第8話 みんなのヒーロー
「ふわぁ〜……」
苦しんでいる人を助けると決めてから一ヶ月。
僕は決めた通り、仕事が終わった夜。襲われそうになっている人を助けたり、強盗をしようとしていた悪人を裁いていった。裁いた悪人は、僕ではどうしょうもないので体に縄を巻いてこの国の取締をしているゾースにあげている。
そんなことを続けていると、たまたま目撃した人が僕のことをブラックマスクとかいう変な名前を勝手につけて新聞にしたりしてきた。
その新聞はまたたく間に話題となり、ブラックマスクという名前はこの国中の人間に知れ渡っていった。
ちなみに名前の由来は、黒いマスクを被っていたかららしい。なんとも、率直な名付け。まぁ、僕が人間のことを助けているのを認知してもらういいきっかけになったからいいんだけどね……。
「なぁ、ジン。最近お前、いつも眠そうにしてるよな。ちゃんと寝てるのか?」
仕事の帰り道。
今日は、ディックが僕の仕事が終わるまで待っていてくれた。僕はなんにもしていないのに、いつも気にかけてくれるいい友人だ。
「あ、あぁ。まぁ少し眠りにつきづらかったりするけど寝てるぞ?」
「そっか。なら、いいんだけど……」
僕は、毎日怪しまれないように鏡でくまができていないか確認している。今日もなかったはず。
なので、寝不足だということはわからない。ってことは、ディックはよく僕のことを観察でもしているのだろうか。それはそれで少し怖いんだけど……。
「あっ! これから、いつもの場所で酒飲まないか?」
ディックはわざとらしく、思い出したかのように言ってきた。
「ごめん……今日はパスしていいか?」
これから、ブラックマスクとしてやることがある。
僕がいなくなったらこの国は、悪人が増えてしまう。なので毎日見回っているんだぞということがわかるように、見せしめとして悪人を裁かないといけない。
こんなこと、いくら友人であるディックにも言えない。多分、言ったら僕が正義のヒーロー気取りだと軽蔑されると思う。
もし軽蔑されなくとも、ディックが僕がブラックマスクだと他の人に言ってしまうかもしれない。
そんなリスクを背負いながらわざわざ言う必要もないと思う。
「いや、今日はって……。お前最近、いつもパスしてんじゃねぇか。ん? もしかして、俺と酒を飲まなくなって眠そうにしている……。お前まさか、女ができたのか!?」
「急に変なこと言わないでくれよ。僕にそんな相手できるわけないじゃないか。……じゃあ、僕はこっにだし」
「おう。また明日」
そうして僕たちは、逆の方向に背中を向けて別れた。
*
「クソっ!! てめぇさえいなければ、全部うまくいってたのに!」
「はいはい。残念だったね」
これで今日、捕まえた悪人は合計7人目。こいつは、店の強盗としようとしていた男。
もう時間は、夜中の3時ぐらいだろうか。そろそろ終わりにして、寝たいところなんだが……。
「てめぇ、なんか最近ゾースに狙われてるらしいな」
縄でぐるぐる巻きにされ、柱にしばりつけられた男は楽しそうな目を向けながら言ってきた。
「はぁ? 僕はあいつらに悪人を受け渡してるんだぞ? そんなことをしてるのに狙われてるわけないだろ」
そもそも僕がゾースに狙われる理由がわからない。
だって、僕はゾースと同じようにこの国をより良くするため、苦しんでいる人を助けるため悪人を裁いているんだ。
「はっはっはっ! てめぇ、何も知らねぇんだな。最近ゾースの牢獄から俺たちの仲間が脱獄してきたんだがそいつらが、看守たちがてめぇのことを捕まえるだとかなんとか言ってたって言ってたぞ」
それは本当なのだろうか……。
もし嘘だとしても、頭の中で考えてしまって集中できなさそうだ。となれば、今こいつが言っていたそのゾースの牢獄か脱獄した仲間を調べる必要があるな。
「有益な情報どうも」
「な!? てめぇ! 有益だったんなら早くここから俺を出しやがれ!!」
「なんでそんなことしないといけないんだよ。君が勝手に僕にとって有益な情報を言っただけだろ?」
「クソがッ!!」
男は僕の方にまでつばを吐き散らしてきた。
まったく……強盗をするだけあってバカだな。
「おいお前たち! そこで何をしている!?」
「じゃあな。マヌケな強盗くん」
僕は、誰か人が来たのでそう言ってジャンプし家の屋根をつたって足を動かしていった。
*
目の前にあるのは、明かりがついている一軒家。ここは博士とリーアが住んでいる研究所。なぜここに来たのかというと、あの男が言っていたことについて相談するためだ。
本当は僕一人で考えたほうがいいんだと思うんだけど、博識の博士の知識を借りて考えたほうがいい結果になると思う。
「――コンコン」
「…………」
僕がノックをしても、なんの物音も聞こえてこない。いつもだったら、ピンク色の服を着たリーアか水色のパジャマを着た博士が出迎えてくれる。
「博士ッ!」
「…………」
声を上げてみたが、返答はない。
明かりがついているので、この家の中にいるのはわかっているんだけど……。なにか大切な実験でもしているのだろうか……?
僕は面倒くさくなり、ドアノブに手をかけ引いてみる。
すると、すんなりとドアが開いた。
「不用心にも程があるだろ……」
知らない僕のことを一人で部屋の中に入れるといい、玄関のドアを開けっ放しにするといいこの家の人たちは危機感というものをまるで理解していない。
ここは腐っても研究所。
研究者にとってここにあるものは、宝の山だろう。誰かが強盗にきたりでもしたら、一体どうするのだというのだ。
「なぁ、もうちょっとたセキュリティの部分を強化したほうがいいんじゃない……」
僕は部屋にいるであろう博士たちに聞こえるようにそんなことを言いながら、ドアを開けたのだが目の光景を見て体が止まる。
「博士……? リーア……?」
二人は仰向けになりながら、地面で横たわっていたからだ。
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