第139話 聖剣の謎

(アバロン視点)


 早速喧嘩が始まった。だが、意外と勝負は互角だ。それは単に人数差があるというよりも……


(あれ(••)がないからだろうな)


 イーサンが持っていた聖剣エクステリアは実はまだ俺が持っている。借りパクみたいな安いことはしたくなかったが、ちょっと気になる事があって仕方なく、な。


(あの聖剣がイーサンの力を高めていたのは間違いないな)


 聖剣エクステリアを持たないイーサンの素の力はC級に届くかどうかといったところ。つまり、聖剣エクステリアは持ち主のステータスをアップする力があることになるが……


(そんな魔導具、あるはずがない)


 何度も言うが、簡単にステータスが上がって強くなれるような道具はないのだ。あるとすれば、それはリスクが明らかでない場合か──


(悪魔の力を帯びているか、だな)


 聖剣が悪魔の力を帯びているなんて馬鹿げた話かも知れない。だが、俺はこうした自分の考え以外にももう一つの確証を持っていることがあった。


(……やっぱり豹炎悪魔(フラウロス)のオーラが反応してるな)


 俺の中にある悪魔の力の名残りともいえる豹炎悪魔(フラウロス)のオーラが聖剣エクステリアに反応している……それはつまり、この聖剣も悪魔の力を帯びているということだ。


(後はイーサンがこの聖剣をどうやって手に入れたか、だな)


 イーサンに聖剣を渡した奴はまず確実に悪魔との繋がりが──


「うっせぇな! 塩が買えねぇなら採ってくればいいじゃねぇか! 俺達は冒険者だぞ!」


「馬鹿かお前は! ギアス荒地の危険度を知らないのか!? あそこは入れば二度と出てこれな──」


「んなはずあるか! ギアス荒地から塩を運んで来る奴がいるから塩が市場に並ぶんだろが!」


 五月蝿えな……今、考え中なんだよ


(だが、イーサンの言うことは正しいな)


 魔物が住んでいる危険な場所の素材を採りにいくのは冒険者の仕事。つまり、俺達の仕事だ。


「そうか……なるほど確かにな。いい考えかも知れない」


 フッ……ドレイク、お前も大分考え方が冒険者らしくなってきたじゃねーか。


「だけど、ギアス荒地は危険な魔物と過酷過ぎる環境でB〜Cランクの冒険者でさえ危ないって……」


「俺達の力じゃ……」


 だな。無謀と勇気は全くの別物。出来もしない仕事をしようとするのはただの馬鹿だ。


(分かったらこんな馬鹿な旅団は解散して地味に体を鍛えるんだな)


 結局、強くなるのに近道なんてな──


「……忘れたのか?」


 ドレイクが意味深な顔をする。まさかこいつ……


(何か切り札でもあるってのか!?)


 やるじゃねぇか。船を漕いでは倒れ、土木工事をしては倒れ……と醜態を晒してきたお前がここに来て一皮剥けたか!


「俺達にはアバロン大兄がいるじゃないか!」


「「「おおおっ!」」」


 は?


「アバロン大兄がいればギアス荒地の一つや二つ、難なく越えられるに決まってる!」


「そうだ、アバロン大兄に不可能はない!」


 嘘だろ!? 冗談だよな?


「アバロン大兄がいれば俺達だって!」


「ああ! ギアス荒地だろうが、なんだろうが踏破できるに決まってる!」


 馬鹿か! そんな訳ないだろうが!





(いや、何でこうなった……)


 俺の足元にはドレイクを始めとした赤枝旅団の奴らが倒れている。全く口ほどにもない奴らだ!


「√⊕#@%」


 無論、イーサンも他の奴らと同じ……というか、こいつが一番バテるのが早かったかもしれん……


(一応バリアを作ってやったんだがな……)


 豹炎悪魔(フラウロス)のオーラで皆を覆う傘のようなものを作っているから多少なりとも太陽の光を防いでるはずだが……


(まあ、気休めレベルだろうが)


 何にせよ、予想通りではあるな。


「これ以上は無理だ。戻るぞ!」

「ま、まだ駄目だ、アバロン兄……」


 俺の言葉にドレイクがうわ言のようなうめき声を上げる。


「岩塩を持って帰らないと……」


 はあ? この後に及んでまだそんなことを言ってんのか!?


「言ってる場合か。とにかく一旦帰──っ!」


 ガシッ!


 とにかくひっぱろうとした俺の腕をドレイクが掴む。その弱々しい手にはだからこそ感じられる強い意志が……


(しるか、んなもん!)


 意思や理由があろうとなかろうと、出来ないものは出来ない。やれないことはやれない。


(それらを覆せるのは力、そう力だ!)


 地味な訓練を続けることでしか身につかなない実力でしか変えることは出来ないのだ。


(これで分かっただろ、ドレイク) 


 こいつだって分かってるはずなのだ。だって曲がりなりにも──


 ゴォォォ!


 な、何だ? この音は……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る