第6話 超人−1



 体の中に魔臓まぞうという、人工物を入れて一週間が経過しようとしていた。


 「おいジン!! てめぇ、もっと早く塗れ!!」


 「すいませんッ!」


 今日も今日とておじちゃんの怒声が聞こえてくる。

 

 魔臓を体の中に入れてもらう手術は難なく終わった。

 そして、僕はこれから魔法使いになるんだ。そう思ったが一週間。体には何も変化がない。勘違いかもしれないが逆に少し、食欲がなくなってきた。


 結果的に、僕の体の中に魔臓とかいうよくわからないのを入れても何も変わっていない。僕は依然として邪者。他の人たちから虐げられる毎日は変わっていない。


 「よし! 早く休憩行ってきて、帰ってこい!」


 「はいっ! わかりました!」


 僕はそう言って、はしごから降りていく。

 ちなみに休憩っていっても、5分休憩。それが僕が仕事をしている中での唯一の休憩。正直、もっとほしい。


 だけど、邪者である僕なんかに5分も休憩をくれるだけホワイトなんだ。ここの前に働いていた新聞社だと、休憩なんて一切なかったからな。


「おい! 戻ってこいっ!」


「は、はいっ!」

  

 こんなふうにだいたい、作ってきたおにぎりをむさぼり食ったら休憩は終わる。そしてその後、いつも通りの集中力がいる塗装作業。




「やっと終わった……」


 今日も、夜空を見上げながらため息をつく。

 隣にはだれもいない。ディックは用事があるといって先に帰ってしまった。まぁ、そんなことを言われなくても先に帰っていていいんだけども。


 だけど最近、ディックとまともに会うことさえもできていない。顔を見るとしたら仕事を始める前の朝礼と、ディックが帰るときくらい。

 

 せっかく初めてできた友人なので大切にしていきたいんだけど……。


「邪者は世知辛いなぁ〜」


 せっかく、変なものを体の中に入れたのになんにも変わっていない。まだ僕はあのウリ文句のように、生まれ変われてないじゃないか……。


 家に帰って寝よう。

 僕はそんなことを思いながら、家までの近道である路地裏に入ると……。


 「おいおいおい……。久しぶりだな、自称ヒーローくん?」


 急に、目の前に二人の男が現れた。


 一人は目の下あたりに切り傷があり、額にまん丸の跡がついている。もうひとりは、そいつの後ろにくっつき気持ちが悪い笑顔を浮かべている。


 「えっと……」


 この人は、久しぶりだなと言っていた。

 僕は過去に、こんな人たちと会ったことがあるのだろうか……。


 「てめぇまさか、忘れたとか思ってねぇよな……。あんな屈辱的なことをされた俺様を、忘れたとは言わせねぇぜ!!」


 額にあとがある男が、僕の胸ぐらをつかんでその勢いで壁に体を追いやってきた。


 「うっ……」


 強い力で押さえつけられているので、背中が痛いし苦しい。

 押さえつける……? そうか、なんで忘れていたんだろう。こいつらは、この前リーアさんのこと襲っていた男二人組じゃないか。


 「あのときの……」


 僕に復讐しに来たとでも言うのだろうか……。


 「へっ! やっと思い出したか! 震えて眠れ!」


 「お前は少し黙ってろ……。こいつは、俺様の獲物だッ!!」


 「す、すぃせん……」


 後ろの男はそう言って一歩下がった。

 何なんだこいつら……。獲物っていうことは僕に一体なにをするつもりなんだ……?


 「オラァ!」


 目の前の男は、再び僕の胸ぐらを掴んでいる手に力を入れ背中を壁にこすりつけてきた。

 その声はどこか気合を入れ直しているように聞こえる。


 「てめぇ……。俺様になにか言うことがあんじゃねぇのか? あぁん??」


 言うこと……。

 おそらくこの男は、一度倒されたので僕に謝罪を求めているんだろう。だけど倒したのは僕じゃない。

 だが、たとえ相手が間違えているのだとしても僕はこんなやつに絶対に謝らない。謝るということは、こいつに負けたと言うことになってしまうからだ。


 「そんなこと、死んでも言うか!」


 「……そうか。じゃあ、死んでもらおうか」


 男はそう言うと、もう片方の手を僕の首に添えてきた。多分、この手に力を入れて僕のことを殺すつもりなんだろう。

 

 そんなの嫌だ。僕は、生まれ変わるんだ。


「はぁああああ!!」


 僕は、こんな強そうな相手絶対に叶うはずがないのだけど抵抗した。そして目の前の男を吹き飛ばすようなイメージをしながら、体に思いっきり力を入れる。

 

 するとどうだろう……。


 「がっ……」


 男は僕の力に負けたのか、奥の壁にめり込んだ。


 「……え?」


 目を擦って、もう一度見る。

 そこにいるのは、目を閉じて服をボロボロにさせられた男。


 また僕のことを誰かが助けてくれたのだろうか?

 そう思ったのだが、男が壁にめり込むとき僕の力に負けて飛んでいった気がする。って、ことは僕がああさせたのか? 僕が、男を壁にめり込ませたのか?


 「あ、兄貴!?」


 一歩後ろに下がっていた男は、慌てて駆け寄る。

 肩を揺らしたり、体を叩いたりしているが目を覚ましてはいない。


 「っく……」


 「おい! ちょっとまて!!」


 僕は走る。ここにたら、もうひとりの男のことも傷つけてしまうかもしれない。そう思いながら。


 「なんなんだよこれ……」


 両手のひらを見るが、その手はいつもの手。

 ところどころに豆があって、汚い手だ。とても男のことを吹き飛ばすようなことができる手ではない。


 「ん?」


 僕は博士に見てもらおう。そう思い、足を進めていたのだが路地で人が見えた気がしたので足を止めた。気がしたというよりかは、人影が見えたので幻覚ではない限りいると思う。


 「おい! そこに誰かいるのか!?」


 「…………」


 僕はいた方に声をかけてみるが返事はない。

 念の為、目を擦って見てみるがそこには何もいなかった。


 「気のせい……か」


 面倒なことや、気になることをすべて頭から捨てる。そして早く博士に自分のことを見てもらいたいと思い、再び研究所を目指してあ走り始めた。

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