第13話 二人で
「突入!!」
「なんだ?」
ディックは叫び声を聞いて、後ろを向く。
僕もさっきまで諦めかけていたのだが、自然と光が差し込んできている方に目がいった。
「いけいけいけいけいけ!! 一斉に、あいつらを囲んで拘束するぞッ!!」
――ダッダッダッ!!
光が差し込んでいるほうから一人の叫び声とともに、大人数の人影がこちらに走ってきているのが見える。
そしてそれと同時に暗く淀んだ空気の部屋に地響きのような、足音が響き渡る。耳をふさぎたくなるような音だ。
その様子を見たディックは、嫌そうな顔をしている。
おもむろに両手の先を足音がしている方に向けて……。
「――ドッ」
人の足音が、聞いたことのない重低音がなった瞬間一瞬にして聞こえなくなった。
何が起きているのかわからない。
僕は、少しでも今の状況を把握したいと思い人影に目をこらしていたのだがそれらすべては同時に、倒れていった。
「せっかく俺に気づかれていなかったのに、ドアから突入してそれも大人数で叫びながら入ってくるなんてお前らバカか」
ディックは、指先の煙を息で払いながら言った。
まさか、この人たちは僕たちのことを拘束すると言っていたのでゾースだったんじゃないか?
「――君のほうが、そんな幻覚と幻聴に惑わされていてバカなんじゃないか?」
不意に知らないかすれた男の声が、僕の後ろから聞こえてきた。
「なっ!?」
ディックは目をまん丸くし、慌てて僕の方に振り返る。そんな慌てた様子を見ると、僕にまで完全に意表を突かれているのが丸わかりだ。
ちなみに、僕も後ろに回り込まれていたなんて一切気づかなかった。
「ほいさ」
二人で唖然としていると、後ろから楽しそうな声が聞こえてきた。そしてその声と同時に、視界の上の方にディックの顔はめがけて向かっている足が横切った。
次の瞬間。
気づいていたら、目の前からディックがいなくなっていた。
「うっ……」
そして遅れたように、ディックの苦しそうな声が聞こえてきた。
この部屋は、僕の周りと奥にあるドアしか光がないので真っ暗。なのでディックがどうなったかはわからない。
おそらく目の前からいなくなりその後、奥から苦しんでいる声が聞こえてきたので蹴りをもろに食らったのだと予想できる。
数秒ディックの方から何も音が聞こえなくなった。
だが、それも数秒。
「クソジジィ……」
蹴ってきた人物に向かって、そんな乱暴な言葉を吐いた。そして、少しづつこちらに近づいてきている足音が聞こえてくる。
「やぁやぁやぁ。この国の裏社会でのボス様に一度会ったことがあるだけで、俺のことを覚えていてくれたなんて光栄だよ!」
「ペッ……。何が光栄だ」
ディックは僕の後ろにいる人物に会うのがよほど嫌だったのか、不満そうに地面につばを吐いた。
「はは……」
後ろにいる人はそんな様子を見て、苦笑している。
この二人は、前から知り合いみたいだけど一体どんな関係なんだ? 敵対しているのは見てわかる。
「お前のことを覚えていたのは、今度会ったときに憎しみを忘れずに殺すためだよッ!!」
ディックの叫び声と同時に、
「――ヒュッ!」
と顔の真横になにかがものすごい勢いで飛んでいった音が聞こえてきた。
僕は顔に当たらないでホッとしていたのだが、後ろにいったということは「あの人に当たっているんじゃないか!?」と心配していたのだが……。
「残念。それはハズレだよ? ふっふっふっ……。まだボス様は、この幻を攻略できないようだね」
さっきまでいたはずの後ろではなく、僕の右側から男の声が聞こえてきた。
幻ということは、後ろにいた人は偽物だったのか……? 全く気付けなかった。
「はっ! そんな幻、攻略するまでもない!!」
攻略しないのならどうやって、戦うんだ……?
そんなことを疑問に思っていると、突然膝に激痛が走る。なにかに貫かれたようなこの痛み。まさか、ディックのあれか? なんで僕に当たっているんだ。
まさか幻を攻略しないで四方八方に攻撃して、手数で勝とうとしているんじゃないのか?
「いてて……やっぱり、ボス様の魔法は特別だな……」
どうやら幻で惑わそうとしていても、手数には勝てず男にもディックの攻撃が当たってしまったらしい。
「くそっ……」
目の前で戦っている人がいるのに、ブラックマスクである僕が戦わないで見ているだけなんて屈辱だ。
何度もどうにか体の拘束を取ろうとしているが、超人的な力を持ってしてもこの拘束は解くことができない。
一体この拘束は何でてきているんだ?
「やぁ」
そんなふうに疑問に思っていると目の前に、白髪の老紳士がいた。
まさかこの人は、さっき僕の後ろにいた人なんじゃないか? でも、今も奥でディックと戦っている。ということは、これも幻なのかもしれない。
すごい便利な魔法だな。
「ほら、今のうちに逃げて」
そう言って、目の前にいた老紳士は霧になって消えていった。どうやら、本当に幻だったらしい。
僕はその事実に驚いていたのだが、言っていた言葉を思い出して体を見てみる。
「嘘……」
どんなに力を入れても解くことができなかった拘束が、いつの間にかとかれていた。
「あ、ありがとうございます」
ディックに聞こえないように、少しでも感謝の気持を伝えたいと思い小さな声でお礼を言っておく。
そして老紳士が言っていた通り、早くこの場から逃げようとしたのだが途中で足が止まった。
僕はブラックマスク。果たしてこんな状況で逃げ出すようなことをして、いいんだろうか?
目の前には、戦っている人がいる。
「ほいさ」
老紳士はかんぱいれずに、幻をうまく使って蹴りを繰り出している。それをディックは、完璧とまではいかないが腕で捌いている。
この様子を見るに、ディックと老紳士今のところほぼ互角のように見える。
僕なんていなくても、大丈夫そうだな……。
そんなことを思った直後。
「お前の攻撃なんて、来るとわかっていたら何も怖くないんだよッ!!」
「ぐっ……怖く、ないなんて、傷ついちゃうな……」
連撃を繰り出していた老紳士の足は容易に掴まれてしまい、戦いに決着がついてしまった。
見ればわかるが、勝者はディック。
ディックの体を見ると、どこも怪我をしていない。しいていえば、服が乱れているだけ。対して老紳士は、体中にディックが攻撃するときの跡のよつなものができていた。
この様子から察するに、全然互角ではない。ディックの一方的な攻撃だったことがわかる。
そんな状況だったのに、あの老紳士は僕のことを逃がそうたしたのか……?
老紳士は文字通り命をかけて僕が逃げる時間を作ってくれた。なので、こんな迷わないでさっさと逃げたほうがあの人のためになるんだろう。
「じゃあな、クソジジィ。いつもいつも俺の行く道を邪魔しやがって……。まぁお前は、ゾースの隊長としてよく働いたと思うぞ」
ディックはそう言って、自身の空いている手の指先を老紳士のお腹に突きつける。
あと数秒で、あの人は死ぬ。
僕は、そんな光景を見て……。
「やめろッ!!」
僕は、ディックのことを止めようと思いっきり足で地面を踏み込んで手を伸ばして近づく。
「……え?」
自分でも、今何をしたのかわからない。
だけど、目の前を見るとわかる。
息が切れている僕。
地面には、倒れ込んでいる老紳士。
そして奥で、壁にぶつかり倒れ込んだディック。
どうやら僕は、勢い余ってディックのことを吹き飛ばしていたようだ。
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