第10話 ケリオス視点 3対1


 3対1か。こりゃまた絶望的な。

 まあ強さ次第じゃ無視していいと思うけど……。


「アナライズ」


 【名 前】 ジミー

 【レベル】 70

 【ジョブ】 ゴッドハンド

 【熟練度】 ☆☆☆☆☆


 【生命力】 613/613

 【魔法力】 330/330

 【攻撃力】 420

 【守備力】 356

 【聡明力】 225

 【抵抗力】 300

 【行動力】 435

 【ラック】 248


 【持ちドラ】なし



 【名 前】 ゴング

 【レベル】 70

 【ジョブ】 グラディエーター

 【熟練度】 ☆☆☆☆☆


 【生命力】 625/625

 【魔法力】 328/328

 【攻撃力】 411

 【守備力】 406

 【聡明力】 214

 【抵抗力】 317

 【行動力】 398

 【ラック】 205


 【持ちドラ】なし



 念のため新たに登場した二人のステータスを視ておいた。

 灰色の肌、紫髪、筋肉がよく発達している肉体。ドラゴニュートだから翼が生えているので空中戦も得意だろう、動物の毛皮の腰巻きをしている男がジミー。

 もう一人、多くの棘が付いた重鎧を纏っていて大剣を持っている男。赤紫の肌は珍しい色だけど、それ以上に珍しいのが見事な豚っ鼻。たぶん鼻がコンプレックスなんじゃないかと思える奴がゴング。


 やっぱりそれなりに強い。

 レベル70でも種族の差がある。ドラゴロアではヒューマンが最弱、マイナス要素はないけどプラスもない。対してドラゴニュートは攻撃力と俊敏力に長けている代わりに、魔法力と精神力が低めに設定されている。奴らの攻撃力は俺がレベル80くらいの時に近い。


 ライダーの固有特性でステータスが2倍になっているとはいえ、攻撃をまともに喰らえば痛手になるな。ましてや相手にゴマがいるんだ。生命力はほんの少しでも残しておきたい。


「クリスタ、悪い。辛い戦いになりそうだけど構わないか?」


 下にいるクリスタに問うと、任せてと言わんばかりに「クルウウ」と唸る。

 辛い戦い……負け戦にはしない。


 さっきはゴマとの戦闘中、弱気なことに勝てないとか思っていたが一応勝つ手段はある。フェアじゃないからなるべく使いたくないけどアレを使えば勝てると思う。あくまで最後の手段。一先ずは使わず今の自分の全力で勝つことを意識しよう。


「紹介しましょう。右がジミー、左がゴング。私が手塩に掛けて育てた下僕です。まだドラゴンと契約はさせていませんが、プレイヤーを抜けばこの世界では破格の強さ。あなたにはまず彼らと戦ってもらいましょう」


「何だあ? ゴマ様、獲物はヒューマンですか? 雑魚中の雑魚じゃないっすか」


「あんな最弱種族を相手に我々を呼ばれたので? まあ俺は弱者を甚振いたぶるのも好きですが……」


 好き勝手言ってくれるな。知らないってのは哀れなもんだ、倍化した今ならお前達より遥かに強いっていうのに。

 2人はヒューマンを舐めている、ゴングに至っては最低な性格。だからこそ付け入る隙はいくらでもあるはずだ。3対1でも上手いことやって1対1に戻してやる。


「油断大敵、甘く見ない方がいい。彼はあなた達2人よりも強いですからね」


 信じられないって面を向けてくるジミーとゴング。何だかあの驚いた表情を見ていると、ゴマのフォローがちょっと気持ちいい。でもフォローしなければ油断まみれだったから余計だな。


「それでも私はあなた達を信じています。多少のサポートをしますが基本的には2人で戦ってみなさい。なあに、これも経験ですよ」


「ゴマ様が言うならば」


「くっくっく、なんだか虐めみたいだが構わんよなあ?」


 あいつはサポートしかしないのか、いやサポートといっても規格外の攻撃が飛んで来る可能性は高い。注意を散漫させずに戦闘への意識を高めろ。

 バニアを悲しませるわけにはいかない。ここは何としても生き残ってまた2人で話をするんだ。出会ったばっかりだけど優しく接してくれた彼女の顔を曇らせたくはない。やってやる……!


「空を駆けろクリスタあああああああああああ!」


 叫ぶと共にクリスタが奴等を猛スピードで引き離す。

 あの新手2人はどちらも上級職だが物理攻撃特化。他のジョブの熟練度を最大にすればスキルや魔法を引き継げるけど、レベル70程度なら他のジョブを極めていないはず。遠距離戦にすれば手数は大幅に減らすことが出来る。


「なっ、逃げる気か!?」

「速い! 何だあの飛行速度は!?」


「何をボサッとしているのですお2人共、さっさと追いなさい」


 冷静に指摘するゴマの言葉を受け「はっ!」と2人が飛び立つ。

 十分に距離を取った俺達は振り返り、ブレスを放った。

 無数の水晶の塊が飛んでいく光景に驚いたのか奴等は停止して水晶の迎撃を始める。……とはいっても持ちドラのステータスは契約者と同じ。格上の攻撃をいつまでも防げるわけもなく、数発を拳と大剣で弾いた後に奴等の肉体へ水晶が刺さる――直前、妙な透き通った青色の壁が出現して全て防がれた。


 あの壁は上級職アークメイジが習得出来るスキル〈物魔防壁〉。

 物理、魔法、その他あらゆる攻撃を一定時間防げる無敵技。もちろんそんなチートスキルにデメリットがないわけなく、再発動には15秒待たなければいけない。当然こんなスキルをジミーやゴングに使えるわけがない。ゴマだ、あの男マジでサポートに専念するつもりか?


「全くダメですねあなた達は、今のは迎え撃つのではなく避けるべきでしたよ。まあ今のあなた達に大した知恵は期待していません。次が来てもバカのように突っ込みなさい」


「えっ、で、ですがそれでは蜂の巣に……」


「バカかジミー、ゴマ様が間違ったことを言うわけがない。俺達はごちゃごちゃ考えずにあの野郎をぶっ殺せばいいんだよ!」


 単純すぎるゴングにジミーは「脳筋め」と毒づくと再び接近を開始する。

 何を考えているか知らないけど絶好のチャンスだ。避けもせず突っ込んで来るというのなら仲良く串刺しになればいい。


「〈クリスタルブレス〉」


 俺の合図と共にクリスタが無数の水晶を口から放つ。

 このままいけば無謀な特攻を仕掛けている2人を殲滅出来る。そうなればまたゴマとの1対1だ、そっちの方がしんどそうな気がするけど。


「世話が焼けますねえ……ほぅわっ! 〈キルウィング〉!」


 また2人に直撃しそうになった時、突然ゴマが2人を追い越して魔法を放った。

 タイミングよく放たれた薄緑に光る三日月状の刃。それはジミーとゴングを水晶から守る盾の役割を果たしながらこちらへ飛んで来る。


「先程あなたが使用した魔法ですが威力は桁違いですよ。基本職と超級力、ライダーとアルティメットメイジ、覆せない差があると自覚してその身に受けるといいでしょう」


 確かに魔法の威力は段違いのはず、受けるのはマズい。

 奴の聡明力、魔法の威力に関係する数値は1743。

 俺の抵抗力、魔法攻撃の耐性に関係する数値は780。

 単純に考えておよそ1000のダメージを受ける。戦闘ダメージはそう単純じゃないのでそれ以上、考えたら冷や汗が止まらなくなる。一撃でこっちの生命力半分以上持ってかれるぞ。


「冗談じゃないっ! クリスタ、上昇だ!」


 真上に飛んで躱す。その選択は間違いだったのかもしれない。

 猛スピードで迫って来た三日月状の刃は、真上へと羽ばたいたクリスタの尾を半分くらいに切断してしまったのだから。


「大丈夫かクリス――」


「余所見してる場合じゃねえだろうがよテメエはア!」


「命を頂戴するぞヒューマン!」


 悲鳴を上げる相棒の心配をしていると、こちらへ直進して来るジミーとゴングの声がした。視線をクリスタから前方へと戻すとすぐ目の前に敵の姿があり、拳と剣を振りかぶっている。


 息を呑んだ俺は咄嗟に腰にある剣を抜いて2人の攻撃に合わせて剣を振るう。さすがに2人分の攻撃には及ばず俺は多少後方へと下げられ、彼らはといえば前後左右を飛び回って翻弄しながら攻撃してくる。そんな状態が続いていつの間にか俺は防戦一方になっていた。

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