第4話 アラート

 休憩が終わり、ゾンビ退治改め、生存者探しを始めることにした。


「さっきの人、私たちと同じくらいの年齢かも?」


 舞依の言う通り、見た目は10代から20代位、髪の毛が少し長かったので女性かとも思ったがよくわからない。


「どのみち探すことになるし、その時聞けば良いんじゃね?」 


「まあ僕らにとっては、厄介事でしか無いね」


 その通りなんだが、ぶっちゃけすぎだ。この非常事態だ。助け合って行かなければいけないし、相手も友好的であればありがたい。


 1階を捜索したが、はずれ。入れ違いになったようだ。3階を探索しスポーツ用品店にやってきた。いたよ、いたよ。見たところ3人だ。


「武器になりそうなものを探してるのかな?」


「とりあえず僕が友好的に話しかけてみようか?」


「2人ともちょっと待って……あいつは」


「おい! 誰かいるぞ!」


 タイミング悪く見つかってしまった。


「ああ? 何だよお前ら……? ……あっ? お前は」


 嘘だろ……世の中狭くて嫌になる。

 

「道明寺……」


「堀田じゃん? 最悪だわ。お前みたいなのは死んでると思ってた」


 その言葉、お前にそっくりブーメランで返すわ。


「コウちゃん? 知り合い?」


 最悪だ。こんな非常事態の時にこういうクズと会うとは……


「中学の……部活の後輩……」


「なんだよ! こんな時も先輩面しやがって。相変わらずムカつくんだよお前!」


「……相変わらず目上の人に対しての口の利き方がなってねえな?」


 こいつは道明寺真どうみょうじまこと中学の柔道部の後輩だ。図体が無駄にデカいだけ。なんだが……デカい分、力も強く横暴。親が地主らしく、そういった面でも我儘に育ったのだろうか。

 

 俺の同級生はそれぞれ強かった。試合をすれば俺らが勝つ。だがこの道明寺は先輩達を除くと、当時の部員の誰よりもデカくて投げるのが面倒、さらに性格に大変難があるので腫物扱い。故に部員達も困っていた。


 こいつの強味は体格差と力のみ。技術は無い。寝技で俺にマウント取ろうとして返り討ちにしたら、顔真っ赤にして「死ねよ!!」とか言われた事がある。流石にブチ切れそうになったが先輩に止められた。


「やあ君たち、さっきはゾンビ達を引き入れてくれてありがとう。おかげで僕たちは手間が増えて大変だったよ。後、無免許運転は感心しないよ?」


 いきなり嫌味!? おい明日人さんあんたは冷静なはずだろ!


「ああ? なんだお前! 邪魔だわ、雑魚!」


 こいつ、初対面の人に向かって……これで義務教育は受けたはずなんだよなあ? 良く卒業できたな。


「そうかい? 雑魚かどうかは気にはしないが君たちはここに何しに来たんだい?」


「んなのお前に話す必要ねえだろ」


「いや明らかに敵意があるしね。僕たちに危害を加えられても困る」


 ダメだ、明日人さんこいつは人の話を聞く奴じゃない。興味のありそうなことで釣らないと……


「おい、道明寺。お前ここに何人できた? さっき1人逸れてたぞ」


「あ? 1人逸れた? ……多分ちげえよ。俺達は5人でそいつを追い廻してただけだ」


「追い廻してただと?」


「あのクソ野郎は気に食わねえから、ゾンビの餌にしてやろうと思ってたんだよ」


 こいつ……。


 舞依がつい「酷い!」と声を上げた。いや分かるけど、こいつはそういうことやりそうだわ。


「てか綺麗な女だな?」


 舞依をじろじろと値踏みするように眺めてきたので、俺は舞依を後ろに隠した。舞依も不安なのか背中をぎゅっと掴んできた。


「はあ、ないわー、てめえの女かよ。おっそうだ、その女レンタルさせてくれよ! 先輩の女取ったりしねえから安心しろよ? 無事に帰ってくるかは知らねえけどな!」


 野郎……とことん俺のコトなめてる。冷静な明日人さんもなんだか顔が怖くなってきてるし。


「嫌よ。何で君みたいな酷い人と、一緒に行かなきゃいけないわけ?」


「そうだね……君みたいな人間は、彼女にあまりにも不釣り合いさ」


「お前らに聞いてねえから」


 ……確かこいつ女子にも暴力奮って、言うこと聞かせてたとか後輩が言ってたな。それがホントなら俺の予想よりも下種だ。


「俺がその提案に乗ると思ってんのか?」


「はあ? その女で見逃してやるって言ってんの。5体2で俺らに勝てると思ってんの?」


「━━━」


 ━━ごめんキレそう。



 一触即発。それを破ったのはけたたましいアラートだった。


『火事です。火事です』


 <フォンフォン フォンフォン>


「待て、なんで火災報知器が鳴った!? お前ら5人って言ったよな?」


「なあ真、あの2人なんかあったんじゃないか?」


 道明寺が最悪なジャ〇アンならこいつはちびデブなスネ〇。名前は藤山忠ふじやまただし。こいつも後輩だが、ただのデブなので心底どうでもいい。


「はあ! あいつら何やってんだ? さっさと探しに行こうぜ」


「おい、お前ら!」


「うっせえなあ、指図すんなクズ!」


 いやそれお前だよ? ……行ってしまった。


「酷い奴だね……それにしてもこのアラート、間違って押したのかな? それともホントに火事?」


「いや、舞依君。それよりも大変だよ。このアラートの音は」


 明日人さんの予想と俺も同じことを考えたと思う。舞依の予想は通常であればその通りか、メンテナンス作業とかもあるだろう。だが今は違う。であれば


「ですね。まずゾンビが音に反応するのなら、集まってくる。そしてもしも押す必要に迫られて押したのなら、危険を仲間に知らせる為」


「既にゾンビが入ってきている可能性があるという訳だね」


「えっ、私たちせっかくバリケード作ったのに……」


 がっくりと落ち込む気持ちもわかる。可能性は色々あるが考えてる暇はない。


「とんでもない愚か者ピエロが居たものだね。さっきから尻ぬぐいをする僕らの気持ちを考えて欲しいよ」



 ※



(嘘だろ。あいつ俺のコト噛みやがった)


 少年は首を抑え、友人だったモノから逃げていた。


(クソクソ! こんな事ならあいつの付き添いで付いてくるんじゃなかった)


 非道な行いをしていた少年たちだが、彼らにも仲間を思いやる心を持つものは居る。その思いが特に大きい彼は体調の悪い友人に付き添った。


 それが彼の人生の中で最大の不幸。


 善行を重ねた者は祝福されると言うが、無情にも彼は見捨てられる。


(道明寺達に知らせねえと!)


 それでも彼は友人達に、危険を知らせようと頭を巡らせる。


(火災報知器!)


 通常の火災などであれば、最適な判断だったかもしれない。だが今は違う。


 少年はパンドラの箱を開ける。



 ※



 下の階から叫び声が聞こえる。


「うあああああああああ! 誰か助けてえええええええ!」


 一番最初に見かけた人物だ。その後ろにはゾンビが、ひい、ふう、みい、ダメだ! 多い!


「あははは浩治君。あれがゲームで聞くトレインかい?」


 笑いごとじゃないよ! リアルであれ、やられる機会が来るなんて思わなかった!!


 少年の後ろには、電車の連なる後部車両のようにゾンビが付いてきている。


 ソロでなら敵をおびき出すのにも使えるが、あれは……率直な感想を言うと


「こっちくんな!!」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

~ZOMBIE MEAT PANIC3 DEAD EATER~


「こちら堀田ホーリー。大佐、俺は裏切られたのか?」


「ああ、彼は僕らの期待を裏切った。僕としてもまさかこんな展開になるとは思わなかったよ」


「だがね堀田ホーリー、君には目の前の任務を遂行する必要がある。分かっているね?」


「……もちろんだ大佐。任務を遂行する」


   

次回 ディフェンス ミッション お楽しみに

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る