第3話  アキラ何故か警備員になる

 アキラは狭いアパートの部屋で、でかい図体と小さい脳で考えごとをしていた。

 いつまでもこんな生活している訳にも行かない、何かバイトでもしなければ。

 思い立ったら吉日とハローワークに足を向けた。ハローワークには沢山の人がいた。

 まるで先日の競艇場のように、みんな予想紙ならぬ職業紹介の各企業の募集案内をみている。噂では聞いていたが仕事を求めて集まる人々の多さ。改めて世の中は不景気なのだと実感させられた。

 「これじゃ一日かかっても、仕事なんて回ってこないなぁ」

 アキラはアッサリと諦めて池袋駅に向った。

 アキラから見る街の人々は誰もが裕福で、活気にあふれて見えた。

 あのハローワークとは別世界のようだ。いったいどっちが本物なのか、いやどちらも現実、やはり生きて行く為には自分で道を切り開くしかないのだ。分かっているが中には自分が不幸なのは世の中や政治が悪いと他人のせいにする者。今のアキラははどちらにも当てはまるだろうか。

 いくら若いとは云っても無職は余りにもわびし過ぎる。

 アキラはハローワークから駅近くのデパートの通りを歩いていた。

 と! 男がいきなりアキラにぶつかってきた。


 その後から警備員らしき男が二人、血相変えて追いかけてきた。

 アキラにぶつかった男が、その壁(アキラ)に跳ね飛ばされて、よろけた所へアキラのでかい手がムンズッとその男の襟を掴んだ。アキラの怪力は並ではない片手でその男を持ち上げてしまった。

 クレーンで吊り上げられた感じの男はヘナヘナと観念したように力を抜いた。

 其処へ警備員が駆けつけて、その男を二人がかりで取り押さえた。

 なんとこの男、近くのデパートで買い物をしている客のバックを、ひったくり逃走中だったのだ。どうやらこの警備員はデパートの中から追いかけて来たようだ。

 その証拠に男には似合わぬ女もののハンドバックが路上に転がっている。

 息をはずませて警備員はアキラにお礼を述べた。

 「ど、どうもありがとう御座いました。お蔭さまで捕まえることが出来ました」

 やがて警察官が駆けつけて来て、その男はパトカーに乗せられたが、もう一台のパトカーにアキラが乗せられるハメになってしまった。

 状況を知らない人が見たら、アキラが逮捕されたと思ったかもしれない。

 多分、事情聴取の為に任意同行を、お願いされたと思うのだが大男に人相の悪そうな、いかにも犯人に見える。可哀想なアキラであった。

 これでは自称二枚目も、他人から見ればその風体そのものが犯罪だぁ!

 アキラは池袋北警察署に連行され尋問? いやいや感謝されたのである。


 警備員と供に感謝状が贈られた。だが今のアキラには感謝状より仕事が欲しかったのだがそれから数時間後、警備会社の車で送ってもらった。

 何故か、この間からヒョンな事が良い方に傾いているような予感がしてきた。

 その良い方の吉報が届いたのは翌日の事だった。

 警備会社から是非お礼がしたいからと、わざわざ迎えの車を差し向けてくれるビップ待遇だ。その警備会社の本社、なんとなんと社長室ときたもんだ。

 大きな自社ビルを待つ大企業、社名は西部警備株式会社だ。警備会社でも大手、テレビのCMで知られる一流企業だった。社長は社員の警備員から報告を受け一度会ってみたいと自ら呼んだ。社長直々の挨拶となった。 

 「どうもどうも、ご足労戴きましてこの度は協力ありがとう御座いました」

 社員だけでも六千人も居る大会社の社長だ。そんな貫禄のある社長の挨拶である。 

 しかし社長には魂胆が? あったのだ。

 あの二人の警備員から風体を聞いて惚れ込んだらしい。その風体そのものが犯罪に近い男なのに?  だから使えるのである。うってつけのガードマン向きである。

 社長はその厳めしい顔と体格はガードマン役としては銀行警備なら、まさに顧客も喜んでくれるだろうと社長自ら頼んだのだ。

 これなら顧客も安心して任せられるガードマンになれるだろう。

 話はトントン拍子に進み、アキラにも有難い話で断る理由はどこにもない。

 それからアキラは研修期間一ヶ月後、池袋周辺の銀行警備員として勤務する事になった。


つづく

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