第3話 邪者−3
何が起きたのか理解できない。
女性とその体を固定している男は僕がしたのかと、目を見開きながら見てきた。ということは、男が倒れた原因はこの二人ではない。
じゃあ、一体誰が……。
「――コツコツ……」
僕が背中を向けている方から、足音が近づいてくる。
まさかこの足音の人物が男のことを倒したんじゃないのか? もしそうだったら間違われて僕もやられるかもしれない。
そんなふうに思っているのは、僕だけじゃないらしく場は緊張感に包まれた。
そんな中、不気味な足音は僕の真後ろで止まった。
そして次の瞬間、肩がとんとんと叩かれた。叩かれたといっても、ソフトタッチなので痛くなんかない。
一度無視したのだが、もう一度叩かれた。
そこでなにかの間違いではないのだと思い、恐る恐る振り返る。いたのは……。
「ジン。お前、正義感だけあったとしても、力がなかったら何もできないことぐらいわかってるだろ?」
僕の後ろにいたのは、ディック。人差し指を不思議と上を向けている。そして指の先端に謎の白い煙がまとっている。一体何なんだろう?
ディックは僕のように邪者ではない。
なのでおそらく、魔法なんだろう。
僕はそこまで考え、ディックの顔を見る。
ディックの顔は引きつっており、呆れたような顔だった。
「助かった……ありがとう」
「……ほら、立てよ」
差し伸べられた手を握って立ち上がる。お尻についた土を払いながら、白目をむいて倒れている男のことを見る。
額に、血は出ていないものの小く丸くえぐられたようなあとがある。これをしたのがディックなのか……? 考えていてもわからない。
その時、僕は女性の前にもうひとり男がいたのだと思いだして慌てて女性の方をむく。
「いない……」
女性の体を押さえつけていた男はその場から忽然と姿を消していた。いたのは、両腕で自分の体を抱きしめている女性だけ。
男がどこに行ったのか気になる。だけど今は、目の前の女性のほうが大切。
そう思った僕は、ディックから手を離して服の汚れを落として女性の前まで行く。
「お見苦しいところを見えてしまいましたね……。どうぞ、もう安全だと思うので……」
僕は、手を大通りの方に向けて頭を下げる。
少し気取りすぎているかもしれないが、おそらくこの女性は急に男に襲われそうになったので怯えている。ならば、こういった対応のほうが気持ちが楽になるものだと思う。
そんなこと思っても、僕は女性じゃないし気持ちなんてわからないんだけども。
「あなた、もしかして邪者ですか?」
僕の右手は握られてきた。
不思議に思い、顔を上げる。
するとやはり、右手が女性の手が握られていた。どうやら、握手をしているようだ。なぜ、握手をしているのか気になるところ。だけど、今この女性は僕のことを邪者と言った。
僕が自発的に邪者と言っていないのに、なぜわかったんだ?
いやまぁ、戦いをしていたのに魔法を使わなかったからだと思うんだけど……。それだけでわかるものなのか?
「私、研究所で働いているリーアというものです」
リーアと名乗った女性はそう言って、ポーチから取り出した名刺を渡してきた。僕は、こんな状況なのになぜ当たり前かのように名刺を渡せるのか疑問に思った。
「……ご丁寧にどうも」
だが、受け取らないのは失礼だと思いペコリと小さくお辞儀をして受け取る。名刺にはたしかに研究所のリーアだということが書かれている。そして研究所の住所らしきものも。
そして僕が名刺を眺めていると、リーアさんはこんなことを言ってきた。
「突然ですが、生まれ変わって見ませんか?」
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