第140話 轟音、そして……
(アバロン視点)
ゴォォォ!
得体のしれないその音に皆の顔色が変わる。その音の正体は……
(ま、まさか……)
天をつくように渦巻く風、あれは砂嵐か!
「な、何だよ、あの大きさ!」
「聞いてないぞ!」
んなこと言ってる場合か!
「とにかく逃げるぞ!」
流石にこの状況でぐちぐち言うやつはいない。全員がさっと立ち上がると、砂嵐を凌げる場所がないか探し始めた。
(ん、あれは!)
助かった! 何かあるぞ!
「あそこだ! あそこへ逃げ込むぞ!」
「あそこなら!」
「流石アバロン大兄!」
そんなのはいいから行くぞ!
ゴォォォォォ!
やばい、どんどん近づいてくる!
※
命からがら逃げ出した俺達は何とか砂嵐に襲われる前に目的地へたどり着いた。
(……ここは遺跡か?)
遠目には分からなかったが、石造りの立派な建物だ。しかも、まあまあ広いな。
(外から見た様子は酷かったが、中はまあまあだな)
これなら砂嵐が止むまでいられ──
「……ニンゲン」
ん?
見ると、俺達を睨みつける人影がある。あれは獣人か?
(……女か)
だが、それより重要なのは、女が腰に剣を帯びていて、今にもそれを抜きそうになっていると言うことだ。俺は油断なく構えながらも声をかけた。
「急に済まなかった。砂嵐に襲われ、仕方なく邪魔させてもらった。良ければ、砂嵐が収まるまで居させて貰えないだろうか?」
そう言って頭を下げると、獣人達は急に怯えて後退った。
「なっ!」
「人間が頭を下げる!?」
おい、何言ってるんだ?
「……お前は我らを殺しに来たのではないのか?」
最初に俺へ声をかけてきた女の獣人がこちらを伺いながらそう聞いてくるが……
(いや、何で見ず知らずの獣人を殺さなきゃいけないんだよ!)
ブリゲイド大陸では獣人差別が激しいと聞いたが、何もしてないのに殺されることさえあるのか?
「そんなつもりはない。最初に言ったが、俺達は砂嵐を凌ぐために場所はさを借りたいだけだ。礼が必要なら……」
「礼は要らない。この場所は元より我らのものではなく、ギアス荒地に生きる全ての民のためのもの。お前達が我らを害しないというのであればここを使うことに何の問題もない」
ふぅ……ならいいか。
(しかし、人間はえらく嫌われてるな)
腰を下ろし、荷物を解きながらそんなことを考える。いや、嫌われてるというより、怖れられてるといった方が正しいか。
「……」
皆に食事を取るように言い、準備をしていると、俺達をじっと見ている視線が一つ……
(子どもか)
腹が減ってるのか? 仕方がないな。
「ほら、やるよ」
「!!!」
俺はパンを子どもに差し出したのだが、子どもは怯えたように物陰に隠れてしまった。
「遠慮するな。俺達はもう街へ帰るところだ」
「………でもお金がない」
ああん? 金だと!?
「腹を減らしてる子どもから金なんて取るか。しょうもないことを言ってないで食べろ」
そう言って再度パンを取るように促すと、子どもは俺から恐る恐るパンを受け取った。
「ゴホゴホ」
「急いで食べるからだ。ほれ」
俺が水を渡すと、子どもは急いで飲み、再びパンを食べ始めるのだが……
(どんだけ腹が減ってるんだよ……)
そのたべっぷりと来たら、まるで数日ものを口にしてないかのようだ。
(まるで餓鬼だな……)
そんなことを思いながら子どもが食べる様子を見ていると、俺を見る視線がさらに……
(ま、荷物が軽くなっていいか)
俺は視線を送る子どもを手招きした。
※
「その……子ども達に食料を分けて頂きありがとうございました」
老人と例の女の獣人──名前はイリーナというらしい──が再び頭を下げる。いや、そんな大したことしてないけどな。
「余った携帯食料を渡しただけだ。気にしないでくれ」
むしろあんな不味いものをガツガツ食べていたことの方が気になるな。
(もしかして……食料が足りないのか?)
得体のしれない俺達から子どもが食べ物を受け取ることを止めない──いや、止められない──ほどに困ってたりとか……
「もし、もっと必要なら渡すことは出来るが」
「いや……不要だ」
よく見れば、そう答えるイリーナの顔色はあまり良くない。一体何が起こってるんだ?
(まあ、こいつらに何があっても関係ないが……)
悪いが、弱肉強食は冒険者の掟。俺は慈善事業とは縁がないんだ。
「これは……まさか岩塩か!」
その時、あちこちを見て回っていたドレイクが突然声を上げた。こいつはなまじ知識があるからこういう遺跡には興味を惹かれるらしい。
(いや、それより岩塩だって?)
何でこんなところに?
「クロムウェルに売りに行くために採ったのだが、ほとんど値がつかなくなってな」
値がつかない? クロムウェルではバカ高い値段で売ってる岩塩がか?
(何でそんなことに?)
いや、理由なんてどうでもいいか。それよりも……
「なら、こういうのはどうだ?」
俺の話にその場にいる皆が驚いた声を上げた。
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