第9話 嫌な疑い−1
「博士!! リーアさん!」
僕は数秒どうなっているのか理解できず、突っ立っていた。たが目が覚めて二人のもとに駆け寄る。
「嘘だ……」
さっきから胸が一切動いていなかったので、まさかと思い息や心臓を確かめてみたが二人とももう死んでいた。
なんで?
死んでいるんだ??
こんなこと、誰がしたんだ……。
その疑問は、額を見たらわかった。
「ディック??」
二人の額には、3つなにかの跡がついていた。小さく丸く、何かにぶつかったかのような跡。
これには見覚えがある。この前、リーアのことを助けようとしたときに返り討ちにあって、その時に男から僕のことを助けてくれたディックが使っていた魔法。
でもなんでそんなのが、二人の額についているんだ……?
「そんなの……」
もう分かっている。二人のことを殺したのは、ディックの可能性が高いということは。
だけど、理解したくなかった。だってあの人は僕が生きてきた中で、初めての友人。そんな人が僕の周りの人を殺すなんて考えたくもない。
でも事実は事実。
まだ、本人に確認していないので別の人物が殺したのかもしれない。今日の仕事のときにそれとなく聞いて見よう。
「よし」
僕はそう決めて、考えるのをやめた。
今するべきことは、二人のことを天に送ることだ。
*
「ごめんなさい……」
二人のことを埋めた土に手を合わせて謝る。
何もできなかった自分に。
巻き込んでしまったかもしれない自分に。
セキュリティがあまいことを知っていて、何も言わなかった自分に。
体感数分目を閉じていた。だけど実際はどうせ、1分ぐらいなのだろう。
「ふぅ〜……」
目を開け、気持ちを切り替える。
朝日はもう、昇っている。二人のことを失って、心のなかがぽっかり穴が空いている。
心の状況は過去一番に最悪だ。
だけど、これからいつものように仕事。
そしてその仕事のときに、ディックに深夜何をしていたのか聞かないといかないといけない。
*
僕は寝る暇がなかったのでそのまま仕事場に行った。だがそこには、ディックの姿がなかった。
いつまで経ってもこなかったので、休みなのかとおじちゃんに聞いてみると……。
「え? ディック、この仕事辞めたんですか?」
「んぁ? あぁ……昨日お前と帰る前、そんなことを言ってきたぞ。なんだ。お前あいつと、仲良さそうなのにそんなことも知らなかったのか」
そんなの知らなかった。
昨日のディックはいつも通りだったのに。……いや、もしかして昨日飲みに誘ってきたのはそのことを相談しようとしていたんじゃないか?
もう、辞めていなくなったのでわからない。
そしてそれと同時にディックがいなくなった今、二人のことを殺した犯人の手がかりがなくなってしまった。
「僕も辞めます」
「は!? 何いってんだ!?」
正直、自分でも勢いで言っていることはわかっている。でもここで引いたらブラックマスクとして、一人の友人として、二人の命を奪った人を許すことができない。
この仕事をやめたら、明日どうやって生きていけばいいのか検討もつかない。だけど、ブラックマスクとしての裁きを優先する。
自分のことなんて後回しでいい。
「ごめんなさい。
僕は、おじちゃんに背中を向け逃げるように走り去る。
「おう! どこ行くか知らんが、頑張れよ!」
逃げていっているのに、追いかけもせず励ましの言葉をかけてくれるなんてやっぱりこのおじちゃんはいい人だ。
僕はこのペンキ屋で働いて人間として、一つランクが上がった気がする。
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