第22話 Dランクへの昇格


 青白く丸みを帯びたクリスタルドラゴン、クリスタの背に乗って私はエルバニアにあるギルドへ帰還した。今度はスカイフリーパスがあるのでわざわざ門から入らなくてもいい、空から入れると通行者も少ないから実に楽ちんだ。


 扉を開けてクリスタと一緒に中へ入る。ガヤガヤと賑やかなギルド内はまだ慣れないけど、いつかこの賑やかさにも慣れる日が来るのかなあ。

 見渡す限り居るのは獣人、エルフ、悪魔、天使、吸血鬼、デュラハン、ヒューマン、ドラゴニュート。みんなと友達になれたらいいな。……ドラゴニュートの人はまだ抵抗あるけど。


 そんかことを考えていた時、異変が唐突に起こった。

 いきなりみんなが静まり返っちゃった。お酒で乾杯していた人達も、雑談していた人達も、騒がしかったみんなみんな静かになった。そしてこっちを見ている。


 私とクリスタが歩くとみんなの視線も追ってくる。

 え、えっと……何なのかな。なんかみんなすっごい見てくるんだけど。これでもかってくらい凝視してくるんだけど。私何かしちゃったっけ。まだ帰ってきたばっかりだよ? みんな良い人なのは知ってるし、帰ってきちゃダメってことはないと思うんだけど……。


 私とクリスタの足音だけがギルド内に響く。

 気まずい……。本当に何なんだろうこの空気。

 嫌な感じのまま右奥のカウンターへと歩いていく。


「……あの、依頼、達成、したんです……けど」


 右奥カウンターにいる黒い長髪のお姉さん、受付嬢さんへと話しかける。

 周りと同じで受付嬢さんも真顔でジッと見てくる。何だか怖くなってきた。私、何か間違ったことしちゃったかな。


「おめでとうございまっすバニア様!」

「は、ふぁい!?」


 いきなり笑顔になった受付嬢さんが頭を下げてきた。

 そしてそれに続いてみんなが笑顔になった。


「おめでとう!」

「心配してたぜ!」

「やったじゃんか」

「イエーイ! ヒューヒューヒュウ!」

「これでようやく見習いみてーなもんだぜ!」

「応援してたわ!」


 あわわわわっ、一気に賑やかになった。

 心配も応援もしてくれていたんだ。やっぱりみんなは良い人だなあ。ちょっとノリが怖いところはあるけど。

 みんな大袈裟だよね。私が受けたのはちゅーとりあるだっけ? 初心者中の初心者がやるような依頼だったっていうのに。まるで物語の中で魔王でも倒してきたみたいな喜びようだもん。


「それでは依頼品の確認を。フォレスキノコ5本の納品、ギルドカードの提示をお願いします」


 みんなに負けないくらい元気よく「はい!」と返事をしてみた。

 フォレスキノコか、実は今回ポーチとかの収納するやつを忘れちゃったから矢筒の中に入れていたんだよね。今だから心配しちゃうけど大丈夫かな。矢で傷が付いてないかなあ。


 背負っていた矢筒を床に置いて中を確認。中から柄が白、カサが緑色のキノコ5本を取り出す。うん、よかった、目に見えるくらい酷い傷はないみたい。……次からは鞄とか忘れないようにしよう。

 受付嬢さんに「どこに入れているんですか」と呆れ気味な口調で言われた。本当にその通りです。


 フォレスキノコ5本とギルドカードをカウンターの上に背伸びしながら置く。これだけなら受付嬢さんに持ち上げられることもないね。


「はい、確かに受け取りました」


 青く丸い水晶にギルドカードが翳されて、ピッという音がしてから返してくれた。

 受付嬢さんは「それで……」とクリスタを一瞥する。


「隣のドラゴン、クリスタルドラゴンですよね。随分と珍しいですが……バニア様の持ちドラですか?」


「はい、一応。クリスタです」


「ワイドウルフを咥えているように見えますが」


「依頼の途中で倒しました。でも解体は出来ないし、ギルドの人に任せられないかなあと思って……やっぱりダメですか?」


「いえいえ、解体が苦手な人もいらっしゃいますし、そういった方々の討伐したモンスターの解体は我々が引き受けるようにしています。そちらも受け取りますね」


 そうなんだ、じゃあ私も解体しなくていいのかな。いやでも1回くらいはやってみた方がいいと思うんだよね。もちろんやり方は教わらないといけないし、出来ることならやりたくはないけど。ずっと任せっぱなしだと受付嬢さんも大変だろうし。


 受付嬢さんがカウンターから出て、クリスタからワイドウルフを受け取った。まるで紙でも持つみたいに軽々と持っている。私を片手で持ち上げたことといい受付嬢さんは力持ちだなあ。

 ワイドウルフの遺体はカウンター内の床に下ろしたみたい。まあカウンターにはフォレスキノコがあるし邪魔になるもんね。


「今受け取らせて頂いたワイドウルフ1体で、今回の採取依頼と合わせて討伐依頼も達成出来ますけれど、いかがなさいましょうか。一石二鳥だと思いますが」


「いいんですか!? 是非お願いします!」


 それが出来るなら絶対そっちの方がいい。

 せっかく倒したんだもん。もしかしてクリスタはこれを分かっていたから咥えていたのかも。……買い被りすぎかな。


「はい。ではもう一度ギルドカードの提示を」


「分かりました」


 ギルドカードを渡す。受付嬢さんは同じように水晶に翳してから返してくれた。


「チュートリアルの採取依頼、討伐依頼を達成したことによりバニア様はランクアップいたしました。どうかご確認ください。ふふ、ギルドに登録してからDランクへ上がった最速記録更新ですね」


「ヒューヒューランクアップ!」

「Dランクヒューウウウ!」

「期待の大型新人! 最速記録更新!」


 みんな、騒ぐタイミング見計らって相談してるでしょ。絶対みんな私よりランク上だよね。こんなに騒ぐ必要あるかなあ。


「あ、ほんとだ。変わってる」


 緑色のカードをよく見てみると、ランクとステータスが変動していた。

 ランクはEからD。

 ステータスはレベル1のものから2のものへ。

 こんな風に変わっていくんだなあ。いつかはこのランクの欄がSになるように頑張ろう。やっぱり目指すなら1番上だよね。


「Dランクになって変わることを説明させてもらいますね。重要なのでよくお聞きください」


 受付嬢さんが語ってくれたのは2つ。

 まず、当然かもしれないけど依頼の難易度が上がること。

 全体的に見ればDランクじゃそんなに討伐依頼も難しくないだろうけど、まだレベル2の私にとっては脅威かもしれない。勝てないモンスターに遭遇したら依頼達成未達成関係なく即逃走。当たり前だよね。


 次にチームについて。

 Dランクから依頼を誰かと組んで出来るみたい。

 チームは自分で作るもよし、誰かのところに入るもよし。あんまりいないけどチームを組まない人はソロと呼ばれているらしい。


 初心者、つまりEランクの人が組めないのはいじめってわけじゃない。これからギルドでやっていけるか、依頼をこなせる程度の実力があるかなど色々確かめるためみたい。

 もし採取依頼も討伐依頼も達成出来なくて、何も出来ないまま30日が経ったら解雇……クビらしい。今までそういう人は少なからずいたとか。そう考えると初日で達成出来てよかった。


「俺とチーム組もうぜバニア!」

「あ、ずるい! こいつのより僕のチームにおいで!」

「ちょっと抜け駆けはなしよ! 女の子だし私のところに来てみない!? チーム『薔薇乙女』は女の子しかいないし安全だよ!」

「我が『白狼の牙』に来い。歓迎するぞ」

「ばかっ! バニアちゃんが入るのは俺達『疾風迅雷』に決まっているだろ!」

「はあ!? 僕達『猫耳を愛する会』に決まっているでしょう! あの子の猫耳姿は想像しただけでも悶え死にそうなんだぞ!」


 あわわわわ、みんなすごい勢い。


「すみませーん! 一旦保留でお願いしまあす!」


 とりあえず最後の人のところだけは行かない。仮にもギルドマスターが猫の獣人なのにその名前はいいのかなあ。ミヤマさんって怒ったら怖そうだけど、これはちゃんと知ったうえで放置してるの? それとも知らないの? 後者だったら怖い目に遭いそう。


 チームを組むかどうかは悩むなあ。

 ケリオスさんは1人だった。ソロだったのかな、そもそもギルドメンバーだったのかな? ミヤマさんは名前を知らなかったみたいだけど。あれだけ強いんだし、ギルドメンバーだったらみんな知ってそうだよね。


 ソロは危ないかもだけど、クリスタがいるし、いざとなったら乗って逃げればよさそう。クリスタは強いから大抵のモンスターはイチコロだしね。危険から逃げてエルバニアまで帰ってこれるならソロでいい気がする。


 ギルドのみんなは優しいし一緒に仕事してみたいけど、今の私は強くならないといけない。ソロの方が経験は積めそうなんだよね。……後でじっくり考えよう。今すぐ結論は出せないや。

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