第14話 ライダーへ
「ふーむ、悲鳴を上げてくれるとより良かったのですが……まあいいでしょう。趣味も程々にして本来の目的を果たさなければ」
涙が溢れて止まらない。声はどうしてか出せない。
ケリオスさんがいた場所……黒く焦げついた地面から目が離せない。でもゴマがクリスタ達の方へと歩いて行くのは見えていた。
「敵意剥き出しですねえ。しかしその敵意もすぐに消え失せます」
2体のドラゴンからブレスが放たれる。
水晶と金塊。2種類が交ざり合ったブレスは透き通った青い壁に阻まれる。
「お嬢さん、我々解放軍の目的はね、ドラゴンの解放なのです。あなたは疑問に思いませんか? なぜ我々より種族的に上位に位置するドラゴンがペットのようになっているのか。気高き彼ら彼女らは私達ドラゴニュートの信仰対象でもあり、すなわち神と同義。だというのにそれ以外の種族ときたら乗せてくれることに感謝もせずやりたい放題。怒っているのですよ我々の女王は。ヒューマンなどの種族に好き勝手使われているドラゴンを救済したいと慈悲深い女王は宣言したのです。だから我々解放軍は――ドラゴンから契約者の記憶を奪う」
視界の端で、ゴマが奇妙な金色の玉を取り出すとクリスタ達は銀色に光り出す。
銀色の光は玉へと吸い込まれていく。2体の睨んでいた目は普通に戻って、ピカピカのドラゴンに至ってはすぐにどこかへ飛び去ってしまった。
「このように特殊な宝玉を用いれば契約を無効化出来るのです。……ってあまり見ていなかったようですね、残念です」
「ゴマ様、この子供は殺さないので?」
「まだドラゴンと契約していないようですし殺す必要はありませんよ。我々の目的の邪魔になりうるとも思えませんしね。まあ一応ステータスくらいは調べておきましょう」
今、きっとゴマは私の弱いステータスを見ている。
一緒に戦うことも、逃げることさえ出来なかった弱い私を。
「ほっほっほ、なんともまあ憐れなステータスですねえ。これではあのプレイヤーの敵討ちをすることも出来ないでしょう。お嬢さん……いえ、バニア。あなたはドラゴンと契約することなく平和に暮らしなさい。さもなければ死が待つのみなのですから。ほーほっほっほ!」
「あ、お待ちくださいゴマ様!」
「はっはっは! じゃあな小娘、無様に生きろよ!」
3人は嘲笑うとそのままどこかへ飛んで行ってしまった。
残ったのは私とクリスタだけ。静かになった戦場跡に風が吹く。
私はクリスタを見つめていた。もしこのまま飛び去ってしまうのならそれも仕方ない、私に止めることは出来ないんだから。ゴマの言ったことが本当ならもうケリオスさんのことを憶えていないはずだ。彼の死を憶えているのはもう私だけ……。
クリスタはキョロキョロと周囲を見渡していると、あの焦げついた場所で視線が止まった。目が動かなくなった。のそのそと歩き出した彼女は焦げた地面へと向かう。
そこにはもう何もない。ケリオスさんの体も、衣服も、残された物は何一つない。記憶のないクリスタが気にする場所じゃないのに……彼女はその場に留まる。焦げた地面に頬を擦りつけている。
そっか……覚えてるんだね。
記憶がなくなっても、大切な思い出が頭から消えちゃっても……心に、魂に刻まれてるんだね。分かる、分かるよ……辛い……辛いよ、ね……。
静かに涙を流しながら、私はポケットからとある物を取り出した。
デフォルメされたドラゴンの顔が可愛い金色の髪飾り――【
これを付ければ私のジョブはライダーになるらしい。
正直ジョブに拘りなんてなかった。けど今、私はケリオスさんと同じになりたい。
こういうのをロールプレイって言うのかな? あのゴマって人がやっていることと同じっていうのは嫌だけど、私はケリオスさんが好きだし憧れも持っていた。あんな風に強く、自由にドラゴンに乗れて、それで優しいヒューマンに私はなりたい。
……やっぱりロールプレイってやつではないかも。ゴマは真似って言ってたけど、私は真似をしたいんじゃない。単純に今より強くて優しいヒューマンを目指すんだ。今度はもう何も失わないために強さが要る。
手に持っていた【竜騎の証】を耳の上あたりに付ける。
どこも変わった気がしないけど、仮に何も変わっていなかったとしても私は今日から心だけでもライダーだ。
一緒に行こうクリスタ。
もうこんな悲しいことが起こらないように……強くなろう。
この日、私は初めてドラゴンと契約して持ちドラを作れた。
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