くるみん、勇者になる。

サムライ・ビジョン

第1話 くるみんビーム

「うぉー…おぉい! うぉー…おぉい!」

「「「あなたの瞳に?」」」


「くるみんビーム!!」

「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」


30分後…




「お疲れ。今日も素晴らしいライブだった」

「うぃーっす…どっこいしょお! えーい…あっ、あざーす」

プロデューサーから受け取ったボトルの水をグイッと流し込む…


「…んぐんぐ…かーっ! キンッキンに冷えてやがる!」

「くるみん、そんな座り方をしては下着が見えてしまうぞ」

「別にいいっすよ。見慣れてるでしょ?」

「見慣れてない。椅子の上であぐらをかくのはやめなさい」


ライブが終われば、アタシはイメージカラーの「オレンジ」をようやく無視できる。

「アタシちょっくらトイレ行ってくるわ」

「いってら〜」

「トイレットペーパー使いすぎるなよ〜」

「うるせ〜よ!」

レッドとブルーに茶化されつつも、アタシは控え室を出た。


「…あれ? 藤森さんもトイレっすか?」

「いや、俺は一服しに…」

プロデューサーも行くのか。なんか連れションみたいだな!


「ん? …藤森さん、あの人って?」

廊下を歩いていたところ、向こうから誰かが近づいてくるのが見えた。アタシは藤森さんにコソコソと話しかけたが…

向こうが話しかけてくるのが先だった。


「あのっ…くるみちゃんですか!?」

話しかけてきたのは中学生くらいの女の子だった。セミロングの茶髪で水色のワンピース…アイドル顔負けのビジュアルだ。


「はい…そうですが」

「失礼ですが、事務所にアポは取られましたでしょうか?」

藤森さんはアタシより少しだけ前に出て問いかけた。

「アポ…いや、そういうのじゃなくて…あの」

ムムッ…挙動不審だな。

「無断でこちらに立ち入るのはご勘弁願いたいのですが…」

「あ、あの…えと…」

「…藤森さん。あんまり責めないであげてください。この子も悪気があるわけじゃなさそうですし…」

下を向いてモジモジする彼女を見ていたら、たとえ不法侵入をしていたとしても用件くらいは聞いてあげたくなる。


「あのっ、くるみさん!」

「なんでしょう?」

「1回だけでいいんです! 私に…ビーム! そう…ビームしてくれませんか!」


はは〜ん? アタシが目当てときちゃあ、サービスするっきゃないですなぁ?


「構いませんとも! あ、ちなみにお名前をお伺いしても?」

「え? あ、アリスです!」

「オッケー…いきますよぉ? んんっ…」


咳払いをして少し息を吸い…


「ターゲットはぁ…アリスちゃん! 狙いをすましてぇ? くるみんビームっ!!」

左足はそのままで右足上げて…左手は萌え袖みたいにウッフン! そして右手の人差し指を? グルっと1回転!

…キマったね。我ながらキラめいてる。




「あっ…わー…すご〜い…」

(…あ、あれ?)

もしかして引かれてる? そんな渇いた拍手はしないでくれ…


「ちなみに、私もそういうのできるんですよ! 私のも見てほしいです!」


はぁ? ビームさせるだけさせておいて? 今度は私の番ってか? はぁ? はぁ?

「ア、ドゾ」

そんな風に悪態をつけるのは頭の中だけだ…

さてさて、どんなクオリティーの決めポーズをするつもりなのかね?


「いきますね?」

女の子はしゃがみ込んで、両手を床にあててクラウチングスタートのようなポーズをとった。

アタシと藤森さんは顔を見合わせた。ほぼ同時に肩をすくめて、そして同時に彼女を向き直した…のだが。




「…ありゃ?」

「…なにが起きた?」


教会…そう、チャペルのような場所にいた。

会場の廊下にいたのが、教会にいた。

…ん〜? ちょっと意味が分からんのだが…

アタシと藤森さんとアリスちゃんは、ここにいる。

廊下だったのが、教会になって…


…はい!?


いやいやいや! お互いに顔をぉ? 見合わせてぇ…そっから前を向いたら…教会になっててぇ…って、そんなことある!?


「ビックリしましたよね。いきなりこんな場所に連れてこられて…」

連れてこられてって、この子が犯人なの!?

「私たちが教会にいるのは、ひょっとしてアリスさんのしわざなのか?」

藤森さんの問いかけに、アリスちゃんは無言で頷いた。

…ちょっと待って? よく見たらアリスちゃんの周りに魔法陣みたいなのが書かれてるんだけど!?


「それってもしかして魔法陣? それでアタシたちを、あの会場からこの教会に!?」

「ええ。私が魔法陣で転生させました」


転生?


「ここはもうではありません。あなた方が元いた世界とは違う世界…いわゆる異世界、パラレルワールドです」


異世界!? パラレルワールド!?

なんでアタシたちが!?


「仮にあなたの言っていることが本当だとして、なぜ私たちをこのような別世界に呼んだのだ? 目的がまったく分からないのだが」

ナイス藤森さん! アタシが言いたいこと、代わりにそのまま言っちゃった!


「…あなた方の世界には『百聞は一見に如かず』ということわざがあるそうですね。…ここに来てもらった理由として、くるみさんの持つ高い能力が挙げられます」

「ええ…アタシの? 高い能力ってなんのこと…?」

思わずドキッとした。アタシがきっかけで異世界に来たって? …藤森さんの「お前のせいか」的な視線が怖いんだけど…


「あそこに大きな岩がありますよね? あれに向かって、いつものように『くるみんビーム』してください。とびきりの笑顔で!」

「え、なんでそんなこと…」


「百聞は一見に如かず…ですよ。あなたは今、そのオレンジ色の衣装でライブ中…あの岩がくるみさんの大ファンだとして…渾身のビームを! お願いします!」


ぜんっぜん意味わかんないけど…


「…ターゲットロックオン! 狙いを定めて…」


このとき、アリスちゃんが固唾をのむ音が聞こえてきたような気がした。




「くるみんビーーーーームッッッ!!」

その瞬間…

アタシの右手の人差し指から、オレンジ色の「何か」が岩に向かって放たれた。

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