第3話
授業の合間の時間、和歌葉は桜の花弁を、掌の上に乗せて眺めていた。
昨日、「幽霊池」の畔の桜の下で、桜月が落としていった花弁だった。朝、目を覚ましてすぐに、和歌葉は、枕元に置いたハンカチの上にまだ、桜の花弁は残っているかを確認し、確かにある事を見届けると、その心は歓喜に満たされた。昨日の桜月との再会は、決して夢でも幻でもなく、あの時、桜月は間違いなく存在していたのだと証明されたからだ。
早く学校が終わってほしいと、浮ついた気分に和歌葉は浸っていた。学校が終わり、家に親が帰ってくるまでの時間は、あの、「お化け桜」の下で桜月との秘密の逢瀬が出来るからだ。
そうして、学校が終わる度に和歌葉は、「幽霊池」の畔の、「お化け桜」の下で待っている桜月に会いに行った。桜月は、和歌葉が詩や、歌を書いている事を知っていたので、和歌葉の創作ノートを見たがった。一番の親友である佳織以外には見せた事のない創作ノートであったが、和歌葉は桜月には見せても良いか、と思い、自分が書いた詩や歌を読ませた。佳織以外の人に見せるのは恥ずかしくて躊躇われていたが、自分の書いた詩や、歌を桜月は毎回気に入っては、褒めてくれた。
季節は二月でまだ寒い時期だったが、その池の畔で、桜の下で桜月と過ごす時間は和歌葉のこれまで十六年の人生の中で、一番満ち足りていた時間だったと言える。
「終わりがくる事は分かってる。この場所が無くなってしまったら、私はもう、桜月に会えなくなるかもしれない。それでも、残された時間を桜月と、私は過ごしていたい・・・」
しかし、桜月と再会し、一月あまりが過ぎ、少しずつ陽気に春の気配が交じり初めた頃、変調は突然に、和歌葉の体を訪れた。
その夕暮れも、「お化け桜」の下で和歌葉は、自分がノートに書き綴った詩やら歌を、桜月に見せては彼女の論評を聞いていた。
いつもと同じように、すっかり落日の刻を過ぎ、赤光に照らされていた池の水面の色も、夜の黒に変わる頃になって、和歌葉はノートを閉じると、桜月に別れを告げて、帰る為に立ち上がろうとした。
その時、和歌葉は強烈な眩暈に襲われた。もう少しで倒れそうになり、急ぎ、桜の幹に手を付いた。
「和歌葉⁉どうしたの?」
桜月が驚き、そう聞いてきたが、和歌葉は取り繕い、
「だ、大丈夫・・・ちょっと、ふらふらしただけ、だから」
と言って、桜月を残し、後にした。
少し疲れただけだろうと、言い聞かせ、ふらふらする体を無理やり動かして、和歌葉はどうにか自宅まで帰り着いた。そして、家の中に入ると、今度は何かにむせたように激しい咳が出た。たまらず、口元を抑えながら洗面所まで走り、洗面台に向かって和歌葉は激しく咳き込み、胸からこみ上げてきた物を吐き出す・・・。それは、鮮血だった。
「え・・・?」
和歌葉は、鏡に映る自分の顔に目をやる。唇の端から一筋、血の雫が垂れている。
吐血したらしいという事に気付くのに、時間はかからなかった。急いでティッシュで口元の血を拭い、それをトイレに流し、吐血の証拠を隠す。
自分の体に何が起きているのか、理解が出来なかった。和歌葉は、現実から目を逸らすように、食事にも手を付けず、ふらつきに耐えながらシャワーだけ手短に済ませると、ベッドに潜り込んだ。疲れが溜まっただけだろうと、自分に言い聞かせながら。
しかし、翌日になっても、更に翌々日になっても、和歌葉の体調に改善の見込みはなかった。家を出る時には、母親から
「和歌葉?顔色が悪いわよ、本当に学校行って大丈夫?」
と尋ねられたし、実際、学校に登校しても殆ど授業に出ておられず、保健室で寝て過ごすようになっていた。一度、保健室の洗面台で吐血してしまった時などは、その痕跡を隠す為に往生したものだ。
それでも和歌葉は、桜月の元へは足を運び続けた。桜月と会える残された時間は一日、また一日と少なくなっているのだから。
一番、和歌葉の様子をよく見ている佳織が今、学校にいないのが、せめてもの幸いだった。佳織ならば、和歌葉の異変にすぐに気付いてしまうだろうから。佳織は、入院していた祖母が亡くなり、その忌引きに入って、学校を休んでいた。
桜月の前で元気に振る舞ってみせるのにも、限界があった。
ある日の夕刻、遂に和歌葉は、桜月の前で、桜の木の下の地面に倒れ込んでしまった。
「和歌葉!!しっかりして、和歌葉!!」
どうにか、意識を取り戻した和歌葉は、それでも、桜月に心配をかけてはならないとの一心から
「だ、大丈夫・・・だって。ちょっと、最近体調が優れないだけで、心配要らないから・・・。幽霊の桜月に、生きてる私が体の心配されていたら、笑い話にもならないわね」
と軽口も混ぜつつ、桜月に言い聞かせた。
「でも・・・この数日くらい、明らかに様子が変よ。体はふらふらしているし、時々苦しそうに咳き込むし・・・」
「たちの悪い風邪を引いたのかも。でも、桜月は心配いらないでしょう。幽霊なんだから、伝染る心配もないんだし」
そう言いながら、しかし、和歌葉の胸にまたせり上がってくる物があり、それを和歌葉は懸命に抑え込んだ。
「ごめん・・・桜月・・・。私、今日はちょっと、もう帰るね・・・。体の具合が優れなくって・・・」
和歌葉は、立ち上がるにも苦労する程だったが、そう言い残して、桜月の元を立ち去った。
家に帰るには、時間はまだ少し早い。街を歩いているうちに、体のふらつきも少しずつ治まってきたような気もしたので、和歌葉は、しばらくぶりに、忌引きで学校を休んでいた佳織の元に、様子を伺いに行ってみる事にした。
「はい、高千穂です」
インターホンを鳴らすと、聞き覚えのある声が響いてきた。和歌葉もよく知る、佳織の母親の声だった。和歌葉が名乗ると、すぐに目の前でドアノブが回り、玄関の扉が開いた。
「あら、和歌葉ちゃん、久しぶりね・・・・。ど、どうしたの和歌葉ちゃん!!」
扉を開けて出てきたのは、佳織の母親だった。彼女は、和歌葉の顔を見た瞬間に、驚愕の声を上げた。
「え・・・どうされましたか?」
「わ、和歌葉ちゃん・・・体、何ともないの・・・?顔色、凄く悪いわよ・・・?」
別に今は、体のふらつきも胸の痛みも治まっている。和歌葉はしばらく佳織と会っていないから、佳織に会わせてほしいとお願いすると、佳織の母親は了承してくれたが、佳織の部屋まで案内される途中も、和歌葉は、佳織の母親からの視線を強く感じていた。
佳織の家の二階に上がり、彼女の部屋の前まで行くと、小学校の頃から、何度も見た「かおりのへや」と書かれた木版が、扉の前に貼られている。
「丁度いい機会だったかもしれないわ・・・。佳織も、和歌葉ちゃんに、何か話したい事があるとは言っていたから・・・」
「佳織から、話したい事・・・?」
和歌葉には、心当たりがない。取り敢えずは、話をしてみれば分かるだろう。
佳織は、祖母の忌引きが終わり、学校に戻ったら、和歌葉に告げねばならない事があった。
「お化け桜の下の亡霊少女に、会いに行くのをやめて」
と。和歌葉が何と言おうとも引き留めるつもりだった。
佳織が、最初に和歌葉の異変に気付いたのは、教室で、ある時、彼女が自分の掌の上に、桜の花弁を乗せて、うっとりとそれを眺めているのを発見した時だった。
それはまだ季節が二月の頃、桜が咲くはずもない時期の事であり、和歌葉の掌にある、この季節に存在していない筈の淡い桜色の、脆い花弁に佳織は我が目を疑った。
そして、佳織の推測はすぐに、あの「お化け桜」と、「幽霊池」のあの場所に飛んだ。あの場所で起きる怪死事件『桜の下のオフィーリア』は、どの季節に起きても、水面に浮かぶ少女の遺体の周りには、その季節に咲く筈のない桜の花弁が、いくつも浮かんでいた。この季節に存在しない筈の桜の花弁を、和歌葉が持っていた事、そして、和歌葉が今尚、あの場所に特別な執着を抱いている事から、和歌葉はあの場所に行ったのではないかと疑惑を抱いたのだ。
その為、ある日、佳織は思い切った行動に出た。学校を出た後の和歌葉を、尾行したのだ。すると、予想通りに和歌葉は、真っ直ぐに家には帰らずに、「幽霊池」とその畔の「お化け桜」の元へと向かっていった。
そして、木陰から密かに様子を見ていた、佳織は、信じ難い光景を目にする。和歌葉が桜の木の下に座っていると、其処に、白いリボンのセーラー服姿の少女が、霧が立ち込めるように、桜の花弁を散らしながら、姿を現したのだ。それを見ても和歌葉は全く動じる事なく、まるで友達と話すような感覚で、あの創作ノートを広げながら、にこやかに話をしていた。その目は、あのセーラー服姿の亡霊の少女を見つめていた。
自分が正気を無くしたのでなければ、これは大変な事態だ。和歌葉が亡霊の少女に魅入られてしまっている。
人間が、幽霊と親しくすれば、霊障・・・人の生命力が削られ、様々な異変が起きる可能性がある事は佳織も知っていた。
和歌葉が、これ以上桜月と関わるのを止めなければ、彼女の命が危ない。
そうした折、和歌葉が自分の家にやってきた。佳織は、話をする丁度良い機会だと思い、扉を開け・・・そうして、絶句した。
「和歌葉!!どうしたのよ、その顔!」
和歌葉は、佳織の部屋に入るや否や、体がきついのか、崩れるようにして、カーペットの敷かれた床に腕をついて座り込んだ。
和歌葉の顔は血の気を失い・・・、死期が近いようにすら見える程、蒼白に見えた。
佳織の不吉な予感は、最悪の形で的中してしまった。かなりの霊障を受けているに違いない。
「和歌葉・・・貴女・・・、『幽霊池』の『お化け桜』の下で、幽霊の女の子と会っていたでしょう。それもここ最近、ずっと」
佳織に詰め寄られ、和歌葉は最初
「え?な、何の事?幽霊の女の子って・・・?」
などとしらを切ろうとしたが、こちらには、和歌葉があの桜の下に行っていた事を示す確たる証拠がある。
「とぼけても無駄よ!私、この目で見たんだから!和歌葉が、あの池の畔の桜の下で、白いリボンの、セーラー服姿の女の子の姿の幽霊に会ってるところ、話しているところ、全部見たんだから!」
佳織は、容赦なく、その事実を和歌葉に突き付ける。まさか、佳織に尾行されて、あの池でのひと時を全部見られていたなど、夢にも思わなかったのであろう。
「か、佳織・・・?私の後をつけてたの?」
佳織は「ごめん・・・。でも、そうするしかなかったから」と言って謝った。
和歌葉は、怒気を孕んだ口調で話し出した。
「どうして・・・、どうしてそんな事するの!!佳織にとっては、唯、怖い幽霊でしかなくっても、私にとって、桜月は・・・あの亡霊の女の子は、昔、私の命を助けてくれた大切な子で・・・ずっと、あの桜の下で、何十年も孤独に耐えてきた、苦しんできた子なんだよ!私の事を、桜月は『和歌葉は私の大切な人』って言って、大事に思ってくれてる。私には、幽霊でも、あの子が初恋の子なんだよ!それを邪魔・・・ぐっ!」
桜月というのは、あの亡霊の少女の名前であろうか。
顔色を変えて、佳織に向かって叫んでいた和歌葉は、その時、突然両手で口を抑えた。そして、体をくの字に折り曲げるとゴホゴホと激しく咳き込み出した。その、必死に口を塞いでいる両手の、指の隙間から赤い雫が垂れ始め、糸のように指に手に、絡みついていく。
「ねえ、和歌葉・・・よく聞いて。貴女、今、自分の体は想像してる以上に、大変な事になってるのよ。霊障って言葉知ってる?」
ようやく、咳が治まった和歌葉が、両手を口から離すと、その両手は、鮮血に染まっていた。その姿だけでも、あの亡霊少女が・・・和歌葉の言う「桜月」が、彼女の放つ霊力によって和歌葉の体を蝕んでいるかは一目瞭然だった。
「れ・・・霊障・・・?」
唇を、吐き出した血で赤く染めたまま、和歌葉は荒い息をついて、問い返す。
「そう。幽霊に人間が深く関われば関わる程、霊によって、人の精神も体も蝕まれていく。あの少女・・・桜月自体にその意思がなくても関係なく、ね。彼女と深くかかわってしまったから、和歌葉の体はかなり蝕まれている筈よ。そんなに吐血してしまうくらいにね」
佳織は、カーペットの上で両手を赤く染めたまま、座り込んでいる和歌葉に近づいていき、和歌葉の肩を抱きしめた。きっと、食事もあまり取れていないのだろう。和歌葉の肩は細くなっているように感じられた。
「お願い、和歌葉・・・。もう、桜月に近づくのはやめて・・・。あの子は幽霊、和歌葉は生きてる人間。その壁を越えて、結ばれる事なんて出来ない。あの子自身に和歌葉の命を奪う気がなくても、霊力で、和歌葉の体はどんどん傷つけられている。このままじゃ、和歌葉、本当に死んじゃうかもしれないんだよ・・・?私、和歌葉がそんな事になってしまったら・・・。」
最悪の結末を想像し、佳織は身を震わせる。和歌葉を失ってしまう事など、自分には耐えられない。桜月の為に、霊力で和歌葉が死んでしまうかもしれないと、ただ和歌葉を引き留めるのに必死だった。
しかし、和歌葉は佳織の腕を突き返し、こう言った。
「私の大事な桜月にもう会えないなんて、そんなの嫌だ!!佳織も知ってるでしょ、もうすぐお化け桜も、幽霊池も再開発計画で舗装の為に全部無くなってしまう事。この春の桜の季節を過ぎたら、桜月に二度と会えなくなってしまうんだよ・・・。お願い、あと少しの期間だけでも、桜月に寄り添わせてよ・・・」
和歌葉は、桜月に心を奪われ、冷静な判断はもう出来ない状態に陥っている・・・。
和歌葉は佳織にとっての大切な人だから、桜月の霊障で失いたくはない・・・。その事を和歌葉に分からせるには、大胆だが、もうあの方法しか残されてはいなかった。
佳織は、彼女の頬を両手で包み込むと、彼女の、血で紅を塗ったように赤く染まったその唇に、自分のそれを重ねた。突然の、佳織の行動に、和歌葉も大きく息を呑んでいる事が分かる。和歌葉は、必死で佳織の胸や肩を腕で押し返して、引き離そうとするが、佳織は、素早く腕を和歌葉の背中に回してしっかりと抱き込み、そうさせなかった。和歌葉の血の味のする口づけだった。二人が口を離すと、唾液に薄っすらと血が混じった橋が、お互いの唇の間に架かった。まさか、佳織からこのような事をされるとは、夢にも思っていなかったのだろう。佳織が唇を離すと、和歌葉は息を荒くして、茫然とこちらを見つめていた。
「え・・・?か、佳織・・・。これは一体、どういう・・・」
「ごめん、和歌葉にとって桜月が大事なのと、同じくらいに、私も和歌葉の事が好きで、大切って事を、分からせるには、こうするしかなかったの・・・。この好きが、単なる友達としての、好きじゃないって事くらい、和歌葉にも分かるよね・・・。友達以上の意味で、私は和歌葉が好き・・・」
あまりの、意表を突く展開だったようで、和歌葉は理解も追い付かぬ様子で、佳織を見つめている。幼馴染としか見做していなかった相手から、いきなり気持ちを伝えられたら、こうなるのも仕方はないだろう。
「私がどうして、ここまで、和歌葉に拘るのか、その理由が分かった?」
和歌葉はふらつく足取りで何とか立ち上がると、目を見開いたまま、佳織を、酷く戸惑った眼差しで見つめている。
そして、扉の方まで後退りすると、扉をバッと開けて、外に飛び出ようとした。
それを佳織が呼び止める。
「待って!!あともう一つ・・・これも、多分、あの場所の亡霊少女-桜月に、関係のある話だから」
「・・・何?」
「先日・・・私のお祖母ちゃんが亡くなる前に、変な事をうわ言のように言ってるって、話したでしょう?『ごめんなさい、ごめんなさい・・・貴女を裏切って・・・』って、ずっとそう言ってるって」
「・・・あの事が、桜月とどう関係があるの」
「お祖母ちゃんが亡くなる、本当に前の日ね。主治医の先生から、もう今日明日が山だろうっていう風に言われていたから、家族で、最期のお別れを言うつもりでお見舞いに行ったの。そうして、お見舞いを済ませて帰ろうとしたら、突然お祖母ちゃんが、私の手を掴んで、私にだけ、病室に残るように言ってきた。だから、病室に残って、お祖母ちゃんにどうしたのか、聞いてみた。そしたらね、ずっともうろうとして、話をするのも難しいような状況だったのに、本当にその時だけ、目覚めたようにはっきりした口調で、こう言ったの。
『これは、墓場まで持っていく秘密にするつもりだったけれど、お前にだけは伝えておくよ、佳織。お化け桜と幽霊桜の伝承の由来になった真実を。あの時、春代(はるよ)と、満開の桜の下で心中する約束だったのを、途中で怖くなって、破って、心中から逃げてしまったのは、私なの!春代はきっと、私の事を恨みながら、一人、池の底に沈んでいったのに違いないわ・・・。それからよ、春代が一人、桜の下で入水してから、あの桜はお化け桜に、池は幽霊池って呼ばれるようになったのは・・・。ああ、春代、春代・・・許して!!』
そう言い残した後は、激しい興奮状態になって、先生が強い鎮静をかけて、また眠らせて・・・それっきりだったわ。
でも、これだけは言える。あの時のお祖母ちゃんは、妄想を口走っていた訳なんかじゃないって事は。あの、お化け桜と幽霊池の伝承の始まりは・・・あの亡霊の少女が一緒に死ぬ筈だった本当の相手は、私のお祖母ちゃんだったのよ」
和歌葉は、激しい衝撃を受けた様子で、目を見開いたまま、立ち尽くしていた。
「春代・・・。それが、あの子の・・・桜月の、生前の名前・・・。そして、心中する筈だった相手が、佳織のお祖母ちゃん・・・」
「恐らくね・・・。まさか、心中する筈だった相手の孫が私だったなんて、思いもしなかったわ」
佳織はそう告げる。そのうえで、和歌葉に宣告する。
「和歌葉。貴女が、桜月を好きなように、私も貴女を友達以上の意味で、好きで、大切に思っている。桜月の霊力が貴女を殺してしまう前に、私は絶対、貴女を引き留めるわ」
次々にもたらされた、衝撃的な情報に耐え切れなくなったのだろう。和歌葉は佳織の部屋の扉を開け放ったまま、廊下をバタバタと走り去っていった。
和歌葉が去った後、机の引き出しから創作ノートを取り出して、佳織は眺めていた。今日まで口に出せずにいた、和歌葉への愛を、必死に「貴女」を「貴方」に書き換えて表現を誤魔化して書き綴った、詩や歌が其処には並んでいた。
「ごめんね・・・和歌葉。でも、私は、和歌葉の命を守らないといけない・・・。私は和歌葉の事を愛しているから」
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