第182話 対話

(リィナ視点)


「大丈夫か? 休みたくなったらいつでもいえよ」


 フェイ兄は五分に一回くらいのペースで声をかけてくれる。そんな優しさに内心ニマニマしながら私は同じ答えを返す。


「ありがとう、フェイ兄。大丈夫だよ」


 だけど、浮かれてはいられない。私達は今、突如姿を消したレイアさんを追っている最中なのだ。


(まさか敵(かたき)がお姉さんで、しかも魔星将だったなんて……)


 レイアさんはお姉さんが魔星将だったって知ってたのかな……いや、知ってても知らなくても結論は変わらないのかも知れないけど。


「……相変わらず過保護じゃな」


 私とフェイ兄のやり取りを見ながらジェイドさんがボソリと呟く。ちょっと小声なのは多分、ユベル戦の直後に移動してるからかな。


「あの……魔都まではどれくらいかかるんですか?」


 私達は魔都に着けばいいという訳じゃない。


(最低でも五日以内にはレイアさんを探し出さないと)


 レイアさんがお姉さんと会うまでに合流しないと意味がない。勿論“五日待つ”という言葉が真実かどうかは分からないけど……


「何とも言えんな……こればっかりはお主ら次第じゃからな」


 私達次第……?


(私達が一日にどのくらい移動できるかってこと?)


 確かにそれはそうかも知れないけど……


「大丈夫。師匠は無茶は言うけど、無理なことは言わないから。今はついていけば大丈夫さ」


 フェイ兄がこそっとそう励ましてくれる。あまり安心できる情報ではないけど、フェイ兄の気遣いが嬉しい……


「フェイ兄、そう言えば彼女の具合はどうなのかな?」


 彼女というのは、ユベルから取り戻したネアの仲間のことだ。現在、ミアとネアで今後のことについて話し合っているみたい。


「まだ何も……中で話し合っている最中みたいだな」


 ネアみたいに打ち解けられると良いけど、こればっかりは分からない。何せ相手は元をたどれば悪魔なんだから。


(そう言えば、前、ミアが“地上に来るときに本当は聖王国に行くはずだったのに邪魔された”って言ってたっけ)


 バタバタしていたせいもあって今までスルーしていたけど、これってやっぱり……


「今日はこの辺りで休むか。大分日も暮れてきたしのぅ」


 ジェイドさんの言う通り、もうすぐ日が沈みそうだ。


(考えるのは後。今はとにかく前に進まなきゃ)





(ネア視点)


「いい加減何か言ったらどうなのじゃ」

「……」


 ここはミアの精神世界。ここでユベルから回収した同胞から話を聞こうと思ったのじゃが、こやつ何故か何も喋らぬ……


「我らと共に行くのか、行かないのか。協力するか、しないか。大体何だってあんな奴に協力していたのじゃ!」


 妾と同じ容姿──此奴は髪を長く伸ばしておる──じゃが、瞳には何も映っとらん。恐ら妾の話もさほど聞いてはおらんじゃろう。


(くそ……何故なのじゃ!)


 聞きたいこと、聞かなきゃいけないことは沢山あるというのに……


(全く……元々一つだというのに何故上手くいかんのじゃ)


 実は最後の一人の居場所は掴めておらん。よほど強い力で隠されてるのか、妾の力だけでは分からないのじゃ。


(そのために此奴の力が必要じゃというのに……)


 恐らく妾と此奴が再び一つになれば何とかなる。早く最後の一人の居場所をマスターに報告せねばならないに……


“ネア、焦り過ぎでは?”


 ミアか!


(任せてくれと言ったじゃろ!)


 ここはミアの精神世界じゃが、今は此奴と二人。まずは二人で話したいとミアに頼んだのじゃ。


“私だって関係者です。それに使えるものは何でも使うのがマスターの信条だと私に教えてくれたのはネアですよ”


 くっ……言うようになったの。


(じゃが、このままじゃラチがあかんのも確かじゃな……)


 まさか此奴がここまで強情だとは……


 ピィィィン!


 ミアが姿を現すと、奴の前に屈み込んだ。


「急にごめんなさい。私はミア。ネアと一緒にマスターにお仕えしている聖剣です。よろしければ、お名前を教えてもらえますか」


 まどろっこしい! 名前なんてあるわけがないじゃろ!


「……名前はない」


 ほら見ろ! 妾だってなかったからマスターに……


(ん? しゃべった?)


 今までの何も喋らんかったのに……


「そう……じゃあ、何て呼んだらいいでしょうか。仮に名前をおつけしても良いですか? それとも……」


「名前をつけて、ミア」


 いつの間にかミアの顔を見ておる。妾が何を言っても反応さえしなかったのに……


「分かりました。じゃあ、ニアでどうでしょうか?」

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