第141話 遺跡

(フェイ視点)


 それから数週間。拠点作りは予想以上に順調に進んだ。その原因の一つはグレゴリーさん達だ。


(移動スピードが無茶苦茶早い。流石長年ギアス荒地で生きてるだけあるよな)


 グレゴリーさんは、俺達のおかげで蛇竜獣(ワーム)の心配をしなくていいからだと言ってくれているが……


(あと、ワームって本当に役にたつんだな……)


 内臓は強心剤や日焼け止めなどの各種の薬になったり、皮は燃料にと本当に思っても見なかったような用途があるもんだ。


(しかも、これがオルタシュでブームになるなんてな……)


 今までは、蛇竜獣(ワーム)自体があまり手に入らなかったため、自分達で使うだけだったらしい。が、蛇竜獣(ワーム)が定期的に手に入るようになったため、試しに店頭に並べてみたら日焼け止めが大ヒット! 今では他のものにも人気が出始めている。


(そうすると、拠点に腰を落ち着けて薬を作る人達が出て来て、さらにその人達の生活を支える人が出て来てて……今じゃ一つ目の拠点はもう町だな)


 勿論、ここまでの成長を遂げられたのは蛇竜獣(ワーム)のおかげだけじゃない。拠点を作り始めてすぐに別の部族の協力が得られたことも大きかった。


(イリーナさんだったっけ? あっさりと信用してくれたんだよな)


 実はこの拠点作りを始めてすぐに一番の障害だと感じていたのが、獣人達の人間に対する不信感だ。グレゴリーさん達がいかにすごくても、彼らだけでは拠点作りはなかなか進まない。


(誰かは分からないが、イリーナさん達の信用を得た人間がいたみたいだな)


 クロムウェルにも獣人に対する偏見がない人間がいたらしい。そして、俺達が買い取る価格と同じぐらいの値段で岩塩を買い取っていったらしい。


(クロムウェルの人も皆が皆、獣人に悪い思いを持っている訳じゃないのかも知れないな)


 まあ、とにかく、イリーナさんの部族も加わると賑やかになり、そうすると他の獣人も様子を伺いにくるようになり……という好循環が生まれ、一月も経たない内に拠点の半分以上が完成したのだった。


(そう言えば、そろそろイリーナさんの遺跡に行ったクロードさんがレイアと一緒に帰ってくるころだな)


 イリーナさんの話を聞いたクロードさんは突然是非見たいと言い出し、俺達がクロムウェルで物資を補給するタイミングで出かけて行ったのだ。


(イリーナさんは近くに蛇竜獣(ワーム)はいないって言ってたし、まあ大丈夫だろう)


 この時、俺はこんなふうに軽く考えていたのだが、この予想は良くも悪くも裏切られることになった。





「済まない。勝手な行動を取った」


 合流したクロードさんはそんな言葉を口にする。いやいや、別に勝手という程じゃ……


(あれ? なんか雰囲気が……)


 クロードさんの様子が今までと違う。具体的に言うと、今までみたいな“何をしたらいいか分からない”みたいな戸惑いや落ち着かなさが消えている。


「ご自身のこと、何か分かったんですか?」


 リィナの言葉にクロードさんは頷いた。


「ああ。大事なことを思い出せた。だが、私の話より、まずはギアス荒地のことを話そう」


 ギアス荒地の話? ギアス荒地がクロードさんと関わりがあるってことか?


「ギアス荒地は元々聖域と言われる場所で、緑豊かな美しい場所だったんだ」


 せ、聖域! 


(ってことはメルヴィル様みたいな聖獣もいたのかな)


 いや、今はクロードさんの話を聞こう。


「聖域の管理は私達龍人と獣人が行っていた。が、ある時魔将星と名乗る者がやって来たのだ」


 ま、魔将星だって!?


「ユベルと名乗ったそやつと我らは戦い、破れた。その後、聖域は徹底的に破壊され、今のギアス荒地のようになったのだ」


 何!……じゃあ、諸悪の根源はそのユベルとか言う魔将星ってことか!


「しかも、それだけじゃないのよ」


 少し口ごもったクロードさんを助けるようにレイアがここで一言口を挟む。多分、ここからがクロードさんの話なんだろう。


「龍人の一族を殺されないために私は別の魔人の配下となった。が、私の一族は皆邪悪な水晶に閉じ込められていてな。どうも大地の裂け目に封印されているらしいです」


「それじゃあ、大地の裂け目に言ってその水晶を確保出来れば……」


 リィナの言葉にクロードさんは大きく頷いた。


「ただそのためには強い力が必要だ。かつての聖域が保持していたような強い力がな」


 つまり、大地の裂け目でクロードさんの一族が封印されている水晶を見つけ、その後聖域を復活させればいいわけが。


(まあ、簡単ではないだろうけど)


 水晶の発見もそうだが、聖域の復活って一体何をすればいいのか分からないしな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る