第12話 嘘と真実
「うっ……」
いつの間にか寝ていたみたいだ。重いまぶたをあげ、目を開ける。
目の前は、真っ暗。なにもない。僕はここで一体何をしていたんだろう。
「……え?」
とりあえず椅子から立ち上がろうとしたが、体が動かない。否、体が動かないんじゃなくて体が動かせない。
「あ? ようやく目が覚めたか……」
正面から明かりがつき、やってきた人物がいた。その人は、ディック。
そうだ。思い出した。僕は、博士とリーアのことを殺したかもしれないディックと路地裏で話していたんだ。そして、握手をしようかとしたときにお腹になにかを当てられて気絶した。
あの魔法には身に覚えがある。あれは、一度助けてくれたときに使っていた魔法。指先から何かを放つやつ。
ってことは、僕はまんまとディックの作戦にかかってこんな場所に拘束されているのか。
「なんで僕のことを椅子で拘束するんだ……。僕がしたことは、誠心誠意謝らせてくれ。だからそのためにも外してくれないか?」
「そんなことするわけ無いだろ。正直に言うと、俺は今すぐにでもお前のことを殺したい。だけどその前に、いたぶってやる」
そう言って、ディックが僕に見せびらかしてきたのは自身の指先。その指先には、白い煙のようなものが纏っておりどこか煙の匂いまでもする。
おそらく、これで僕のことをいたぶるということなのだろう。
「早まらないでくれ……」
一度何個か体に受けただけで、魔臓の力で強化されているはずの体でも気絶してしまった。もしあれ以上のものをくらったら、僕の体が保てるのかそれが心配だ。
「早まる? そんなこと知るか。というより、何でここに俺しかいないのかわからないのか??」
「…………」
たしかにここには、ディック以外誰もいない。
口ぶりからしてもしかして、他に仲間がいるんだろうか? もしそうだとしたら、僕は絶体絶命じゃないか。
「お前が俺の仲間を捕まえたりしたせいで、他の奴らは全員腰を抜かしていなくなったんだよッ!」
ディックはそう言って僕の額に一本の人差し指を突きつけてきた。
まさか……。
僕の悪い予想は当たってしまう。
「うっ……」
額に人差し指が突きつけられた場所から、顔が貫通したかのような痛みを感じる。
そしてそれと同時に、視界がグワングワンと揺れて目の焦点があわない。目の前にいるはずのディックは、3重に見える。
「やっぱり一つだけじゃ、お前は気絶しないな」
「なぁ。そんなことしてもなにも解決しないぞ……。とりあえず話し合わないか?」
ディックからいつまた攻撃されるのかわからないので、まともに謝ることさえもできない。
「チッ。なんでお前が俺に意見を提案してるんだよ。自分の立場を弁えろ!」
「がっ……」
再び、先程と同じ額に同じ激痛が走る。そして二度目だが体は慣れてはおらず、体が椅子に固定されているがそのまま上に飛び上がってしまった。
「……本当にお前はバカなんだな」
「少し落ち着いてくれ……。僕の知っている君は、こんな人をいたぶるような真似する人じゃなかったぞ」
話しかけても意味がないと思い、説得することにした。この説得は心からのもの。
僕が知っているディックは、いつも笑っていて明るくて頼れる存在だった。なので今、僕のことを拘束しているディックは受け入れがたい自分がいる。
「あのときの俺は、
「くそっ。どうすれば……」
僕はディックの仲間である悪人を裁いたことは、悪いことだとは思っていない。でも、そんなこと言い続けていてもいつまで経ってもここに拘束されたまま。
そんなことを思っていると目の前にいるディックの目つきが、さっきまでの復讐に燃えたぎっている目ではなく鋭い目つきに変わった。
「おい、自称正義のヒーローくん」
「……なんだ」
自称ヒーロー。僕は一度も、ヒーローだと自称なんてしたことない。だけど、ディックは僕が返事をすることを望んでいる。なので、口を開いた。
「お前は世の中の悪人を懲らしめてさぞ気分がよかったかもしれないが、そのせいで出ている損害を考えたことがあるか?」
「なんのことだ」
損害……? 僕が悪人を裁いたことによって、そんなもの出るはずがない。
だって僕は、悪人を懲らしめて善良な国民を守っているんだから。
「おいおい。やっぱりお前は何も考えていなくて、正義感だけが強いんだな……。」
正義感だけが強い……。
一度前に言われた言葉。
僕が、無責任だと言いたいのか?
「人殺し、薬、闇魔法その他諸々。それらの依頼は、俺らのような日陰者が管理してたんだ。だが今じゃ、全部破綻している。だって、依頼をこなす人間が一人もいないんだから」
「そんなの、君のような人間が依頼するものだろ?
実質的には、この国にはまったく損害にはなっていない」
「いいや、それがなるんだな。依頼っていうのは、依頼主がその解決を求めて求人するから成立する。だけどその求人がいない今、ここにいる人間の鬱憤は晴らされていないんだ。ちなみに知らないと思うから参考までに言ってやるが、少なくともこの国の人間の過半数は裏ルートを使って様々な依頼をしてきている」
「……嘘だ」
この国に住んでいる人たちが。
僕が守ってきた人たちが。
僕が悪人を裁いていたのに、「実は私たちは悪人でした」なんてことあるはずがない。
でも、あるはずがないだけでそういうことが実際に起こり得ることなので完全に否定はできない。なので僕はわざと、「嘘だ」と口に出して事実から目を背けようとした。
「嘘じゃねぇよ。本当だから今ここに俺しかいないんだぞ?」
「うっうっ……」
頬に止まることのない涙が流れていく。
僕は今まで悪人を裁いていってたのに、一体何をしていたんだと。博士とリーアを失い、唯一の友人だと思っていた人が悪人だった。
その衝撃の連続で、ずっと見てみぬふりをしていた
心のなかにあるポッカリとした穴を実感する。
そしてその虚無感に負け、涙を流していた。
「はっはっはっ! お前は本当に目先の正義しか見えてなくて、本能のままに突っ走るバカなんだな」
バカ。たしかに僕はバカだ。
興味本位に命の保証がない魔臓という人工的なものを体の中に入れて、それで手に入れた超人的な力で悪人を裁いていっていただけで自分が生まれ変わることができたと錯覚していたから。
僕はもう、何もできない。ここで罪を償って死ぬもの悪くないかもしれない。
そんなことを思いながら目を閉じようと、諦めかけていたとき……。
「突入!!」
そんな男の叫び声とともに、ディックの後ろ。僕の目線の奥からうっすらと光が差し込んときた。
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