第137話 それぞれの思惑
(ニーナを殴ろうとしていた青嵐団の男視点)
くっそー! 胸糞悪い!
(獣人を庇うなんて……あの女は何考えてんだ!?)
ギルド職員でさえなければ何とでもなったものを……いや、いっそ暴力にものを言わせて目にもの見せてやれば!
(待て待て、それはマズイ)
俺にも青嵐団での立場がある。冒険者ギルドを怒らせたとなれば最悪組織から追い出される可能性だってある。
(まあ、獣人の子どもが一人取られただけだ。大した損害があった訳でもないし)
実際、今期の売上は中々のものだ。俺が提案した塩の買取価格の下落はめんどくさい下準備を丁寧にしたおかげもあってうまく行き、売上は倍増したのだ。
(あんまり下げすぎると目をつけられるし……生かさず殺さずの加減が難しいよな)
他の業者と話し合いでは買取価格をもっと下げたいという意見が多くて苦労した。
(だが、こういうのは他所から口出しされる隙を作ったら駄目だからな)
欲で目が眩んだ馬鹿を宥めるのには苦労したぜ。全く!
※
(フェイ視点)
ニーナちゃんの家族の準備が出来ると、俺達は拠点作りのためにクロムウェルを立った。
「道中の魔物は任せて下さい」
「心強いお言葉ですが、我らも出来ることはさせて頂きますよ」
俺の言葉にグレゴリーさんが力強く答える。どうもグレゴリーさん達はワームを倒すのではなく、自分達の進路とは違う方向に誘導したり、居場所を見誤らせたりしてやり過ごす術を身につけているらしい。
“マスター! 前方に三体来ました”
(ありがとう、ミア)
俺はリィナ達にミアの言葉を伝えてから……
「〔ホーリーライト〕!」
少し遅れてレイアとクロードさんの遠距離攻撃!
(いつもながら俺の〔ホーリーライト〕と進行方向がぴったりだな)
ワームが来たことは伝えられても細かな位置までは説明できないため、まず俺が〔ホーリーライト〕を放って方角を知らせるのだが……だからといってこんなに毎回毎回ぴったりとコースを合わせられるのは普通じゃない。
ドッカーン!
俺達のスキル攻撃でワーム達はダメージを負うが、それだけでは動きは止まらない! そのまま俺達を押しつぶそうと突っ込んでくるが……
バシン!
リィナの〔七光壁〕がワームの突進を防ぐ。ただ一匹の時とは違い、真正面ではなく、斜めにぶつけたため、三匹のワームは横倒しになった!
「〔剣鬼召喚〕! 止まれ!」
倒れたワーム達をオスクリタの重力が襲う! ワーム達は地面に縫い付けられたように身動きが出来なくなった。
(凄い威力だな……)
クロードさんの魔力を吸収してからオスクリタの魔力は段違いに強くなったな。ちなみに、クロードさんに魔力を返すことは出来なかったらしい。
「〔サランストリーム〕!」
聖なる力を帯びた水流がワーム達を襲う! 魔物全般に効果がある聖属性のスキルだが、水が弱点のワームへの効き目はさらに高い。だが、これに耐えてもクロードさんの攻撃が控えているのだ……
「飴玉のお兄ちゃん、凄い!」
ワームが完全に沈黙すると、ニーナちゃんが歓声を上げる。うん、中々の連携だよな!
「蛇竜獣(ワーム)を三体も……しかもこんなにあっさりと」
ニーナちゃんに少し遅れてグレゴリーさん達もコメントをくれた。ちなみに蛇竜獣(ワーム)というのはワームの正式名称だ。
「本来ならば解体したいところですが……そこまでは無理でしょうね。」
「解体……ワームの体は役に立つんですか?」
「勿論ですとも! 捨てる場所がないくらいです!」
そうなのか……
(意外だな。見た目は役に立たなそうなのに)
見た目がグロテスクとかいう話ではなく、単に他の魔物と違いすぎるのだ。
(使えそうなのはキバ……か?)
まあ、鋭いちゃ鋭いが……
(まあ、とにかくしまっておけばいいか)
俺は〔アイテムボックス+〕にワームの体を入れた。
「蛇竜獣(ワーム)が消えた!?」
「一体何が!」
あ、グレゴリーさん達は〔アイテムボックス〕のことは知らないのか。説明しないとな。
「……何と。これもフェイ様のスキルですか」
「いつでも出せるので言ってください。〔アイテムボックス〕の中では時間が経過しないので。あと、普通に呼んで下さい」
「何と……それは凄い!」
グレゴリーさん達は歓声を上げるが……俺の言ったことの後半部分は聞いてないな。
「先を急ぎましょうか。また、ワームが寄って来るかも知れません」
「ええ! しかし、この調子だと凄まじいペースで移動できそうですな」
グレゴリーさんは驚き半分、喜び半分といった表情を浮かべた。
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