の依頼を受けられるから上を目指してるんだ。情報も集まるし、ミレイユちゃんのお父さんのこともね、何か分かるかもしれないから。バニアちゃんの捜してる人の情報も集められるかもしれないよ」


 やっぱりみんな大変な思いをしているんだ……。

 私だけじゃない、みんな辛いことがあってギルドで働いている。もしかしてギルドは居場所のない人達の新しい居場所なんじゃないかな。


 とりあえずギルドにおいて私がやるべきことは決まった。

 強くなるのもそうだけどランクを上げるんだ。昨日は何となくSランクを目指そうと思っていたけど今は違う、何となくなんかじゃない。情報を得て、まだ見ぬナットウ君や憎きゴマの居場所を掴むために上げるんだ。

 今の私じゃまだまだ未熟だけどやるしかない。頑張れバニア。

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