第17話 ギルドマスター
目をゆっくりと開けると、私はいつの間にかソファーに寝かされていたことに気付く。こうなった原因はまるで分からないけど何だか首が痛い気がする。
「あ、起きたね。ここはギルドマスターの部屋にゃん」
聞き慣れない声を聞いて、ゆっくり上体を起こして周囲を見渡す。
私が寝ていたのは猫さんのソファー。目前にある机は可愛い猫さんの顔がでっかく描かれている。壁に飾ってある絵が入っている額縁も猫の頭みたいな形。このお部屋は至る所に猫グッズがあるみたい。
そして姿勢を正してから対面したのも猫型獣人さん。確かギルドマスターと呼ばれていた偉い人だ。記憶の最後はこの人が目の前にいたところが最後だし、何で私が偉い人の部屋で寝ていたのかが分からないなあ。迷惑かけてないといいけど……。
「私の名前はミヤマ。この世界では王都エルバニアにあるギルドのマスターをしているにゃん。君みたいな小さい子供が何の用かにゃ?」
あ、その前にどうして私が倒れたのか聞きたい……声が出ないんだった。
どうやって伝えればいいんだろう。筆談が出来ればいいんだけどペンは見当たらないし、窓際の机に山積みになっているのはたぶん使ったらいけないだろうし。とりあえずジェスチャーでもやってみようかな。
ケリオスさんをイメージして剣を握るイメージ! ぶんぶんと振って攻撃! そしてゴマをイメージして悪人顔で魔法を発動……は出来ないから動きだけ! 最後に上半身と両腕で炎を表現して苦しむ! こうしてケリオスさんは亡くなってしまったのです……涙出てきた。
「ええっとお、何がしたいのかにゃ……?」
私が知りたいです。涙を手で拭ってから考えてみれば全然伝わらないジェスチャーだった。もっとうまい方法を考えないといけないけど何も思いつかないよお。
「……もしかして喋れない?」
うーんうーんと頭を抱えていたらミヤマさんが察してくれた。
バッと顔を向けてうんうんと頷く。良かった、これで筆談のための紙とペンを持って来てくれるかもしれない。
「
いきなりミヤマさんが私の顔の近くで両手をパンと叩いてきた。
勢いも強かったし音も大きいからビックリして「うひゃああ!?」と跳びはねる。心臓に悪い、これは誰でもビックリしちゃうよ。
「もービックリしたじゃないですかミヤマさん!」
「それはごめんね? でも何か気付かないかにゃ?」
「え? あ、あれ……声、出る」
私の声なのに何だか久し振りに聞いた気がする。でもさっきまで喋れなかったはずなのにどうして今は喋れるのかな? さっきの両手パッチンと何か関係が?
「精神的ショックを受けて一時的に発声出来なくなっていたみたいだにゃん。まあ私にかかればこんな症状1発で治せるからね、軽い軽い。さあ今度こそお話を聞かせてにゃん」
よく分からないけれど治ったなら良かった。これで話せる。
私はそれから最近の出来事を話した。
とっても強いケリオスさん、クリスタとの出会い。
終末の谷って場所でゴマ達に襲われたこと。
ケリオスさんが……死んだこと。
「ふーん……なあるほどなあるほど、それはそれは大変だったねー。よく1人でここまで来れたもんにゃん。小さい子なのに偉いねー」
いつの間にか涙が流れていた。ああ、こんなに泣いてママに怒られるかなあ。
泣いてしまった私を見たからかミヤマさんが頭を優しく撫でてきた。優しすぎてくすぐったいけど気持ちいい、頭がほわほわしてくる。でも子供扱いはあんまり好きじゃない。
「むぅ、子供扱いしないでください」
「おっとっと、ごめんにゃん」
謝ったミヤマさんは手を引っ込める。
「しかし解放軍にゴマ……ね。ここ数年で一気に増加したドラゴンと他種族の関係崩壊はそいつの仕業にゃんね。いやはや、これは貴重な情報にゃん」
「お役に立てて良かったです。その……あの悪いドラゴニュート……ミヤマさんなら、ギルドの人達ならやっつけてくれますか?」
ギルドの人達は困っている人を助けるのが仕事のはず。ゴマ、他の2人もそうだけどあのドラゴニュートを放っておけば絶対に困る人が増えていく。もう誰にも私みたいな思いをしてほしくない。
「うーん……それは無理にゃん!」
「え?」
「私はこれでも多忙でねえ。ほら、こんなんでも一応ギルドマスターだしにゃん。そんな奴は小指デコピンで倒せるだろうけど、ね? 私、ギルマスだしにゃ」
何だか期待していたのに裏切られた気分。
落ち込むなあ……自分でも暗い表情をしているのが分かる。
誰かの助けを当たり前だと思っちゃいけない。ママからもそんなことを言われた時があったけど、1人でどうしようもない時は誰かに頼ってもいいと思う。その助けを求める声を拒否されちゃったらどうすればいいの?
「どうしてもやっつけたいならバニアちゃんがやることだにゃん。どの道、今後生活の目処が立っていないなら仕事は必要、ギルドに所属して依頼をこなせばガッポガポにゃん。あ、でも結構難しいってことだけは頭に入れておいてね、死ぬかもしれないし」
復讐だなんてつもりはない。けど、放ってはおけない。
誰かに頼ることが出来ないなら自分でやるしかないよね。
「……はい。私……やります! ギルドに入ります!」
「うん、良い返事!」
こうして私は13歳にしてギルドに加入することになった。
ギルド員としての生活が今、始まる。
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