第2話 邪者−2


 「ぷはぁ〜……やっぱ、仕事終わりの酒は格別だなぁ〜!!」

 

 隣に、ジョッキを片手に臭い息を吐いている男が一人。

 結局あのあとディックがおじちゃんに怒られ、その反省と渉してなぜか僕と一緒に酒場……。いや、落ち着いた雰囲気のバーのような場所に来ていた。


 周りには僕たち以外誰もいない。

 いるのは、酒をだす人だけ。


 僕はこんなところ始めてきた。

 なので、少し飲んだらアルコールが効いたのかそれとも部屋が暗くて落ち着いているためなのかわからないけど、ディックに心を開き始めていた。

 

 「なんで僕なんかのことかばうようなことしたんだ? 知ってると思うけど僕は邪者じゃものだぞ? 善意であんなことしたとしても、お前も標的になるかもしれない……」


 過去に僕のことを偽善で助けようとしてくる奴らはたくさんいた。だけどいつの間にかそいつらは、僕のことを虐げる相手の立場になっていた。

 なんでそうなったか知らない。知りたくもない。


 だけどもし、僕のことをかばって逆に標的になっていたのだとしたらなんにもできない。


 「はっ! そんなの俺が知ったことか。あれは、俺が落としたペンキだったんだ。お前こそ、自分が邪者じゃものだからといって標的になるような真似しにいくんじゃねぇ」


 自分から標的になるような真似をしたのか……?


 僕はその後ディックと色々話したと思うけど、その疑問が頭の中から離れず会話の内容は一切記憶に残っていない。


「今日は結構楽しかった。また今度、一緒に飲みに行こうな」


「あぁ……じゃあ」


 そうして何時間か続いた僕たちの話は、無事に終わりバーのような場所から出た。そして、お互い背中を向けて自宅へと目指した。 


 すっかり夜中になってしまっていた。普段は賑わっている大通りも今や、静まり返っている。

 今度ここで、有名なバーガーを食べようかな。


 そんなのんきなことを思いながら、フラフラと歩いていたら……。


 「だ、誰かたすけてぇ!!」


 すぐそばの路地裏から、女性の悲鳴が聞こえてきた。

 こんな悲鳴を聞いたら無視できない。


 「おい……お前、まさか助けに行くわけないよな? お前は邪者じゃもので魔法なんて使えないんだぞ?」


 背中を向けて別れたはずのディックが僕の腕を掴んで、止めてきた。

 

 なんでこいつがこんなところにいるのかなんて、酔っている僕にはどうでもいいこと。今の僕の頭の中には、路地裏で悲鳴を上げている女性しかない。


 「そんなこと、僕自身よく知ってる!」


 僕はそう言って、ディックの腕を振り払う。そして、路地裏へと足を進める。


 いたのは、両手を抑え込まれた女性。そしてその前にはゲスな顔をした男二人。


 これを見れば、だいたい状況は理解できる。なので僕はぐっと奥歯を噛み締めて、男たちに聞こえるように咳払いをした。


 「んっん……」


 腕を組み、見下ろすように男のことをみる。

 実際、僕のほうが身長が低いので見下されているけど……。だけど、腕を組んで相手のことを威嚇するようにした。


 少ししたら、男二人は僕がいることに気がついたのか目を向けてきた。二人の目とあった。

 一人の男は目の下あたりに、数か所ナイフで切り裂かれたあとがある。怖い。怖いけど、女性を助けるため後ろには引かない。


 「なんだてめぇ……女のことを助けに来たヒーローかなにかか? あぁん??」


 目の下あたりに傷がある男が僕の方に歩いて近づいてきた。


 ヒーロー。僕は、邪者じゃものでヒーローなんていう立場じゃない。だけど、女性のことを助けに来たのは事実。

 

 目の前の男は、ポッケに手を入れているので完全に僕のことを油断している。


 「や、やめろ!!」


 覚悟を決め拳を握りしめ、男のお腹めがけて腕を突き出した!


 「そんなへなちょこパンチで俺様のことを倒せるとでも思ったのか!!」


 だが僕のパンチは男の片手で簡単に受け止められ、逆にお腹にパンチを食らった。


 「うっ……」


 たまたまなのか、みずおちに拳が入ってきた。

 僕はなんにも反応することができず、思わず体制を崩してよろけてしまった。


 男がパンチをした場所にズキズキとした痛みが残る。


 「だ、大丈夫ですか!?」


 今もなお、一人の男に体を固定されている女性は僕に向かって心配そうな声をかけてきてくれた。

 

 僕はその声を聞いて、自分のことが惨めに思えてきた。


 「はっはっはっ!! 助けに来たはずなのに、その女に心配されるなんて間抜けにも程があるだろ」


 男は僕のことを見下ろしながら、腹を抱えて盛大に笑ってきた。


 たしかに男の言うとおり僕は自分の力を理解していない間抜けだ。なので、笑われたとしてもそれが事実なので何も言い返せない。


 「うっ……」


 半ば諦めていると急に男は白目を向けながら、後ろに倒れていった。

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