第21話 初めての戦闘
まずは軽弓。背中にある弓を構えて、矢筒から1本の矢を取ってセット。
貧弱な私でも結構引き絞れる。さすが筋力のない子供専用とまで言われている弓だ。
ゆっくりと引き絞って、限界までいって――放つ!
ワイドウルフがこっちに気付いてギョッとする。でももう遅い。
矢は真っ直ぐに飛んでいって――手前の地面に刺さった。
さすがに初心者が最初っから扱える武器じゃなかったか……。私、下手糞すぎないかな。動いてなかった的にすら当てられないなんて……。
攻撃を外しちゃったからピンチだ。
とりあえず軽弓はもう使えない。これは中距離用だけどもうワイドウルフは敵意満々、唸りながら徐々に足を進めている。睨まれてるし、いつ飛びかかられてもおかしくない。距離を詰められたら軽弓よりも短剣で戦った方がいいはずだし。
軽弓を背負って、短剣を鞘から引き抜く。
少し身を屈めたワイドウルフが一気にこっちへ跳んで来た。怖い、怖いけど動いてね足! 大きく開けられた口での噛みつきを躱すため、右に全力で回避。重すぎない短剣を型も何もなく思いっきり大振りすると、ワイドウルフは飛び退いてこちらを相変わらず睨んでくる。
そんな時、クリスタが敵に口を向けて何かを吐き出そうと――。
「ダメええええ! 私の獲物、奪わないで!」
言葉が通じないとしてもこればっかりは譲れない。
「心配しないでクリスタ! 私、1人でも戦えるんだから!」
奇跡が起きた。クリスタが口を閉じて頷いた。
声に反応しただけか、はたまた想いが通じたのか。分からない。分からないけど、私を大切に思って信じてくれているのは分かる。期待に応えなくちゃ私は彼女の契約者じゃいられない。
「うあああああああああ! 絶対に倒すんだあああああああ!」
私の大振りの攻撃は回避されて、ワイドウルフからの攻撃を私も回避する。
戦いなんて呼べるほどのものじゃない。剣を振ったこともない素人だし、みっともないのは誰よりも自分が分かっている。結局回避しきれなくて鋭い爪や牙が腕とか肩に掠る、ワンピースも肩が少し破けるし傷口から赤い血が滲む。でもそんなことを
右頬の傷口から紫の血が垂れている。斬れた、斬れたんだ。
疲れて足は震えているし、息も上がっている。それでも一撃入れたよクリスタ。
ワイドウルフは明らかに怒っている。私みたいに弱そうな女の子に傷付けられたからか、目が血走っていてもっと怖くなる。
怯えて動けなくなったりしないよ。疲れはあるけどまだ動ける。このまま勝ちまで一直線に突き進む、立ち止まってなんていられない。
ワイドウルフが口を大きく開けてこっちに走って来た。
食べようとしているんだ。私を、この私を、私自身を奪おうとしている。
そうだ、戦いは命の奪い合い。私は私から何かを奪おうとする奴を許さない。たとえ誰であっても、どんなに強い相手であっても許せない。ケリオスさんを奪ったあのドラゴニュートの男だって……!
奪われるくらいなら、私は……奪う側になる。命すら……奪う。
「奪えるもんなら……奪ってみろおおお!」
背中にある矢筒から矢を一本手に取る。
矢を取ったからって軽弓を使うわけじゃない。矢は何かを刺す、貫くために先端が鋭い。こんな物が口の中に入ったらさぞ痛いと思う、私だったら絶対入れたくないね。自分が嫌だと思うことは相手も嫌な可能性が高いから絶対にやっちゃダメってママが生前言っていた。……けどさ、いざ戦う時になったら効果的なんじゃないかな。
私は弓が下手糞だ、今は何回やっても当たる気がしない。――だがら素手で思いっきりワイドウルフの口へ投げ入れた。
先端の尖った部分が刺さったのか、金の瞳を驚愕で丸くした狼は悲鳴を上げて足が止まる。大きく開いた口を閉じて矢を噛み千切る。敵は
「トドメだあああああああああああああ!」
ママに教えてもらったことが脳裏を過ぎる。
私達って何があったら死んじゃうの? なんて質問を興味本位でした時にママは言っていた。私達みたいに生きている人達は頭に脳っていう部分があって、それを壊したりしたらいつも通りの日常を送れなくなる。胸にも心臓って部分があってそこも同様。この短剣で刺したりしたら絶対に死んじゃう。
私はワイドウルフの脳を短剣で貫いた……と思う。見えないけど。
「グギャアアアアアアアアア!?」
死ぬ前の悲鳴は断末魔っていうのを絵本で見たことがある。きっと、灰色のふさふさした毛を持つこの狼が上げた悲鳴もそれだ。あまり聞いていて気分がいいものじゃない。短剣を引き抜くと紫の血がドバっと出てきて、白いワンピースと顔に少しかかっちゃった。
ワイドウルフの体は地面に倒れて動かなくなる。倒したのかな……。
不安に思っているとワイドウルフの体から青白い球体が出て、私に向かって吸い込まれた。そして球体と同じ色のオーラが体から噴き出る。今までこんなの見たことないけど不思議と落ち着く。ほんのちょっとだけ体が軽くなったような……。
「あ、もしかして!」
青白いオーラの噴出が止まって見えなくなる。
さっきの出来事、思い当たるのは1つだけ。私は慌てて「ステータス」と唱えると目前に青くて透けている板が出現した。
【名 前】 バニア
【レベル】 2
【ジョブ】 ライダー・ガーディアン
【熟練度】 ☆
【生命力】 6/20
【魔法力】 9/9
【攻撃力】 8
【守備力】 11
【聡明力】 9
【抵抗力】 11
【行動力】 9
【ラック】 4
【持ちドラ】 クリスタ(クリスタルドラゴン)
やっぱりステータスが変動してる。レベルが1から2に上がって全体的な数値が増えてる! これで私は強くなれたってことだよね。ケリオスさんと比べればすっごく弱いけど。
あれ、ジョブのところ……2つ表記されている。私の元々のジョブだったガーディアン。今も右耳の上辺りに付いている髪飾り、デフォルメされたドラゴンの顔みたいな装飾品【竜騎の証】のおかげでなれたライダー。どうしてこの2つが表示されているんだろう。
まあ細かいことはいいや。
今は初依頼、初戦闘を見事にこなしたことを喜ぼう。
笑顔になると、突然クリスタが大きな手を私の白い頭に乗せてきた。
「うわっ、何するのクリスタ~」
よくやったねと言わんばかりに滑らかな手で頭を撫でてくる。
褒めてくれているんだろうし嬉しいけど髪がボサボサになっちゃうよお。女の子は髪型セットするのにちょっと時間かかるんだぞお。クリスタには髪の毛がないから分からないだろうけど。……髪の毛は女の命って言うけど元からない生き物はどう認識しているのかな。
短剣を鞘にしまってから強引に頭ナデナデから抜け出して、私は笑顔のまま「帰ろっか!」と言ってから彼女の背によじ登る。
戦利品のつもりかワイドウルフの遺体を咥えた彼女はエルバニアへと歩き出した。
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