第49話 色々あった一年が終わった。
美代もアキラと数回の食事で感じていた。最近の若い者に多いチャラチャラした所は見られない。なんとか自分をアピールして女性に売り込もうなんて事もしない。
アキラは美男子でもないし、お世辞も言えないが何か違うものがある。アキラは気付いていないが、人を惹きつける魅力を美代は感じとっていた。とにかく女性に対しては真面目過ぎる。そんな初心な所が気に入っているだろう。先ほどの返事にアキラは応えていない。どう切り出せば良いのか分からない。だから美代が曝け出すなら自分も本音を言おうと思った。
「あの~男としてどう応えれば良いのか感動で胸が詰まっています。僕は女性と付き合った事もなく、貴女が目の前にいるだけで天にも登るような気分です。勿論、愛を口にする自体おこがましく、そんな資格が自分のあるのかと思ってしまいます。でも許されなら一言、言わせて下さい。今は幸せです」
「資格なんて、そんな事を言わないで下さい。それより私の方が困らせる事を言ってしまいしまた」
「そんな事はありません。嬉しくて言葉に出来ないだけです。僕から見た浅田さんは綺麗で優しく気遣いもしてくれて全てが魅力的です。嫌われるのを覚悟で言わせて下さい。宜しかったらこれからも付き合って下さい」
「ありがとうございます……素直に嬉しく思います。私の方こそ宜しくお願いします」
現代の若者には考えられない初心な会話であった。結局二人からは、好きとか愛しているという言葉は出て来なかった。でもそれ以上に深い愛の告白ではないだろうか。帰りの車の中での会話は少なかった。でも二人共それで充分だった。
あのレストランで、遠まわしながら愛の告白をしたのだから、今日はそれを壊したくない。大事に胸に閉まって置きたい気分なのだ。夕暮れ時、美代を世田谷駅前で降ろし次の約束を取り付け別れた。結局予定の鎌倉に行かなかったが海で遊んだことが一番たのしかった。忘れられない良き想い出になるだろう。
しかし美代は月曜日から金曜日まで仕事である。いつも逢えるわけもない。相変わらず暇な山城旭、無職成金、暇人間は明日の予定もある筈もなく、自分の借りている貸し金庫のある銀行に出かけた。そこには重要な書類や貯金通帳、印鑑を保管してあった。なんと言っても、まだ二億七千万円の高額預金者である。
無職暇人間が、その銀行に訪れて貸し金庫を開ける手続きをしていた。金庫から取り出した通帳の残高を見る。間違いなく定期と普通預金合わせて二億七千万円ある。アキラには至福のひと時である。
ついでに百万円ばかりの現金を引き出した。特にこれと言って使う予定がある訳でもなく。もはやアキラは金の価値観が麻痺されかけていた。
突然大金が転がり込んだアキラは完全に自分を見失ってコントロール出来ない状態にある。辛うじて暴走しないのは占い師の真田と浅田美代の存在があるからだ。今は美代とは淡い恋にも満たない状態だが恋は確実に芽生えている。恋の蕾はやがて花が咲く事だろうか。今年は色々とあった。良い事、悪い事、大金は手に入れたが、また無職に戻り今年が終ろうとしいる。このままで良い訳がない。無職で先の見えない自分はいずれ美代に嫌われに決まっている。来年こそ、そう願うアキラであった。
つづく
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