エルバニア編
第15話 王都エルバニア
ケリオスさんが死んでから3日後。
この3日間、1人で暗い顔をして引き篭もっていたけれど、もういい加減に動き出さないといけない。動かなきゃいけない目的ならあるんだもん。ケリオスさんが言っていた、息子の話。確か名前はナットウ君。親子仲はあまりよくないみたいだけど親の死くらい知りたいと思う。私はナットウ君に会って、ケリオスさんがもうこの世にいないってことを伝えないといけない。
もう1つはゴマっていう悪いドラゴニュートについて。
あんなに危ないんだし、今私を乗せて飛んでくれているクリスタからケリオスさんの記憶を奪うなんてこともしていた。酷いドラゴニュートだ。誰か大人の人に伝えて倒してもらわないと……きっと犠牲者になる人やドラゴンが多く出ちゃう。
今向かっている場所は人も多いし助けてくれる人もいるはず。
私が向かっているのは一番近い都市、王都エルバニア。
おっきな樹が町の真ん中に生えていて、色んな種族の人達がいて、色んな物が揃っていて、とにかくおっきくてすっごい場所。私の名前が入っているのもなんだか嬉しい。
城下町へ入るのにもう少し、だったんだけど赤いドラゴンに乗った男の人が前を塞いだ。
「おいお嬢ちゃん、空から入るならここでスカイフリーパスを提示してもらわないと」
スカイフリーパス……確か上空から国に入るために必要なアイテムだったっけ。ライダーの人なら国から支給されるらしいけど、私は【竜騎の証】の効果でジョブがいきなり変わったから持っていない。
とりあえず持ってないって伝えないと。首を横に振れば伝わるかなあ?
「ん、何だ? 首なんか振って……まさか提示が嫌とか言うんじゃないだろうな。一応決まりだから頼むよお嬢ちゃん」
嫌とかじゃなくてそもそも持ってないのに……。
喋れたら手っ取り早いのになあ。どうしてか声は出なくなっちゃったから、言葉で伝えることが今の私は出来ない。
「まさか失くしたのか? 再発行はギルドに行けばしてもらえるから、一先ずは地上から入ったらどうだ?」
……最初からそうすればよかった。
ドラゴンに乗れるのが嬉しいからつい空から入りたくなっちゃったけど、冷静に考えればいつも地上の門から入っている。普通にいつも通りでよかったのに調子に乗っていた、のかな?
城下町の入り口の門には行列が並んでいた。
クリスタに近くまで下りてもらって、十数人は並んでいる列の最後尾に並ぶ。
王都エルバニアはドラゴンも入って歩いたり、飛べるようにかなり広い作りになっている。スカイフリーパスを貰えれば町中で飛ぶことも出来るんだけどな。
「おっ、バニアちゃん! ついに持ちドラを持ったのかい!?」
一番前から順番に入っていって、ついに私の番。
横にいるクリスタと門番のチェックを受ければ町に入れる。何回も来ているから門番、クルーザンさんとは顔見知りだしたぶん早く終わる。
クルーザンさん。はい、こっちはクリスタです。
そう言いたかったから口を動かしたけど声は出ない。しょうがないから頷いて返事をしないといけないかな、早く慣れないといけないかも。
「ここらじゃ見たことないドラゴンだなあ。よろしく」
挨拶だと思うけどクリスタは「クルゥ」と小さく鳴き声を出した。
「どうやって知り合ったんだ? 結構レアなドラゴンっぽいぞ」
あはは……その、色々あって。
クルーザンさんから目を逸らして思い出す。
私の仕草と表情から察してくれたのか、彼の表情はにこやかなものから真剣なものへ変わっていく。あんまり追及されたくないけど……ゴマのことを伝えるにはいずれ誰かに話さなきゃいけない。クルーザンさんにも話してみようかな……。
「なるほど、まあ俺には話さなくていいよ。何があったか分からないけど元気出して。エルバニアのギルドにいけばきっと話を聞いてくれるから。さ、いつもみたくマイカードの提示を」
マイカードは身分証明に必要なもの。スカイフリーパスと似たようなものだ。
腰に付けている小型バッグの中から薄い金属の板、マイカードを取り出してクルーザンさんへと見せる。いつもの流れで、いつもは何も思わなかったけど今日は一段と長く感じる。
「よしオッケー。それじゃあ行っておいで、ギルドの場所は分かる?」
北東にある塔みたいな建物ですよね。そう訊きたいけど頷くことしか出来ない。
「……いってらっしゃい」
クルーザンさんに見送られる形でエルバニアへと足を踏み入れる。
まず最初に目指すはギルド。困った人達を助ける正義の味方みたいな人達がいっぱいいる凄い場所。そこで3日前のことを、ケリオスさんのことを話すんだ。
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