第2話 ステータスからオムライス一丁


 私の名前はバニア、今年で十三歳。

 自分で言うのも変だけど、さらっさらの白髪にすべっすべの白い肌の美少女! だって王都に行った時たまに「お嬢ちゃん可愛いねえ」なーんて言われるんだもん。これって私がすっごく可愛いすっごい美少女ってことだよね、私はそう思うことにしています。


 そんな私は今、なんと! 王子様みたいなカッコいい人と家にいます!

 金髪で爽やかな笑顔を浮かべるお兄さん。名前はケリオスさん。

 ワイドウルフという名のモンスターから私を助けてくれた命の恩人。ものすっごく強い人……あ、強いのはドラゴンの方でした。


 そんな方が今、木製の一軒家わがやに居て、しかもテーブルを境に近距離で座って向かい合っているのです。

 高鳴る成長途中の小さな胸。これがきっと……恋!


「あの、大丈夫ですか?」


「……あっ! だ、大丈夫でしゅ!」


 しまった、幸せそうに顔が惚けていたから心配させてしまいました。ついでに噛んじゃいました。恥ずかしさで鼓動がうるさいし、たぶん頬も赤くなっちゃってるかなあ。

 こんな風に誰かの心配を出来る心優しいお人。ケリオスさんならお付き合いするのにきっとママも大賛成するよね。


「それにしても、エルバニアからちょっと離れたところに拠点を構えているなんて珍しいですよね。みんな大抵は王都とか大きい町に拠点を構えるのに」


 拠点……家のことかな。

 出会ってから話してみて、ケリオスさんの言葉は聞き慣れないものがたまにある。特に〈ぷれいやー〉とか〈ぷれい〉とかはちょっとよく分からない。私の知識が浅いせいで会話についていけないなんて、末代までの恥にもなりえちゃうよ。


「あはは、死んじゃったママがこの家を建てたんです。私も王都に移り住みたいんですけどお金があまりなくて……」


「そうなんですか? ああ、まあ縛りプレイをしていると大変ですもんね。俺はやったことないんですけど楽しいですか?」


「あっ、はい。楽しいです」


 知らない〈しばりぷれい〉という言葉。つい楽しいと答えちゃったけど、どういう意味なのか全然分かんないや。

 しばり……縛り? 何かを縛るのかな?

 まあ分からないことは考えても分からないし、無駄なことは止めよう。無駄なことを考えていると私の時間が奪われる。


 今は会話だ。ケリオスさんとの時間を一分一秒も無駄にしたくない。

 ケリオスさんの話は難しいし、次は私が気になってることでも話題にしよう。


「あのっ、ケリオスさんの持ちドラ。綺麗で強かったですよね! お名前は何て言うんですか?」


 手持ちドラゴン。通称、持ちドラ。

 この世界、ドラゴロアの総人口八割近くがドラゴンと契約して生活している。一緒に戦ったり、花の世話をしたり、料理を作ったり、とにかく色々私達人類をサポートしてくれる存在だ。私のようなヒューマンだったり多種多様な種族を助けてくれている。私にはまだいないけど、いつかは強くて可愛いドラゴンと契約したいなあ。


 ケリオスさんのドラゴンは青白くて、背中に透き通った水晶が生えている。これまで王都のどこでも見たことがない珍しいドラゴンだ。十メートル近いと私の家には入れないので、仕方なく今は外で待機してもらっている。


「種族名はクリスタルドラゴン。名前はちょっと安直ですけどクリスタです。水晶国クリスタリアに生息していたんですよ」


「クリスタ……可愛らしいお名前ですね。水晶の国も素敵そうですし」


「行ったことがないんですか? 世界の果ての方にあるとはいえネットじゃ有名なんですけど。……ああバニアさんは攻略サイトとか見ないタイプでしたか?」


「……え、はい! 見ません!」


 なんてこった。知らない言葉がポンポンと出てくるよお。

 もーう〈ねっと〉と〈こうりゃくさいと〉って何なんだろお。こうして話してると私の名前まで未知の言葉に聞こえてきちゃうよお。


「そういえば、バニアさんの持ちドラはどんな――」


 ぐうううううううううううううううううううう!

 ケリオスさんの言葉を遮って私のお腹が鳴ってしまった。しかもよりにもよって今までの中でトップクラスに大きな音が。

 鳴ってしまったものはしょうがない。私は苦笑しながら軽く手を挙げる。


「あ、あはは……実は私、まだお昼ご飯を食べていないんです。あ、ケリオスさんも食べていきますか? リンゴが炭になっちゃったのは残念ですけど食材はありますし。私これでも料理が得意なので」


「いえ、それは悪いですよ。寧ろお金がないんなら節約しないと。昼食は俺が出すのでそれを食べてください」


「いいんですか? じゃあお言葉に甘えて頂きますね」


 節約出来るのはありがたい。何よりケリオスさんの手料理が食べられるというのが嬉しい! まさか自分から言い出しておいて料理下手なんてことはないだろうけど、例えそうだとしても私は残さずに完食することを誓います!


「今日は……久しぶりにオムライスにするかな」


「いいですねオムライス。実はママがよく作ってくれたんですよ」


「へえ、それじゃあ手は抜けないな。高級品を出してみましょうか」


 そう言ってケリオスさんはキッチンに――向かわない。

 卵も取り出す気配がない。あれ、個人的にはこの世で一番高いとすら言われるドラゴンの卵でも拝めるかなと思ってたのに。


「――ステータス」


 何やら呟いたケリオスさんの前に青いのに透けている板が出現した。

 魔法!? これは魔法というやつでは!? 初めて見ちゃった!

 よく分からない板に指で触れて何かし始めるケリオスさん。私には何をしているのかさっぱりだけどとにかく凄い。


「えーっと、アイテムストレージを開いてオムライスオムライス……あったあった。いやあ本当にこの、まずステータスを開かないといけないって設定も改善してほしいですよね。アイテム出すのに二段階ってのが面倒ですし」


 そう言いながらケリオスさんは軽く謎の板にタッチした――瞬間、なんとびっくり。ケリオスさんの手前にあるテーブルに金ぴかオムライスが出現しました。


「えええええええええええ!? お、オムライス!?」


「はい? ああこれ、ゴールデンオムライスですよ」


 再び彼が「ステータス」と呟いたら謎の板は消えてしまった。


「えええええええええええ!? け、消した!?」


「何を驚いているんですか? もしかして見たかったり?」


 いや確かに流れで驚いてしまったけど自由に出せるなら消せて当然でした。

 問題はそこではなく、料理の過程をすっ飛ばしていきなり出てきた物。ゴールデンオムライスって料理らしいけど……これってもはや料理ではないのでは? 誰の手料理とも呼べない代物なのでは?


 私が驚いていることに困惑しているケリオスさん。

 まさか都会ではこれが普通とか言いませんよね。こんな料理人をバカにしたような方法で料理を提供するなんて、これで美味しかったら料理の自信失くしますよ。


「まあお腹空いてるんだったら食べましょうよバニアさん。代金とかはもちろん無料ですから心配いらないですって」


 そこじゃない。私が呆けているように見える理由はそこじゃない。……とはいえケリオスさんの言う通りだ。私は今お腹が空いている、お腹ペコペコだ。唐突に出現したゴールデンオムライスは美味しそうな見た目をしているし余計にお腹が空く。


「……食べましょうか」


 金ぴかに輝くゴールデンオムライス。

 結論から言います。私の料理の自信は砕け散りました。

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