第138話 順調とそうでないもの
予定していたよりもかなり順調に移動できた俺達は昼を少し過ぎた辺りで最初の拠点候補地にたどり着くことが出来た。
だが……
「ここで良いんですか?」
着いたのは多少地面がしっかりしているかな……という程度で他の場所と変わり映えがしない。
「勿論です。ここは蛇竜獣(ワーム)達の生息域から外れていて比較的安全ですし、クロムウェルからも一日で移動できる距離にあるんですよ」
「なるほど……」
つけ加えると、岩塩のとれる場所にも比較的近いため、獣人達に比較的出会いやすいらしい。
(なら、獣人達の旅の役に立てるかな……)
これは俺の個人的な思いだが、人が集まりやすいというのは助けが得やすくなるということでもある。移動拠点としてはかなり大事な条件かもしれない。
「フェイ様、お疲れのところ申し訳ありませんが、壁の設置をお願いできますか?」
「勿論です! というか、様とかつけないで下さい」
“壁”というのは〔サランウォール〕のことだ。このスキルで作った壁は望めば、かなりの時間雨風に耐えてくれるので防風壁の代わりに出来るのだ。
(ついでに魔物も遠ざけるしな)
まあ、この最後の理由が一番大事かも知れないが。
※
言われた通りに壁を設置し終わった頃には、大きなテントがいくつか設置されていた。
「す、凄い」
あっという間に町が出来てしまった……
「これはとりあえず今日を凌ぐための用意ですよ、フェイ様」
ゆくゆくはもう少ししっかりしたものを作るとグレゴリーさんは言うが、一体どんなものをつくるつもりなんだ!?
「皆様の旅を快適にするためにはまだまだこんなものではいけません」
マジでか。最終的には一体どんなものが出来るんだろう。
「フェイ様。後でお願いしたいことが……」
「何でしょう。あ、様付けは止めてください」
「床にもあれを敷けるとより快適かと思うのですが……」
あれとは壁に使っている〔サランウォール〕だ。確かに断熱効果は高そうだな。上に毛布をかけたら硬さもフォロー出来るし。
「すぐやります! いくつくらいあれば良いですか?」
「いや、そんな! 落ち着かれた後で……」
こんな具合に俺達はオルタシュとギアス荒地を往復しながら一つ、また一つと拠点作りを進めていった。
※
(アバロン視点)
「くっそー! 上手くいくと思ったんだけどなー!」
宿に戻るなりドレイクが唸る。他の奴らも疲れたように体を投げ出し、項垂れた。
(最初の勢いはどうしたんだよ……)
俺は奴らに連れられるがままに市場に行き、塩を仕入れようとしたのだが、その値段の高さに打ちのめされることになったのだ。
(計算は得意じゃないが……船代とかを考えれば明らかな赤字だな)
つまり、ここで買った塩をオルタシュで売るというドレイク達の思惑は見事に外れてしまったのだ。
「値段、高すぎでしょう!」
一人がそう愚痴を言う。そうすると、別のやつが反対意見を口にした。
「しかし、ギアス荒地は相当な難所と聞きます。そこから運んだものですから、値が張るのも仕方ないのでは?」
「……お前、奴らの肩を持つのか?」
「そうじゃない! 物事には理由が……」
はあ……つまんない言い争いが始まった。
(全く……楽して金を儲けようとするからだ)
俺達は冒険者。金を稼ぐにはクエストをこなすしかないのだ。なのに、商人の真似事みたいなことをしようとするからこうなるんだ。
「よせよ、お前ら。アバロン大兄の前だぞ!」
は? お前、何言って……
「「はっ!」」
いや、お前らも“しまった”みたいな顔をしてんじゃねーよ!
「「お見苦しいところをお見せしました、大兄!」」
やめろ、その呼び方!
(ったく、こいつら金魚のフンみたいに……)
冒険者の癖に他人の尻を追いかけて……なさけねぇとは思わないのかよ。
(だから底辺冒険者なんだよ、お前らは!)
いや、そう言えばランクだけはまともな奴もいたか……
「うっせぇなあ……つまり、これからどうすんだよ!」
うーん、こいつは自分で考えるということを知らんのか……? まあ、良くも悪くも脳筋なんだろうな。
(まあ、多少実力はあっても長生きは出来んな)
何せこいつはオルタシュの騒動で……
「あん? それをこれから考えるんだろうが!」
「イーサンの癖に煩いぞ!」
「はあ? おまえら何様のつもりだ! 俺は元公認勇者だぞ!?」
「何が“元公認勇者”だ! 要するに過去の栄光じゃねーか!」
「貴っ様! 俺を馬鹿にするつもりか!」
はあ、また喧嘩か……
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