1章 壊れた世界

第1話 お目覚めはゾンビに囲まれて

 堀田浩治ほりだこうじ、17歳。高校2年生。成績は結構頑張って中の上から上の下といったところか。英語は苦手。運動は……球技はからっきしだが柔道は少し出来るかな。


 冬は炬燵でミカンを食べたり、寝正月して過ごす怠惰な男だ。そんな男が、だ。


 緊急事態エマージェンシーである。


「コウちゃん! 起きてお願い!」


「んっ……?」


 ゆさゆさと身体を揺すられ思わず目を覚ますと、馴染みのある女性の顔がすぐそこにあった。


「えっ……舞依まい?」


 彼女は川下舞依かわしたまい。クラスメイトで俺の好きな人だ。


「コウちゃん! 早く立って、ゾンビに追われてるの! 逃げなきゃ!」


 はい? 何を言ってるの? ゾンビ? バイオ〇ザードのゲームでもしてたっけ?


 ここは車の後部座席のようだった。起きて外を見ると正面に人だかりがあって、何か燃えてる?


「てか……寒い」


「あっこれ着て」


 上着を受け取り、舞依に促され外に出る。


「つめたっ!」


 てか舞依も俺も裸足である。降り積もった雪の上に足跡が出来る。


「舞依どうなってんのこれ?」


「あの人が時間を稼いでくれてるの!」


 正面の血だらけの人々は明らかに正気を失っているように見え、その中に燃えた棒を振り回している人が居た。


「すみません! 起こしましたけど、後ろの建物に逃げるんですか?」


「やあ、起きたんだね?」


 彼は一瞬こちらを目で確認し、ゾンビを燃やして足止めするとこちらに駆けてきた。


「そうだね。その建物に入って!」


 車の反対側には大きなショッピングモールがあった。


「コウちゃん! 行こう」


「お、おう」

 

 玄関に入る俺達、その後を男性と人……舞依の言う通りならゾンビが沢山追って来た。


「ヤバいだろあの数!」


「追い付かれちゃうよ!」


「2人とも伏せて!」


 男性が振り返り思いっきり棒をぶん投げた。 


「爆ぜろ」


 彼の言葉と共に炎が膨れ上がり爆発し、ゾンビ達が吹っ飛ぶ。


「すまない。今ので僕も打ち止めだ」


 息を切らしている彼の額には、汗が流れていた。


 こういう時はええーと、そーだ! バリケードを作るんだ。


「ああ、どうやら待ってくれないみたいだね」


「嘘……」


 炎に身を焼かれながらも新たなゾンビ達が、建物に侵入してこようとしていた。

 

「バリケード作る時間なんかないじゃん……」


「コウちゃん! 上に早く逃げようよ」


「君たち2人で……どうにか出来ないかな?」


 どういう意味だ? 無理に決まってるだろ。それに俺は目覚めたばかりで何が何だか分からない。


「出来るわけないでしょ!? 戦車でも持ってきてください!」


「そうか……でどうなんだい?」


 俺の否定の言葉を受け、彼は舞依に改めて尋ねた。


「わ、私は……何も……」


 舞依はゾンビの群れに怯えて俺の袖を掴んでいた。


「あんなの俺達にどうこうでき━━」


『出来るわ』


 突如誰かに呼ばれたが、振り返っても舞依が居るだけで他には見当たらない。


『あれを動かなくすれば良いのでしょう? それなら簡単だわ』


「誰だ……?」


『大丈夫よ。貴方の思う通りに壊せばいいのだから』


 俺の独り言に舞依が首を傾げる。


『ワタシを信じて? 今のあなたは全てを屠る切り裂きジャックジャック・ザ・リッパー。さあ、貴方の思うままに蹂躙なさい?』


 声の主が誰かは分からない。自分自身の痛い妄想だと思ったけど、彼女の声に俺は突き動かされる。目の前の邪魔者を斬れと衝動が溢れてくる。


「仕方ない……使いたくは無かったが━━」


 男性が前に出ようとする。


「待ってください」


 舞依に目配せし離れ、男性の前に出る。


 入口から入って来たゾンビに向かい俺は獣のように片手を振るう。


「らあああああ」


 ザシュッと壁に爪痕を残しながら、周辺のゾンビはボロボロと崩れ落ちた。まるでステーキを切断するナイフのように、6等分にされた。


 俺が手を振る度、肉片が増産されていく。自身の手をよく見れば、それは赤い血を纏った5本のかぎ爪にも見える。10秒もしないうちに玄関は、直視すらできないほどの地獄絵図。血と肉片が散乱し、今もそれが増え続けている。


『さあ雑魚どもに止めを刺しましょう?』


「消えろぉ!」


 地面にかぎ爪を突き刺すと、目の前の地面から血の槍が突き出た。それは波のように前方に広がっていき、見える範囲のゾンビを串刺しにした。


 一方的な蹂躙だった。


「いやぁ……」


 舞依はそれを見て座り込み頭を抱えて恐怖し、


「やっぱり、そういう事なんだね……」 


 男は顎に手を当て微笑む。


 ガラスに映る俺の瞳は、真っ赤に染まっていた。



 ※



「すみません……ちょっと自分の状況が全然分かってないので正直……混乱しています」


 俺達は玄関での殺戮ショーを終えた後、ショッピングモール内の家具売り場にて情報を整理していた。


「ああ、無理もないよ。2人共体の方は大丈夫かい?」


「私は、大丈夫です……」


「俺も何ともないですよ」


 俺と舞依は病院の患者みたいな恰好で上着だけ着ていたので、建物内で服を着替えた。


 炬燵こたつで温まりながら、ソファーに置いてあったブランケットを彼は手渡してくれた。優しい。


「ありがとうございます。舞依ほら……着て?」


「ありがとう、コウちゃん」


 今舞依は俺の隣にピッタリと座っている。


 炬燵が狭いわけではないんだから、別にもう少し離れても大丈夫だと思うけど……うむ。信頼されていてとても嬉しいよ。


 それにしても近い……。


「……仲良しだねえ」


 微笑ましい物を見るように目の前の彼が言葉を紡ぐ。


「えっいや……」


……舞依さんや……恥ずかしくて赤くなる位なら最初から離れて……

 

「あっ、まだお名前を聞いていませんでしたね? 改めまして私は堀田……」


「堀田浩治君。だよね?」


「えっ? 名乗りましたっけ俺?」


 驚いてちょっと素が出てしまった。


「いいや、元から知っていたからね」


 イケメンが眼光鋭くニヤリと微笑む。まるで獲物を見つけた肉食獣のような目だった。なんかちょっと怖い。


 舞依が教えたのかな?


「そ、そうですか。あなたのお名前は聞いてないと思うんですが教えていただいても?」


 少し気圧されながらも、彼の名前を聞く。


「僕の名前は茂神明日人もがみあすと。宜しく浩治君」


 彼は絵に描いたようなイケメンだ。ホワイトのハイネックのセーターにパーマを掛けた茶髪のマッシュ、男性アイドルや俳優さんのような見た目だね。さわやかと言うより、少しだけ影がある雰囲気が大人っぽさを感じさせている。ヤベー普段の俺なら声かけれ無いわ……。


「え、ええ、よろしくお願いしますね明日人さん」


 とりあえずの挨拶は済ませたので、まずは状況を整理したい。


「で、なんですけど……俺たちはどうしてここに居るんですか? てかあのゾンビとか何なんです?」


「…………」


 舞依が隣で俯いたままになっているので、とりあえずこの明日人さんに聞いてみよう。


「あの後、君たちを施設から連れ出して来たのだけどね、道中ゾンビの群れが居てね。迂回していたが逃げ切れず、今ここに逃げ込んだという訳さ」


 施設? 全然覚えてないな。


「まあ色々準備したいとも思っていたしちょうどいいね。今やこの辺りに生存者なんて居ないだろうから、この建物は使いたい放題というわけだからね」


 そうなんだよな。ホントに誰も居ない。さっきのゾンビのせいでみんな避難したんだろうか。ちょっと怖いくらいだ。



「ゾンビについては君たちの方が心当たりがありそうだけどね?まあおかげでこの都市は。正確にはこの都市の、中心市街地の人間はだけどね」


「……は?」


 何を言っている? 彼は顎に片手を添え、片目で俺を見る。


「あの日、去年の12月25日クリスマスにこの中心市街地の人間は殆ど死んだってことになるね」


「…………」


 待て……去年? 都市が死んだ? 何を言っている?


「僕が助けたことで生き残っているのは僕と君達の2人」


「ちょっと待って。今日何日?」


「おっとすっかり忘れていたよ。2人にはこう言うべきかな? ハッピーニューイヤー、1月1日だね」


「あけましておめでとう!」

  

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~じかいよこく~

「ああ浩司君、死んでしまうとは情けない。仕方ないから転生させてあげよう」


悪魔は囁く。手に入れたチートは最強彼女! 舞依さんだー。


最強吸血鬼の彼女はゾンビ相手に無双する! 俺? 俺は彼女の電池けつえきらしい。


次回 記憶喪失の俺と最凶彼女! お楽しみに

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