第11話 ケリオス視点 ヒーロー


 ふと思う。防戦一方……? 俺が……?

 最強を目指して切磋琢磨した俺が押されている?

 今、ほんのちょっとアレを使ってしまおうかと考えただろ。何考えてんだ俺は、ちょっと押されているくらいでアレに頼ろうとするなんて。そもそも2対1だとして俺はこんな奴等に負けないはずだ。思い出せ、ゲームの世界でなろうとした自分の理想を。


「はっはっは、所詮ヒューマンだなあ! 〈ヒートブレス〉!」


「煽るのは止せゴング、俺はお前のそういったところが好きになれん。麻痺状態にしたら相手が動けず真剣勝負が出来ないだろう。あれ程こっちを習得しろと言っただろうに……〈ポイズンブレス〉!」


「はっ、テメエのねちっこい部分は嫌いだぜ!」 


 オレンジと紫、二色のブレスが左右から噴射されてもろに受ける。

 クリスタも吸い込んでしまったようで俺と一緒に咳込む。両方ダメージはない、相手を状態異常にするだけのスキルだ。麻痺と毒状態が合わさるなんて凶悪すぎる。体が痺れて動かないうえ、毒で生命力が徐々に削られていく。


 俺の理想とした自分はこんな程度でやられてしまうのか?

 否、断じて否。目指した、いや成ったはずの最強はこの程度の敵に負けたりしない。ピンチにだって陥るものか。


「〈オールクリア〉」


 使用するのはビショップというジョブが習得する魔法。

 清らかな光の波が俺を包むと状態異常を全て回復してくれた。


「なっ、こいつ、なぜビショップの魔法を扱える……!」


「おいおいテメエはライダーのはずじゃねえのかよ! まさかジョブを2種類持ってるなんて言わねえよな、ありえねえだろうが!」


「知らなかったのか? 他のジョブに就いた時でも、熟練度を最大にしたジョブのスキルや魔法は使えるんだよ。俺みたいなプレイヤーの間じゃ常識だぞ」


 もし、上級職のジョブを全て極めたプレイヤーがいたらどうかな。

 何でも出来るってヒーローみたいでかっこいいよな。最弱の存在だけど実は最強で、器用貧乏かもしれないけど何でも出来るそんな存在。俺は憧れていたんだ、ヒーローに。現実の自分とは遠く掛け離れた存在に。


「スキル……〈攻撃準備〉〈テンションバーン〉〈弱点創造〉〈弱点特攻〉〈重量増加〉〈威力増強〉〈ウルトラアップ〉〈研ぎ澄ます〉……〈八連無双〉!」


 これから一定時間、俺の攻撃力は桁外れに上昇するぞ。

 能力向上、耐性低下、クリティカル率上昇、全てを組み合わせた今の俺が奴等に与えられるダメージは通常の6倍以上。クリティカルが発生したら1.5倍のダメージだから、全部上手くいったら9倍ってところか。

 上級職、ゴッドハンドが習得する〈八連無双〉は通常攻撃の1・5倍の攻撃を8回繰り出す大技。全部当たればお前ら2人共さよならだ。


「悪いけど、ヒーローは負けないもんなんだわ」


 覚悟しろ格下。舞台に幕を引かせてもらうぞ。

 まずは一撃。超スピードを出したクリスタがゴングを通り過ぎ、その間に俺の剣で斬りつける。今の俺はバトルマスターというジョブで習得出来るスキル〈ウルトラアップ〉の効果により、生命力、魔法力、ラック以外の能力が2倍になっている。全てのジョブの中で最速のライダーのスピードだ、見切れるわけがない。


 ゴングは「ぐわああああああああああ!?」という悲鳴を上げて肩に現れた傷を押さえる。鎧すら切り裂いた攻撃で奴の肩は大きく裂けている。

 続いて「ゴング!?」と驚愕して叫んだジミー。クリスタが旋回して背後へ移動してくれたので、無防備な背中をすかさず剣で切り裂く。


 2人の体から赤い血飛沫が出るのを見てゴマは「速い……」と呟いた。聞こえてるぞ。そうだろう速いだろう、なんせ今の俺の行動力はライダーの特性を合わせて4倍なんだからな!



 【名 前】 ケリオス

 【レベル】 99

 【ジョブ】 ライダー

 【熟練度】 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 【生命力】 938/720

 【魔法力】 520/435

 【攻撃力】 1764

 【守備力】 1660

 【聡明力】 1080

 【抵抗力】 1560

 【行動力】 2336

 【ラック】 1050



 そうだよ、何を弱気になっていたんだ。勝利の可能性はあるじゃないか。

 アレを使わなくてもゴマには勝てる、勝てるんだ。そのためにまずは邪魔な2人を片付けて1対1に戻さないといけない。

 まあ直にそうなる。まだ〈八連無双〉の途中だからな。


 ジミーとゴング、2人の周囲を旋回して連続で斬りつけていく。

 ゲームだと出血なんてしなかったからちょっとグロいな……。でも慣れれば問題なくなるだろう、殺すことに躊躇いはあるけど向こうが殺しに来てるんだ。それなら俺も殺す気でやらないと足を掬われるかもしれない。


「――じゃあな。お前らは強かったよ」


 まとめて倒すために、背中を蹴って2人を正面から衝突させた。

 体勢を立て直される前に一気に畳みかける。2人の真上へと飛んだクリスタが急降下して、落ちないよう俺が水晶を片手で持ちながら剣で脳天を斬る――寸前で透き通った青い壁が現れて防がれた。


 さっきもゴマに使われたスキル〈物魔防壁〉か。

 あらゆる攻撃を一定時間防げる無敵技には流石に敵わない。どんなに攻撃力が高かろうとあれだけは突破出来ない。……とはいえ、守られたといってもこいつらは瀕死同然だし放っておいても大丈夫だろう。

 飛ぶことも出来なくなった2人は、バニアがいる反対側の崖へと落下していく。バニアがいる方じゃなかったのは安心した。


「さあ、後はお前だけだ……ゴマ!」


 クリスタが体勢を直してから俺は振り向き様にそう言い放つ。


「……やれやれ、想定以上の強さです。……が、調子に乗っていますね?」


 待っていたのは背筋が凍えるような嘲笑。

 何がそんなにおかしい? 今の俺は〈ウルトラアップ〉の効果でお前を倒せるに至る力を持っている。それくらい分かっているはずなのにどうして笑みを浮かべていられる。


「〈ウルトラアップ〉」


 困惑していると微かに呟かれた言葉が聞こえた。

 ちょっと待て、バトルマスターが習得するスキルだぞ……!


 ゴマは超級職のアルティメットメイジ。超級職には並大抵の努力では至れず、成れたとしてもレベルが異常に上がりづらいため一種の虐めとすら言われていた。だから俺は超級職をマスターするのを後回しにして上級職を全てマスターした。

 超級職を極めるのは尋常じゃない時間が掛かるはず。それに成る過程で極めたジョブ以外を極める時間なんてなかったはず……なのに……お前は……!



 【名 前】 ゴマ

 【レベル】 125

 【ジョブ】 アルティメットメイジ

 【熟練度】 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 【生命力】 1197/1280

 【魔法力】 1225/1595

 【攻撃力】 2264

 【守備力】 2400

 【聡明力】 3486

 【抵抗力】 2920

 【行動力】 2280

 【ラック】 1272



「ありえない、とでも言いたげですね。しかし先程あなた自身が言ったようにジョブを極めれば他のジョブの時でもスキルや特性を使えます。まさか私が魔法職以外を疎かにしているとでも?」


 くそっ、強制的に振り出しに戻らされた。

 まさか〈ウルトラアップ〉まで使えるなんて予想外だ……でも、諦めない。

 理想とするヒーローは絶対に負けない最強の男。ここで諦めたり、負けたりすれば今までの努力が水の泡。俺は何としても勝たなきゃいけない……たとえアレを使うことになっても。全身全霊で奴を倒す。

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