第11話
三星の去った屋上で、カズマは彼女から守りきったヘアピンを前髪につけた。
鏡がないからどう見えるかわからないが、そもそも他人からどう見られるかなど気にしてはいない。
落ちなければ良いと、深く髪の毛を食わせる。
一つ息を吐いて、ポケットを探った。
屋上の鍵にくっつけた、鬼のお面のキーホルダー。
思いのほか役に立ったなと思う。雪見大福を望子とシェアできたのも、水族館で吐かずにやり過ごせたのも、このキーホルダーの力あってこそだった。
でも。だからこそ。
カズマはキーホルダーを鍵から外して、そっと柵に引っ掛けた。
「今度、ちゃんと捨てに来るから」
呟いて、背を向けた。
罪にまみれた右の手のひらをぐっと握りしめる。
カズマは鞄を背負うと、登りかけの朝日を背に、校舎への扉を開けた。
始業までもう幾ばくも無い。全速力で階段を駆け下り、廊下を走った。すれ違う人すれ違う人みんなカズマを振り返るが、気にしている場合ではない。
いつもの教室へ一直線に駆けた。
バシン! と勢いのままに引き戸を開ける。
おそらく騒がしかったと思われる教室は静まりかえり、視線が一斉に集まってきた。
が、カズマは意に介さず、大股で教室の中に足を踏み入れる。
本を広げたまま呆然とこちらを見ている望子の手を掴んだ。
「望子。水族館行こう」
彼女は状況が理解できていないのか、カズマに引っ張られるがままに立ち上がった。
「え、は、なに?」
頭の中が真っ白にでもなったのだろう。ろれつの回らないままに戸惑う。
すると、きっと先まで望子と喋っていたのだろう。彼女の隣で、野田がカズマに向けて歯を見せた。
「吉根。次は俺も混ぜろよ」
「もちろん」
カズマも笑い返して、いまだ目を白黒させている望子の手を引っ張った。
ちらりと時計を見やる。
あと一分で始業の時間だ。各クラスの担任がやってくる頃。急がなければ止められる。
「望子走るよ」
「え、ちょ、まっ」
つんのめる望子の手を引いて、ダッシュで教室を出る。どたどたと鳴り響く足音に、各教室からなんだなんだと人が出てくるが、今のカズマには関係ない。
すべての視線を交わして下駄箱へ一直線に向かった。
正面から、葉名があくびをしながら歩いてくるのが見えた。
「体調悪いんで帰ります!」
「お大事になー」
すれ違ったやる気のない声は、いつもよりどこか明るく聞こえた気がした。
靴も履き替えず校舎を出る。校門の外まで駆け抜けたところで、膝に手をついた。
同時に、始業のチャイムが鳴り響いた。
「な、なに、いきなり、カズマ」
荒い呼吸を整えながら望子が尋ねてきた。
「望子と、水族館、行きたいと、思って」
「いや、ほんと、意味わかんないんだけど」
呼吸が落ち着いてくると、だんだんと望子は憮然とした様子になっていった。
「なんなのいきなり。鞄も何も持ってこれなかったし上履きのまんまだし。なんで水族館なの。そもそもこれから授業じゃん。チャイム鳴っちゃったし。ていうかカズマなんで学校休んでたの」
ぼさぼさの頭もそのままに、怒気のこもった声で矢継ぎ早に疑問をぶつけられる。
当然の反応だ。全く反論の余地もない。
何も言い返せずにいると、望子は腕を組んでぷいとそっぽを向いた。
「言っとくけど私まだ怒ってるからね。水族館行ってなんとなく楽しかったねで無かったことになると思わないでよ」
「わかってる」
「ほんとにわかってる?」
じろりとカズマを見る望子。
「ちゃんと、望子と話したい。僕の気持ちを聞いてほしいし、望子の思いを聞きたい」
「それは……それはわかったけど、なんで水族館なの。そもそも水族館って野田と三人で行くって話だったでしょ」
「三人でも行く。野田君は友達だから。でも、僕は今、望子と二人で行きたい」
「な、なにそれ……」
望子は勢いをそがれ、たじろぎ、ふいと目をそらした。
「望子」
彼女の両手を握り、カズマは正面から見据えて言った。
「今日一日、望子の時間が欲しい」
学校でお留守番している望子の財布に代わって、道中の電車代と入館料はカズマの手元から旅立っていった。軽くなった財布を鞄にしまって、磁石のように反発する足を無理やり動かして入場ゲートを通過した。
「止められるかと思った……」
「ごめん、そこまで気が回らなかった」
「カズマがこんなに考えなしだとは」
チケットを買うときも入場ゲートでも、スタッフの人から露骨にうろんな目を向けられた。ド平日の午前中に制服姿の男女がペアで水族館へやってきたのだ。当然の反応と言えた。
せめて寮に帰って私服に着替えるべきだったかと思ったが、こういうのは勢いが大切である。
ちなみに靴だけは、こっそりと下駄箱に戻って外履きに変えた。
「でもほら、こないだと違って凄い空いてる」
周囲の閑散とした様子を指さすカズマに、望子は「そうだね」と依然冷たい目を向けたまま同意した。
薄暗い空間へと歩きながら、カズマは提案した。
「望子。ハンコ巡りしない?」
「……スタンプラリーのこと?」
「いや、望子のハンコが欲しい」
「…………なんで?」
ハンコノートを鞄から取り出すカズマ。
望子は理解に苦しむと言わんばかりに口をへの字に曲げた。
「カズマもハンコ一位目指してるの?」
「いや。全然。ただ、望子のハンコが欲しいだけ」
「……わかった」
しぶしぶといった様子で了承された。
「やるならどこか座れるところの方がいいんじゃない」
「まあ、立ってても書けるし」
「書きにくいでしょ……暗くてよく見えないし……」
ぶつくさと文句を言いながらも、望子はカズマのノートを受け取った。
「はい、じゃあカズマ、何か質問ある?」
「望子、なんの魚が好き?」
「ブリ」
「いや食べるほうじゃなくて」
周囲を見回して突っ込む。閑散とした館内だが、全くの無人というわけでは当然なく、老夫婦や若いカップルたちがのんびりと見て回っている。
つられて視線を巡らせた望子は「ああ、そういうこと」とつまらなさそうに言った。
「ペンギンとか可愛いよね」
「サメじゃないんだ」
「本物は、ちょっとリアルすぎるから」
入寮初日に購入したサメのぬいぐるみを思い出す。あれももうカズマの部屋から引き上げられた。きっと今は守良の部屋で望子のベッドの中で寝ていることだろう。
「次は私の質問ね。カズマの好きな魚は?」
「なんだろう。フグとか?」
「贅沢だね」
「食べるほうじゃなくて」
そもそもそんな高級品、食べたことなどあるはずがなかった。
「次、望子、好きな映画は?」
「カズマ知ってるでしょ。シャイニング」
「そうだった」
そんなこんなで水族館をのんびり進みながら、数問、表面をなぞったようなやり取りを交わした。
半分くらい埋まったページ。
大水槽、カズマたちの上を通り過ぎるサメを見送った。ポケットに入れた右手は何も掴むことはない。代わりに拳を握った。
いつまでも浅瀬でちゃぷちゃぷしてはいられない。いい加減、深いところへ潜らなければ。
「望子。僕の話を、少し聞いてもらってもいい?」
「それ質問?」
「質問。だから、望子の答えがノーなら話さない」
望子は真意を探るようにじっとカズマを見つめて、やがてふっと目をそらした。
「いいよ」
「ありがと」
後ろに設置されたベンチに並んで腰を下ろした。
「えっと、何から話そうか……」
両手を膝の上で握りしめ、親指の爪をこすりながら呟く。
そんなカズマを、望子はじっとまっすぐに見つめる。
カズマは瞼を閉じ、大きく息を吐いた。
鼓動に集中する。ゆっくり、静かに、落ち着ける。
瞼をを開け、酸素を取り込み、望子の目――その上の、傷痕を見た。
「消えない傷をつけて、友達を失わせて、未来を奪った。僕の右手の痛みは、望子への罪の記憶で、罰だと思ってるんだ」
望子の眉がぴくりと動き、瞳が一瞬揺れた。
空気が少しひりついた気がした。
カズマは拳を痛いくらいに握りしめて、望子を見つめたまま言葉を続ける。
「だからこの前、望子に触れて、痛くなかったことがショックだった。贖罪は全く終わってなんかないのに、僕の中の罪悪感はその程度だったのかって思った」
「なにそれ」
カズマの独白に、望子が眉をしかめた。
「私、何回も言ったじゃん。怒ってないって。許してるって」
「知ってる。だからこれは僕の問題。僕が僕を許せてないっていうだけ」
「めんどくさ」
望子は深いため息をついた。脱力したように後ろにもたれかかり、天井を見上げる。
「許すとか許さないとか、カズマは真面目過ぎる」
「葉名先生にも同じこと言われたけど、別に真面目ってわけじゃないんだよ」
カズマの言葉に、望子が露骨に表情をゆがめた。
「……もし仮にあの人が全く同じことを言ったとしても、私の方がより正しい。カズマに対する理解度が違う」
「そ、そうだね」
憮然とする望子から放たれる圧力に、カズマはとりあえず同意しておいた。
望子は肘を膝に立てて、顎を手のひらに預けて水槽を見上げ、不機嫌そうに言った。
「で? 贖罪が終わってないってどういう事? 痛みがなくなったならもう良いんじゃないの?」
「それは……」
「カズマにとっての終わりってなに?」
望子の問いかけに応えようとして、言葉が出てこない。
俯き、心臓から言葉を引っ張り出そうとシャツの胸元を握った。
「……わからない。終わりはないのかも。一生消えない傷をつけたんだから」
ゆっくり、間違えないように言う。
カズマの答えに、望子は腕を組み、苛立たしげに右足でコツコツと床を叩いた。
冷たい目をカズマに向け、口を開く。
「あのさ。あえて、被害者としての立場を楯に言うよ。この傷より、その考えの方が迷惑」
自身の額、真っ赤なカチューシャより目立つ痛々しい傷痕を指差す。
彼女の声に明らかに増えた棘が、カズマの胸を刺す。
「小学生のころ、私たちの間には被害者も加害者もなかったでしょ。私は、あの頃みたいな関係に戻りたいだけ」
望子はそれだけ言うと、ふいとそっぽを向いた。
カズマは思い出す。
彼女との関係が決定的に変わってしまった修学旅行。
それまでの、幼馴染だとか、一番の友達だとか、そういう柔らかい言葉が簡単に潰れてしまうものだったのだと、終わってから理解した。
大切なものは失ってから気づく。そんな手垢のついた言葉を、三年以上の間噛みしめ続けてきた。
「僕もずっと、望子には昔みたいに戻って欲しいって思ってたよ」
カズマは静かに言葉を紡いだ。
ここから先の言葉によって、きっと、間違いなく、彼女は激怒するだろう。
この三年間の、ふわふわした土台の上に積み上げた日々はあっけなく崩れ去るだろう。
もしかしたらもう本当に一生口を利いてもらえないかもしれない。額につけた以上の、深い傷を彼女の心に残すことになってしまうかもしれない。
そんな予感に、胸が締め付けられる。呼吸が浅く、上手く酸素を取り込めない。四肢の先端が冷えて感覚を失う。
怖い。
それでも、本音で向き合わなければならないと思った。
「僕が傍にいたらいけないと思ってた。クラスの中心でいつも笑ってるような望子の方が幸せそうだったから。望子はあの頃に戻るべきだって、ずっとそう考えてた」
三年間、彼女の隣で胸の内に秘めてきた思い。それを、初めて言葉にした。
「カズマもそうやって言うの?」
声のトーンが、数段低くなった。
望子は目玉が飛び出しそうなほどに目を見開き、唇をわなわなと震わせる。
怒りに紅潮した頬をそっぽに向け、膝のノートをぐしゃりと握りしめた。
「みんなそう。私を可哀相って。不幸だって。カズマが悪いんだって。そうやって言う」
声が震える。
首筋に血管が浮き出る。
「私の何を知ってるの? 傷痕があったら不幸なの? カズマが謝って、私が許した。それで終わりじゃないの?」
カズマが見たことのないほどに、語気荒く饒舌に語る。
彼女の瞳に宿る強い光が、カズマを射抜く。
「私は、何も変わってない。周りの私たちを見る目が変わっただけ」
「……」
望子の言葉は、ある種正しい。カズマはこれまで、彼女の内心を勝手に決めつけ、彼女のためと称して自分のエゴを通そうとしてきた。
きっと彼女の言う『みんな』とカズマは、何も違わないのだろう。
「変わったよ。僕も、望子も」
だが、それでも、カズマは首を振った。
「変わってない!」
望子はヒステリックに叫んで、ノートを掴んで床に叩きつけた。
勢いのままに立ち上がり去ろうとする。
カズマは反射的に彼女の手首を掴んだ。
「離して」
「離さない」
「離して!」
望子が力いっぱい腕を振って、カズマの手を振りほどいた。
肩で息をする望子。目尻に涙を浮かべ、キッと睨みつける。
カズマは彼女の感情を真正面に受け止め、おもむろにヘアピンを髪から外した。
歪み、色が剥げ、オシャレと呼ぶにはあまりに不格好なそれを手のひらに乗せる。
三星の言葉で、カズマはようやく己の過ちを理解した。
お酒を飲んだことのない状態にも、喫煙経験のない人にも戻ることはできない。
酒やタバコに限った話ではない。きっと、人生は全部一方通行で、不可逆なのである。
「このヘアピンが元に戻らないように、僕たちも、小学生のころにはかえれないんだ。僕も望子も間違ってたんだよ」
罪が消えないことは知っていたのに、わかっていなかった。
思いあがっていたのだ。望子を昔のように、明るく、クラスの中心に立つ人物に戻せるなどと。
そんなこと、たとえ神にだってできやしないのに。
「望子、ちょっと、外の空気吸おう」
カズマはヘアピンをポケットに入れると、彼女の手を取って歩き出した。
今度は望子は振りほどかなかった。力なくついてくる彼女の手を引いて階段を登り、扉を開ける。ぶわっとぬるい潮風が顔に吹き付けた。
一瞬めまいを覚える。胃の暴れる感覚。
それでも、足を踏み出した。
階段を登り切り、会場を見下ろす。誰もおらず、閑散とした空間が広がっている。
「待ってて」
日差しの差し込む席に望子を座らせて、カズマは会場後ろ、コンビニへ向かった。
あの日もこうだった。イルカショー会場後ろのコンビニで雪見大福を買って、望子に一つ取られてケンカした。
胸に手を当て、深く息を吐く。鼓動が少しずつ落ち着いてゆく。大丈夫。自分に言い聞かせた。
アイスコーナーで期間限定の雪見大福を二つ手に取った。
「お待たせ。食べよう?」
座席へ戻り、提案。望子は緩慢な動きで受け取った。
ぺりぺりと包装をはがす。
「ちょっと寒いね」
「うん」
望子が静かにうなずき、雪見大福を口に含んだ。
カズマも食べる。冷凍庫での冷え方が悪かったのか、思ったよりも柔らかく、食べごろだった。
「小学生の頃はさ」
思い出に浸るように、カズマは口を開く。
「高い方の雪見大福なんて買えなかったよね。もったいなくて」
少ないお小遣いをやりくりするために。期間限定のアイスなんかは高いうえに味の保証もないから、結局毎回定番のものに落ち着いていた。
アイスに限らない。ポテチはいつもコンソメ味だし、チョコレート菓子はいつもアルフォートだった。ジャンプは立ち読みで済ませた。
「僕たちは変わった。でもそれはきっと、悪いことばかりじゃないんだと思う」
カズマの言葉に、望子は目を伏せた。
容器を両手で握りしめ、わずかに拳を震わせる。
「ヘアピン、まさか、ずっとつけてると思ってなかったの」
望子がぽつりと、ためらいがちに呟いた。
「ちょっとした仕返しのつもりだった」
「仕返し?」
カズマの問いかけに、望子は小さくうなずく。
「怪我させられた事とか、ひどいことを言われた事とか。そういう全部に対しての仕返し。歪んだヘアピンを、しかも男子がつけるなんて恥ずかしいでしょって思って」
望子は肘を両脇にぴったりくっつけ、隠れるように身体を小さくかがませる。右の手首を覆い隠すように握って、ゆっくりと息を吸った。
「前にも言ったけど、私はやっぱり優しくなんてないんだよ」
「仕返しくらい、誰でもやるでしょ」
「ううん。そういう事じゃない。私は、……」
小さく首を振る。広げた両手をじっと見下ろし、やがて力なくうなだれた。
「私は、ヘアピンがカズマの呪いになってるって分かってたの。なのに止めなかった。むしろ、カズマが私に囚われてくれるならそれで良いって思ってた」
望子の告白に、カズマはぽかんと口を開けたまま、身体を硬直させた。
世界がぐるぐると回っているような感覚。平衡感覚を失った身体が倒れそうになる。まばたきを繰り返し、呆然と彼女を見つめる。
望子は肩を落としたまま、自嘲気味な笑みをカズマに向けた。
「カチューシャもね。カズマが傷痕を見るたびに目をそらすの、知ってた。けど、それで良いって思ってた」
望子はカチューシャを外し、二人の間にそっと置いた。
前髪がはらりと落ち、傷痕が隠れる。
「駄目だよね。私、自分のことばっかり。昔と変わらないなんて言ったけど、そんなことないって分かってた。分かって、見えないフリをしてたんだ」
前髪の奥、彼女の目尻に涙が滲む。
望子は俯いて、下唇を噛んで黙りこんだ。
カズマはそんな彼女を前に、雷に打たれたような感覚に痺れていた。
望子がそんな風に考えているとは、思いもしなかった。
いや、全くなかったわけではない。
望子が自分に好意を抱いているのでは。気を遣っているのではなく、本当にカズマと共に過ごすことを望んでいるのではないか。
そう考えたことはある。
そのたびに、自らのこめかみに拳を叩きつけた。思い上がるな。お前は加害者だ。認知を都合良く捻じ曲げるな。そう言い聞かせてきた。
だから、以前葉名が望子について依存していると指摘したときも、怒りが吹きあがった。
甘い方へ向かいそうになる自身の弱さを拒絶するために。
そして今。眼前の光景に、カズマの脳が混乱する。
ぐすぐすと鼻をすする音。涙のにじむ目をぬぐった手の甲が太陽に照らされて光る。
望子が三年間抱え続けてきたであろう、罪悪感。自己嫌悪。せき止め続けてきた感情が、前髪の向こうからあふれ出てきた。
「同じだったんだ」
望子の耳に届かないくらいの声で、カズマは呟いた。
カチューシャを手に取って、望子の頭に手を伸ばした。
前髪を持ち上げる。
望子の赤く腫れた瞼。
カズマは口角を上げてみせ、彼女の頭にカチューシャをつけた。
「僕たちはさ、酒も飲んだしタバコも吸った。学校もサボった。小学生のころからは考えられないくらい悪い奴らになった」
上目遣いにカズマの言葉を聞く望子。
カチューシャの端から、まとめきれなかった前髪が垂れる。
カズマはヘアピンをポケットから取り出して、自身の髪に留めた。
「でも、このヘアピンを捨てる気はない。罪も罰も呪いも全部背負う」
望子の目をまっすぐに見つめ、彼女の両手を握りしめる。
「望子が駄目な奴でも悪くても構わない。僕は、望子と一緒にいたい」
目頭を潤ませる彼女の背中に手を回した。右手で、彼女の背中を優しく叩く。決して彼女が転げ落ちないよう、柔らかく抱きしめた。
「う、うあ……カズマ、カズマあ~~~~~~」
望子の両手が、カズマの背中に回った。カズマの胸の中で、顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。
二人を包む潮風は、日に照らされて、少し暖かかく感じられた。
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