第25話 Dランクの依頼


 朝ご飯を食べて、出掛ける支度をする。

 少し長めの自慢の白髪に乱れがないか鏡で確認。部屋を出る前にもチェックしたけど、こういう身だしなみは何度チェックしても問題ない。他人と接する、もしくは公共の場に出る時は相手を不快にさせないことが大事だってママは言っていた。


 それに私だって恋を経験した女の子。

 誰かの前に出るなら一層見た目に気を遣うよ。失恋していても関係ない。ケリオスさんに恥じない私でいなきゃね。


 少し小さめだけどポーチを持って行く。

 モンスターを討伐した証として、モンスターごとに決まっている特定の部位を受付嬢さんに渡さないといけない。まだ解体は出来ないけどこれから常備品になりそう。

 さすがにモンスターを持って帰るのは無理。またクリスタに運んでもらってもいいけど、それにも限界があるから頼るのはよくない。


 ポーチに入れるのは討伐の証だけじゃない。昨日は持っていけなかった傷薬とか包帯とか、携帯食料だって持っていける。お弁当とか時間があれば作りたいな。

 とりあえず水筒は今日持って行くけど、中身はどうしよう。お水は無料で手に入るからいいと思うけど、やっぱりお茶かな。後でお茶を買いに行こう。


 宿屋を出てまず向かうのはドラゴン預かり所。

 クリスタを預けているところだ。有料だから引き取る際に100ゴラド払った。1晩だったからまだ安い方みたい。

 預り主のアズさんの話では、普通の人は家で一緒に暮らすから利用しないらしい。利用するのは主にギルドメンバーや旅人くらいだとか。


 次に向かうのはお茶っ葉屋さん。

 色々種類があるけど私は緑茶を選ぶ。

 ここは茶葉以外に珈琲豆も売っているみたい。珈琲は1度飲んだことあったなあ、苦くてコップ1杯飲みきれなかったっけ。


 うん、これで依頼を受ける準備は整った。

 装備よし。ポーチよし。クリスタよし。問題なし。

 ギルドの扉を開けると喧騒な室内に入る。


「待っていましたわバニア! 逃げずにやってきたようですわね!」


 入口近くにいたミレイユが正面に立つ。

 傍にいるのはバンライさんだけ。マヤさんと、あと、まだ会っていないテリーヌさんだっけ、その2人の姿は見えない。


「ミレイユちゃんってばね、ずっとここでバニアさんが来るの待っていたんだよ。違う人が来る度にしょんぼりしちゃってたの」


「バンラアアアイ! 余計なことを言わなあああい!」


 何それ、すごく見てみたい。

 寂しがりなのかな。ミレイユの意外な一面を知れた。思わず笑みが零れてくる。笑っちゃ悪いのは分かっているけど。


「バニアは笑わなあああい!」

「くふっ、ぷふっ、ごめん」


 バンライさんについてはミレイユが一緒にいれば大丈夫そうだ。あの時の私は1人になっちゃったから、ドラゴニュートの人を前にして1人になるのが怖いんだと思う。


「まったく、気を取り直してさっさと依頼、受けに行きますわよ!」


「待って、マヤさんと……テリーヌさん、だっけ? 2人はどうしたの?」


「それが……お2人は別の依頼を急遽受けることに決めたそうで。難易度の高い依頼だから私達は連れていけないとのことです。私も早くランクを上げなければ……お2方の足を引っ張るのはもう嫌ですもの」


「あのね、実はいつも私とミレイユちゃんに合わせた依頼を受けてもらっているんだ。マヤさん達がBランクの依頼を受けるのは珍しいよ」


 マヤさんはBランク。当然受けられるのもBランクまで。だけどチームメンバーのことを考えてDランクの依頼を受けているらしい。優しい人だね。

 それにしてもBランクの依頼かあ。どんな内容なのかなあ。受付嬢さんに訊いたら教えてくれないかな。



 * * *



 私、ミレイユ、バンライさんの3人は各々持ちドラに跨って依頼場所へとやって来た。ここは洞窟がある小さな森の入口。どうして洞窟があるのが分かったかっていうと空から見下ろしたんだよね。まさに一目瞭然だった。……とはいえ、降りるのに森の木々が邪魔だから洞窟前には降りられなかったけど。


 来る道中、2人もドラゴンに乗れることに驚いたのを話題にした。

 私はライダーになったから楽に乗れたけど、やっぱり2人は大変だったみたい。振り落とされたりしても滅気ずに挑戦し続けて、実際完璧に乗れたのは1週間後だったらしい。ちなみにそれでも2人は優秀な部類。下手な人は1年経っても乗れないとか何とか。そこまでいくと向いてないってことかな。


「さて、到着しましたわね」


「ゴブリン10体かあ、大丈夫かなあ。マヤさん達もいないのに」


「何を弱気になっているのです! 元々この依頼はDランク、私達に達成出来ないはずがありません。それにバニアだっているから3人なのです。ゴブリン10体程度楽勝、ラクのチンですわ!」


 あはは、不安だなあ。

 笑顔が引き攣っているのが分かる。


 私はDランク上がったばっかりなんだよね。確かに今日はDランクの依頼を受けようと思っていたけど、様子見で採取依頼にしようと思っていたし。……なのにいきなり討伐依頼だなんて。やっぱり断るべきだったのかな。

 3人って言ってるけど私戦力になるか怪しいよ。


「ねえ、ゴブリンってどんなモンスターなのかな?」


 私が知っているのはワイドウルフとか、あの近所の森にいたモンスターだけ。ゴブリンは名前くらいしか聞いたことがない。確か見つけても近付いちゃダメとかママに言われた気がする。


「え、知りませんの? モンスターの情報はギルドメンバーにとって大事ですわよ。次からは受付嬢に訊いておきなさいな」


「受付嬢さんは知ってるんだ」


「当然でしょう? どんなモンスターか把握していなければ解体出来ませんし、証拠の部位を持って来られても分からないではないですか。彼女達はこの世に存在する全てのモンスターの知識があるのです」


「ほんと!? すっごーい!」


 私はちょっとしか知らないのに凄いや。

 ゴブリンについてはミレイユが得意気に語ってくれた。


 明暗は個体差がある緑色の肌。背は私のお腹くらい、バンライさんなら太ももくらいの小ささ。それでも力は強くて、基本的には棍棒のような手作りの武器を持っている。何より1番気を付けなきゃいけないのは性欲が強いこと……だとミレイユは言う。


 もっと強い性欲のモンスターもいるらしいけど危険は変わらない。捕まったが最後、死ぬまで子供を作らされるらしい。でも子供ってどう作るんだろう、知らないや。私もどうやって生まれたんだろう。

 素直に知らないと言ったら2人に目を丸くして驚かれた。教えてと言ったらそっぽ向かれて教えてくれなかった。説明くらいしてよー気になるじゃん。 


「さあさあ、もう出発しますわよ」


「残念だけど、バニアちゃんのドラゴンは……その、連れていけないね。狭い場所は小型のドラゴンしか通れないから」


「……だよねー。森の入口が狭いなって思ってた」


 場所によってはドラゴンも通れない。

 超小型、小型、中型、大型、超大型に分けられている中でクリスタは中型。狭い場所には無理やり連れていけない。無理に入ったら森の木々が当たって痛そうだしね。でも、パートナーの助けを求める声が聞こえれば強引にでも入ってくるケースがあるらしい。


 クリスタもそれくらい出来るよね? 来てくれるよね……ね?

 こくこく頷いているし大丈夫か。よかった、ありがとう。

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