第183話 対話と答え
(ミア視点)
「それでいい」
「ありがとう、ニア。それで……」
この子のことは不思議と分かる。何でだろう……多分マスターと出会った頃の私と似てるからかな。
(答えないんじゃなくて、答えられないんだよね)
出会った出来事が複雑過ぎて、あるいは自分の気持ちを表現する言葉が足りなさ過ぎて、何も言えないんだ。
(なら、マスターやリィナ姉様がしてくれたみたいにしたらいいんだ……)
答えがわからないなら一緒に探せばいい。ただ、それだけのこと。
「突然色んなことが起こって混乱してると思う。だから、まずは休んで欲しいな。それで、何か話したくなったら呼んでほしいの」
「……!」
ネアが“生温い”とでも言うかのように眉を釣り上げる。まあ、気持ちは分からなくはないけど……
(ネアもマスターの助けになりたいのね……)
とんでもない力を持ったユベルをはるかにしのぐ魔星将の存在。そして、最悪それと戦わなくてはならないかもしれない。そう考えると焦りが出るのはよく分かる。
(だって、私も同じだし……)
けど、それじゃ上手く行かない。
「良かった。じゃあ、他に何か必要なものはある?」
ニアは首を横に振る。うん、大丈夫みたい。
「じゃあ、とりあえず休みましょ。ネアもそれでいい?」
「……仕方ないのう」
ネアは不精不精と言った感じで頷く。焦っちゃいけないってこと、本当はネアにも分かっているのだろうな。
※
(フェイ視点)
「……分かった。オレもミアの考え通りで良いと思う」
野営の準備が終わってしばらくすると、ミアが姿を表し、ネアの仲間──とりあえずニアという名になったらしい──とのやり取りについて話してくれた。
「……ちょっと甘い気もするがの」
ネアはやや不満げだが、ミアの言葉にも一理あると認めているようだ。
(いい感じにまとまりそうだな)
なんの根拠もないが、何故かそう思う。
(……ミアとネアも何だかんだでいいコンビになってきたからかな)
最初はどうなるかと思ったが……
「ミアとネアは何かニアのお姉さんみたいだね」
「いやいや、妾はともかく何でミアが姉なんじゃ」
ネアはリィナの言葉に反発するが……
「私がお姉さん……」
ミアは普段なら即たしなめるようなネアの言葉には一切反応しない。どうしたんだ?
「私、頑張ってリィナ姉様のようなお姉さんになります!」
「私みたいって何だか恥ずかしいな……でも、ミアなら出来るよ!」
「……リィナ姉様!」
「もぅ! 泣くことないでしょ、ミア」
がしっ
リィナがミアを抱き寄せる。ど、どうしたんだ、一体?
“よく分からんが、ほっとくしかあるまい……”
ま、まあ、確かにな。
※
「マスター、起きとるか?」
ネアか。珍しいな。
(何だかんだで夜に来ることはないのにな)
勿論悪ふざけなら幾らでもあるのだが
「ああ、どうしたんだ?」
返事をすると、ネアが俺のテントに入ってきた。今のネアはミアの体ではなく、ネア自身の体だ。
(もう大丈夫だろうからってミアは言ってたな)
だが、ネアの体はミアが境界を引くことで生まれた仮初めのもの。やはり長い時間単独で行動することは出来ないらしい。
「……疲れとるのにすまんな、マスター」
またまた珍しいな……ネアがこんなことを口にするなんて
「大丈夫だぞ。今は歩いてるだけだしな」
俺のパラメーターなら皆を置いてきぼりにしないことの方が気を使うレベルだしな。
(レベル封じの宝玉が早く直らないかな……)
ユベル戦で力を開放してから全く動かなくなってしまったからな……
「何か気になることがあるのか?」
そう問うと、ネアはゆっくりと口を開いた。
「……マスターは上手くいかん時はどうするんじゃ?」
上手く行かないとき……色々あるけど
(というか、そんな時だらけだよな……)
ここに来てからも、獣人達の最低限の生活の確保から聖獣の復活まで……そういや、皆に何も言えずに別れたことも
(ジーナさんには悪いことしたな)
お祝いするって言ってくれたのに……
「マスターは何やかんやでで上手くやるし、何があっても最後には成果を出す。だからこそ、教えて欲しいんじゃ」
そ、そんな大層なことは出来てないぞ!
(だけど、ネアからはそう見えてるってことだよな)
俺が普段やってること……それは……
「出来ることをする、かな」
「は?」
よほど予想外の答えだったのだろう。ネアがこんな間の抜けた顔をするのは初めてみたな。
「出来ないのにやらなねばならぬことがあったらどうするのじゃ? 出来なくてもやらねばならぬことはあるじゃろ」
確かに。だが……
「その時は仲間を頼る」
「なっ……」
まあ、他人任せでも駄目だけど……
「勿論サポートはする。けど、出来ないことって無理にすると失敗して、かえって周りに迷惑をかけるし」
「………」
「それに自分が思うよりも自分でしなきゃいけないことって少ない気がするな」
誰かがやればいいなら出来る人に任せ、自分はサポートに回る。それがもどかしいこともあるが、それも仕事だと俺は思う。
「……マスターは何でも自分でやってしまうと思っておった」
ぽつりと呟くネアに俺はゆっくりと首を振った。
「まさか……無理だろ、そんなこと」
それに多分、そんな必要もない。
「ありがとう、マスター。何か掴めた気がするのじゃ」
ネアの表情は心待ち晴れやかだ。本人の言う通り、何かを掴めたのだろう。
(悩んでるのはニアのことかな……)
だが、本人が口に出さないなら今はそっとしておいたほうが良いんだろう。さっきの話じゃないが、それが今俺がネアにしてやるべきことだ。
「さて問題は解決したところで、マスターには礼をせねばな」
礼?
「マスターの睡眠時間を削ってしまったのじゃから、その分、リラックスさせるのが妾の仕事、いや、やらねばならぬこと!」
お、おい! ネア、やめろ!
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