本日も猫になったオレは姉に使われる

ゆーにゃん

第1話

自室でパソコンに向き合い、編集作業に追われるオレこと白石玄しらいしくろ


その理由は簡単だ。動画投稿サイトで、黒猫が芸をする動画をアップするための準備。


撮影は、オレの姉が担当して編集作業はオレの担当。もっと言うなら、芸をする黒猫もオレだ。


こいつ、何言ってんだ?


そう思う奴もいるだろうが、オレは猫になる呪いを受けた。理由も、呪いを受ける心当たりもなく何もかも分からないが、案外平気で人間と猫の両方の姿で今日も生きている。


今、編集しているのは姉の言葉に合わせてジャンプしたりお手をしたり、二回その場で回って鳴くなどの芸をする。


姉の声は無音にして下に字幕を表示し、黒猫が映るそばにはまるで黒猫がそう言っているように見えるよう言葉を動画に埋め込む。


そうして編集作業が終われば、動画を『芸をする黒猫シリーズ』という名でアップする。


コンコン。


「はーい」


ちょうどアップし終わった頃、ノックがし部屋に入って来たのは姉の舞だった。


「玄。アップ終わった?」

「ああ、今終わったとこ」

「OK。で、あんたはいつ猫になるわけ? 次の動画、撮りたいんだけど」

「あ? 来て早々に言うことがそれかよ」

「だってさ、あんた一日の半分は猫になるでしょ。そういう時にしか撮れないから。私も明日はシフト入ってるから、今日しか動画撮影できないの」

「へいへい、そうですか」


時計を確認。

あと一時間もすればオレは黒猫に変身するな。


一日のうち十二時間は人間の姿から黒猫の姿に変わる。猫になった時、食べ物も猫用になるし言動も猫そのもの。


で、十二時間経てば人間の姿に戻るを一年前から繰り返している。今では、この人と猫の二刀流に慣れ生活も何だかんだで楽しむ自分がいたりするが。


最初はパニックで泣きまくったこともあったし、不安で体調を崩すこともあったが、姉さんも両親もオレの話を聞いて実際に目にし受け入れ支えてくれている。


「じゃ、猫になったら動画撮影を始めるわよ」

「了解」


ということで一時間後。


猫の姿に変わったオレは姉さんに抱かれ撮影専用兼、猫部屋へと移動。


キャットタワーやバランスボール、ダンボールで作られた戦車なんかが部屋に置かれている。


「さーて、今日はどんな芸にしようかな〜」


とカメラ片手に楽しそうな姉さん。芸を考えるのは、姉さんの役目だ。オレはその指示に従って芸を披露。


「何がいいかな?」

「んな〜(なんでもいいぞ)」

「うーん。玄、これできる?」

「にゃぁ〜?(どれだ?)」


姉さんのスマホで見せられたのは、ボールに乗って玉転がしをする犬だ。

だが、この玉転がしなら以前、オレも披露して動画がバズったはずだが。


「にゃんっ(これなら前にしたぞ)」


首を横に振って伝える。


「ああー、違う違う。転がす方じゃなくてその上で飛び跳ねる方」

「なぁ〜(え〜)」

「あっ、今絶対『え〜』って言ったでしょ!」


いやだってさ、それ危なくない?

ボールからバランス崩して落ちたら怪我しそうじゃん。再生数、稼ぐためとはいえ危険すぎないか。


「大丈夫だって。玄だし、猫だし」

「にゃー……(理由になってない……)」

「一度やってみてよ」

「なぁー……(はいはい……)」


バランスボールに向かい、ピョンっと飛び移る。ボールは左右上下に揺れ、上に乗るだけでもバランスが取りにくい……!


うわっ、ちょっ!?

ま、待って待って! めっちゃ揺れるしちょっと体の重心をずらしただけで落ちそうなんだが!


「にゃっ、にゃんっ!(うおっ、わわっ!)」

「そうそう、いい感じよ玄!」

「なあっ、んにゃっ!?(な、何がいい感じだよ!?)」


オレは落ちそうで怖いんだが!?

姉さんは少し離れた場所からの撮影で楽そうだな!


「玄、そこでジャンプよ!」

「なんっ!?(はあっ!?)」


いやいや! 無理無理!

怖いんだってば!!


「早く!」

「にゃあっ!(無理だぞこれ!)」

「玄ならできるから!」

「にゃーん!(ああもう!)」


分かったよ! 分かりましたよ!! やってやりますよ!!


だ、大丈夫! オレならできる! 頑張れオレ!!


そう自分に言い聞かせて、オレはバランスボールの上でジャンプを一回披露してみせた。


言葉にするなら、ボヨーンという感じでボールは跳ねジャンプしたオレは宙に高く飛びバウンドを繰り返すバランスボールの上へ着地。

揺れまくるボールの上で体幹を駆使しバランスを取った!


「すごいすごい! じゃあ、今度はジャンプを連続でやってみて!」

「にゃああっ!?(はぁああっ!?)」


姉さん、バカなのか!?

連続でジャンプとか、オレ怪我するだろ!?


「玄、がんば!」

「…………」


くそう……。何を言っても聞く耳を持たないだろこれ……。

もうこうなったら全部、成功させてやる!


「なぁんっ!(うおりゃっ!)」

「いい感じに撮れたわ!」


ボールの上でジャンプを繰り返し時々、宙で一回転を入れて芸を披露してみせる。


怖いし、何をやっているのか自分では分からなくなってきたがそれでも動画撮影のため体を張る。


その結果、芸は成功し動画は無事に撮れた。


「うん。上手く撮れたわよ。玄」

「にゃぁん……(そうですか……)」

「編集、よろしくね〜」

「にゃにゃ(へいへい)」


こうして、今日の動画撮影は終わった。

いつも体を張るのはオレで、編集作業も全部やってるんだが……。姉さんは撮影するだけだしよ。

不公平だ……。


十二時間後。

人間の姿に戻ったオレは早速、編集作業に取りかかる。猫の間に睡眠を取り、人間に戻れば部屋にこもる生活。


オレの職業はきっと猫兼、YouTuberだろう。前者は家族以外の人には絶対に言えないが。


撮れたて動画は、いつも通り姉さんの言葉を字幕に置き換え、芸を披露するオレのところには思ったことをそのまま言葉に変える。


これが案外、観てくれる視聴者には受けコメント欄にも「可愛いですね!」「本当にそう言っているみたい!」「クロくん、すごいです!」「芸達者ですね」などと寄せてくれる。


オレは猫の姿に変わる呪いを受ける前は、どこにでもいる普通の青年だった。毎日、バイトばかりでろくに遊びに行かず趣味もないつまらない奴。


そう思いながら過ごし、ある日にバイト先が潰れ新しいバイト先を探すが、コロナ禍のせいでどこも募集はしておらず簡単には見つからず途方に暮れ、そんな時に呪いにかかった。


こんな漫画の世界みたいなことが自分の身に降りかかり、どうすればいいのか、どうやっていけばいいのか何もかも分からなかったが、家族が大丈夫って言ってくれて、せっかくならこの摩訶不思議を利用してやればいいのよ、なんて言い出した姉さんのお陰でYouTubeで稼げるように。


人間と猫の両方で、何かと大変なことも辛いこともあるけどオレは、この呪いを受け入れ楽しくやっていけてると思う。


だから、今日も姉さんに使われながら猫として芸を披露し、人間として編集作業を頑張り、楽しんでくれる視聴者さんにちょっとでも癒しやワクワクを届けられたらいいなって思うんだ。

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本日も猫になったオレは姉に使われる ゆーにゃん @ykak-1012

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