第9話 ケリオス視点 プレイヤーVSプレイヤー


 戦いの気配が強まる。

 さて、このまま戦うわけにはいかないな。


「クリスタ、下へ」


 青白く丸みのある体のクリスタルドラゴン、相棒であるクリスタに指示を出して地面へと下りる。

 終末の谷は谷底なんて見えないくらい深い。下りたのは谷の中じゃなくて横、崖のような場所だ。


「バニア、これから戦闘になる。悪いけどクリスタから降りてくれ」


 レベル1で無力の少女を乗せながら戦えば、きっと戦闘の余波が襲いかかる。ゴマと戦うのなら絶対に死ぬレベルだろう。

 白髪の少女はなんともまあ心配そうな顔をしていた。分かっているんだろうな、あの男が強いこと。まあ大丈夫だと俺は彼女の頭を撫でてみる。


 彼女、バニアは一般人。プレイヤー同士の戦闘に巻き込むわけにはいかない。彼女は頷いてクリスタから飛び降りる。


「頑張ってね、ケリオスさん」


「任せてくれ。必ず勝つさ」


 バニアを下ろしてから空中へと戻った。

 なんともまあ親切なことに、ゴマは大人しく待っていてくれたらしい。まあ一応警戒していたけど攻撃されるより全然いい。


「待ってくれるとは案外甘いんだな。それとも、殺すようなことを言っておいて戦う気はないのか?」


「ほっほっほ、そんなわけがないでしょう。待っていたのは優しさですよ。それに、子を想う親というのはいつ見ても良いものですからね」


 気味の悪い笑みをゴマが浮かべる。


「残念だけどバニアは俺の娘じゃないんだ。彼女は恩人だからな」


「おや、そうでしたか。……ですが、たとえ実の子供でなくても気遣うのはとても良いこと。もし来世なんてものがあるならその性格は引き継いだ方がいいでしょうね」


「来世なんて考える必要ないさ! クリスタ、ブレス!」


 青白いドラゴンの口から放たれるのは炎じゃない。

 クリスタ、つまりクリスタルドラゴンの放つブレスは澄んだ青の水晶。その名の通り菱形のクリスタルを放出する綺麗な攻撃だ。綺麗さ全振りだなんてネットで言われているけど相当な威力を持つ。


 いくつもの青い水晶がゴマへと向かっていく。

 ドラゴンと共にメリットがこれだ。近距離遠距離かかわらず攻撃してくれるし、スキルや魔法を発動する際に消費する魔法力の消費が0なのもいい。自分だけの味方というわけだ。


「ほほう、これが美しいと噂に名高いクリスタルドラゴンのブレスですか。やはり動画より生ですよねえ、美しさが断然違う」


 迫っていく青い水晶群をゴマは容易く避けている。感想を言いきれるほどの余裕を持てるなんて、さすがに超級職にしてレベル100超えは伊達じゃないな。

 回避しつつ段々と近付いて来る。このままじゃダメだ、突破される。


「〈キルウィング〉!」


 頭上に上げた俺の右手が薄緑の風を纏い、前に向けて振るえば三日月状の刃がゴマ目掛けて飛んでいく。人間より大きな薄緑のそれは真っ直ぐ進んでゴマに直撃した。ライダーは魔法があまり得意じゃないからダメージは微々たるものだろうけど、ブレス回避の邪魔にはなるだろ。


「まったく……台無しですね」


 何か呟いたゴマの速度が上昇する。

 だがこれは、これは――ブレス直撃を無視して一直線に!?

 奴はプレスが直撃しているのを一切気にせずクリスタの真横へと高速移動して来た。そして流れるようにスムーズな動きで蹴りを放ち、クリスタの横っ腹辺りへめり込む。悲鳴を上げたクリスタは30メートルは吹き飛ばされた。


 背中の水晶にしがみついていないと落ちそうだ。さすがに運悪く崖へ落ちたら死ぬだろうから気をつけないとな。


「大丈夫かクリスタ?」


 そう相棒に問いかけてみれば鼻息を強く噴出して頷かれる。

 喋れないドラゴンなりの人間とのコミュニケーションってところか。


「ほっほっほ。いやはや、レベル99といっても基本職。やはり超級職である私の敵じゃないですね。……確かライダーの固有特性として、戦闘中、戦闘に参加しているドラゴンの数だけステータスが倍になるものがあったと記憶しています。……しかしそれを利用したところで私に勝つなど不可能。2倍でもこの程度というわけです」


 くそっ、いかにも余裕ですって感じで腹が立つな。

 奴の言う通り、ライダーには参加しているドラゴンの数だけステータスが倍になる特性がある。こういった特性は職業固有のもので、熟練度を上げる度に固有特性を獲得出来る。

 特性〈共闘倍化〉は熟練度最大で覚えられるライダーで最強を名乗るのに必須なもの。それを利用すれば俺のステータスは2倍になる。


 【名 前】 ケリオス

 【レベル】 99

 【ジョブ】 ライダー

 【熟練度】 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 【生命力】 1440/720

 【魔法力】 800/435

 【攻撃力】 882

 【守備力】 830

 【聡明力】 540

 【抵抗力】 780

 【行動力】 1168

 【ラック】 1050



 生命力と魔法力の数値右側にある最大量より、2倍になっているから左側の現在残量の方が多い。魔法力が2倍から減っているのは〈キルウィング〉を使用したせいだ。あれ魔法力消費そこそこ大きいからな。


 まあとにかくこのように2倍になれば一気にレベル99の上級職を圧倒出来る。行動力、ようは素早さだけならあらゆるジョブを超越しているといっていい。原理は不明だが持ちドラも同じステータスになるし、その行動力を活かして相手を翻弄すれば最強になれる。……なれるのだが。

 俺は「〈アナライズ〉」と呟いてゴマのステータスを再度確認する。


 【名 前】 ゴマ

 【レベル】 125

 【ジョブ】 アルティメットメイジ

 【熟練度】 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 【生命力】 1197/1280

 【魔法力】 1595/1595

 【攻撃力】 1132

 【守備力】 1200

 【聡明力】 1743

 【抵抗力】 1460

 【行動力】 1140

 【ラック】 1272



 これ……勝てなくない?

 ていうかさっき当たった〈キルウィング〉とかブレスとかの合計で生命力が100も減ってないし。完全に魔法力の無駄遣いか。

 そもそもドラゴロアでレベル100以上なんてなかったんだ。しかも超級職は晩成型で、レベルを上げていく度にステータス上昇量も増加していく。この世界じゃ最終的に最強になれるのは超級職オンリーってか。


「絶望を増幅させてあげましょう。さあ、出でよ! 我がしもべ達!」


 叫んだゴマの背後に巨大な扉が出現する。

 鼠色の大きな扉が開き、真っ白な中から二人のドラゴニュートが出て来た。あれがしもべってことか。


「さあジミー、ゴング、あの愚かな男へ共に裁きの鉄槌を下すのです」

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