第5話 研究所−2



 部屋に案内された。

 そこは、大きなテーブルに椅子が4つの簡素な部屋。キッチンなどがあるので、ここが研究をする場所ではないことはわかる。


 なんでこんなところに通されたのかは謎だが、ここにいれば博士という人物に会えるらしい。

 会えるらしいというのもリーアさんは、ここに通したあと僕をここに残してどこかに行ってしまった。


 博士を呼びに行ったんだろうか。人の部屋に知らない人を、それも一人にさせるなんて不用心にも程がある。



 そんなことを思いながら10分ほど。

 僕は、忘れ去られたのかと不安に思っていると扉が開けられた。扉を開けた人物は、あくびをしながら部屋の中に入ってくる。胸辺りまで伸びているひげが、左右に揺れていて面白い。


 「ふぅ〜……」


 その人物はいきなり、キッチンで水を飲み始めた。

 服は水色。ボタンが白い。

 うん、これは確実にパジャマだ。


 そして水を飲み干し、目の前の椅子に座ってきた。


 「君がリーアが言っていた、生まれ変わりたいと思っている邪者くんだね?」


 服こそは、ただの老人のように見えるが面構えがいかにも博士っぽい。


 「はい。……あの、ずっと気になってたんですけど生まれ変わるっていうのはどういうことなんですか?」


 「ふむ。聞いておらんかったのか。なら、わしから説明しよう」


 博士だというのが当たっていた。

 目の前の老人、いや博士は人差し指を上に突き立てながら軽快に言ってきた。


 「君のような邪者じゃものというのは、魔法を使えないので様々な人から迫害されていることはよく知っている」


 この人は、しっかり知識をつけているんだ……。


 中には何も知らず、僕たちのような邪者じゃものを邪魔な者として認識している人が多い。それも、なんの故意もなく。ただ、他の人たちがそう言って虐げていたから自分たちも同調して。


 「なぜ、邪者じゃものは魔法が使えないのか。これはわしが1から調べてきたことなんだか、邪者じゃもよは魔素を作ったり蓄えたりする臓器がないということがわかった」


 「なんでないんです?……」


 もし、そんな臓器があるのだとしたらなにかの拍子で気づいたりしないのだろうか。

 というか、どうやってその臓器を見つけることができたんだ……?


 「それはわしにでもわからん。だが、考えられるのは君のような邪者じゃものをしているということだけだ」


 「過去の体……?」


 ということは、人間は進化して魔法を使うことができる臓器を作り出したということなのだろうか。


 「これは最近、ある遺跡を解明したことでわかったことなんだがその昔、人間という生物は使ということがわかった」


 博士は、当たり前かのように言ってきているけど今言っていることって人間にとってかなりの大発見だと思うんだけど……。


 「だから、君のような邪者じゃものは過去の人間の体という表現は間違ってはいないだろ?」


 この博士がインチキではない限り、過去の人間という表現は間違えていない。たしかに間違えてはいない。


 だけど僕はわざわざ仕事終わりの夜に研究所を訪ねて、そんな歴史的発見を聞きに来たんじゃない。


 「それはわかったんですけど、それがどう生まれ変わるっていうのにどう関係するんですか?」


 「邪者じゃものは、魔臓まぞうがないから魔法を使うことができないということがわかった……。それを知ったわしは、世界から虐げられる人々君のような邪者じゃものを救うため、魔臓まぞうの生成に成功した」


 そういって博士は、テーブルの上に真っ黒で手のひらサイズの物体をおいてきた。その物体は、触れていないのにドクドクとまるで血管が通っているかのように動いている。


 「それって……」


 「あぁ……。これが人工的な魔臓まぞうだ」


 魔臓まぞう……。

 なんでそんな大事なものを、こんな汚そうなテーブルの上に置くのかはわからないのだが……。


「それを体の中に入れれば……」


「あぁ……魔法を使えることになる」


 これを体の中に入れると使うことができるのか。


 「だが、これはまだ試作品の段階なんだ。モルモットでは実験をして成功したんだが、人体では一度も実験なんかしたことない。だって、邪者じゃものなんてそうそういないんだから」


 たしかに僕はこれまで17年間生きてきた中で一度も同じ、邪者じゃものにあったことがない。この人が言っていることは本当なんだろう。


 僕は、人で実験してなくても魔臓まぞうを体の中に入れて魔法を使ってみたい。もう、人に虐げられたくない。

 モルモットで成功しているんなら、人でも成功するんじゃないか?


 「もし君が、なんでも魔臓まぞうを体の中に入れたいと思っているのなら、喜んで受け入れる。だが、命の保証はしない」


 「……お願いします」

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