第181話 今私に出来ること
(ジーナさん視点)
【クロムウェル冒険ギルド : 遠距離通信室】
「そうか、レイアくんが……」
画面の向こうでルーカス様とクラウディア様が目を伏せる。今、私はクロードさんから聞いた今回の顛末を二人に報告し終わったところだ。
「しかし、レイアくんの敵(かたき)が魔星将とはな……」
確かにこれには驚いたでも……
「確かにそれもそうだけど……姉妹で争わなくてはならない理由って何なのかしら」
クロードさんによれば、容姿や会話から判断すれば、二人は姉妹だろうとのこと。それが正しかったとして……何でそんなことが。
「確かに君の言う通りだ。だが、今は待つことしか出来ないが……」
レイアやフェイが向かった魔都はまたの名を“閉鎖都市”。部外者は入れないことで有名なのだ。フェイはジェイドさんが着いてるから大丈夫かも知れないけど、今の私達では魔都に入る術がないのだ。
(私はいつもそう……フェイが戻ってきてくれるのを待つだけ……)
※
獣人達への支援や今後の方針について確認した後、私は再び男爵都市アリステッドに戻った。
(男爵都市、か)
都市と名は付いているが、実質上はもはや“都市国家”に近い。ブリゲイド大陸では既に国としての認知が広まり始めているのだ。
(まあ、他の大陸との交易は既に独占状態だしね……)
昔ギアス荒地が“聖域”と呼ばれていた頃は恵まれた立地により他大陸との交易の中心地だったらしい。
(聖域が滅んでからは徐々にクロムウェルが交易の中心になったと読んだけど……)
ギアス荒地は今、復興しつつある。その上、ここから出る船は何故かいつも順風満帆。航路が常に安全なのだ。
(元々危険な交易が安全に出来るんだから商人が飛びつくのは当たり前か……)
獣人差別が特別酷いのはクロムウェルだけで、実はブリゲイド大陸全体で見れば差別はさほど強くないのだ。
(凄いな、フェイは)
この流れの根幹にいるのがフェイだ。ギアス荒地をここまで復興させたのは彼だし、発展の鍵である交易が順調なのも彼が聖獣の信頼を得ているからだ。
(じゃあ、私が出来ることって……)
フェイが私を信頼してくれているのは分かってる。けど、自分が何をフェイにしてあげられるのをかを考えると……少し落ち込む。
(私は戦闘職じゃないからリィナやレイアみたいにフェイと戦うことは出来ないし……)
戦うことが出来なくても……いや、出来ないからこそフェイの役に立てると思って色々やってたんだけど……
(私がいなくなったら……フェイは探してくれるかな……)
我ながらバカな考えだと思う。けど、頭の片隅でそんなことを考えてしまうくらい、今の私は弱ってる。
「あ、ジーナお姉ちゃん!」
「ニーナちゃん」
いけない! しっかりしないと!
「雨玉のお兄ちゃん、帰って来れなくて残念だったね。せっかくみんなでパーティの準備したのに」
「そうね……」
そう。ユベルを倒したらみんなでお祝いをしようと──
「今度お兄ちゃんが帰ってきたら、びっくりするようなパーティしなきゃね!」
え……
「だって、お兄ちゃんはみんなのために頑張ってるんでしょ? だから、私達はお兄ちゃんのために頑張らなきゃ」
………
(そうか……そうだ)
私はフェイの力になりたい。ただそれだけ。別に誰かと比べる必要なんてないんだ。
(私は私に出来ることをしたらいい……ニーナちゃんのように)
こんなことを忘れてたなんて……私は馬鹿だなぁ
「お姉ちゃん、どうしたの?」
目尻に滲んだ涙を拭う。そう、フェイは今も前を向いて頑張ってる。私だって!
「ちょっと砂埃が……大丈夫! うん、ニーナちゃんの言う通りだね」
男爵都市は今、勢いに乗っている。この流れを崩さないように……いや、弾みをつけて行くには……
「よし……じゃあ、お祝いしよう!」
「お祝い……?」
「そう。だって、悪い奴をやっつけたんだし」
魔星将ユベルは倒れた。同じ魔星将にやられたと聞いたけど、それでもかつての聖域を滅ぼした存在がいなくなったのは間違いないのだ。
(うっかりしてた。ここでちゃんと皆の成果を共有しておかないとモチベが下がる……)
レイアがいなくなったこと、フェイが戻らないことで鬱々してたけど、それどころじゃない。
(フェイもアリステッド男爵も獣人達にとっては大事なシンボルなんだから)
勿論、将来的にはクロードさんを初めとする龍人族にお願いすべき役割だろう。けど、この復興の立役者は間違いなくフェイでありアリステッド男爵なのだ。
(よし、フェイが帰ってきたらびっくりするくらい男爵都市を発展させちゃうんだから!)
そして、盛大なパーティをしよう。レイアも入れた皆で!
「よし、じゃあ準備するよ! 手伝ってね、ニーナちゃん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます