第136話 適正価格
(イベル視点)
最近何故か物事が思い通りに進まない……
(くそっ……クロムウェルの騒ぎを押さえた上にクロードを解放しただと!?)
あの魔導具を破壊しようとすれば、クロードもろとも自爆するように設定していたというのに一体どうやって……
(くそっ……運のいい奴め!)
たまたま魔導具が上手く発動しなかったんだろう。だが……
(……オルタシュ壊滅作戦は上手く行かなかったな)
しかも、それを阻んだのはまたもやアリステッド男爵……忌々しい!
(だが、奴も今はブリゲイド大陸。もう邪魔は出来まい)
認めたくはないが、奴のせいで計画が邪魔されているのは事実。だが、ブリゲイド大陸に行ってしまっては出来ることはもう無いはずだ。
(しかも、ブリゲイド大陸はあいつの担当……アリステッド男爵の悪運もここまでだ)
ブリゲイド大陸の担当、ユベルは俺の宿敵とも言える存在。だが、俺のような戦闘タイプじゃなく、むしろ作を弄して敵を追い詰めるタイプ。表立った行動が現状に最も向いていると言える。
(そうさ、直接戦えばあんな奴……)
そんなことを考えていると通信用の魔導具に反応が!
ピコン!
ん、これはメッセージか?
(誰だ……?)
といっても相手は限られてる。しかし、こんなタイミングで……
(ま、見れば分かるか)
俺が魔導具にメッセージの再生を命じると……
“親愛なるイベル、調子はどうだ?”
ぐっ……ユベルか!
“らしくない君の行動を心配していたんだが……どうやら一人の人間が君を困らせていたようだね”
ぐぐぐ……何故それを!
“私は安心したよ。そんなことなら僕が君の力になれる”
何だと!?
“同士たる君のために僕があのアリステッド男爵とかいう冒険者を倒してあげようじゃないか。そうすれば、君の頭痛の種はなくなり、いつもの君に戻るのだろう?”
……こいつ、この俺を完全に見下してやがるな。
“心配しなくていい。たかが人間一匹潰すなんて僕には造作もないことさ。リラックスして吉報を待っててくれ。じゃあ”
メッセージはそこで終わった。ふぅ……後一秒でも遅かったら暴れだすところだった……
(ユベルの奴………っ!)
アリステッド男爵を倒した後、ドヤ顔をするユベルの顔が目に浮かぶ。くそっ……奴の思い通りにさせてたまるか!
(何か策を練らないと……)
※
(フェイ視点)
ニーナちゃんの家族と合流した後、俺達は一旦クロムウェルへと戻ることになった。ニーナちゃんの家族の協力が得られるなら計画が大きく変わってくるからな。
「こ、こんなにいい値で買い取ってもらえるんですか!?」
「ギルドを介した適正価格です。良かったら他の方々にもお伝え下さい」
ジーナさんの言葉にグレゴリーさんは更に驚いた顔をする。ジーナさんが……というより冒険者ギルドが提示した岩塩の買取価格はグレゴリーさんが普段受け取る買取価格のおよそ三倍だったのだ。
(ジーナさんがギルドにかけあって岩塩の買取を提案したって聞いたけど、早速獣人達の役にたったな)
元々塩の価格が暴落したのは買取業者の陰謀。立場の弱い獣人をさらに搾取しようと岩塩の買取業者が組み、買取価格を暴落させたらしいのだ。
(酷い話だよな……)
勿論、慈善事業だけでギルドがこんなことをするわけではない。まとまった量の買い付けが出来れば、オルタシュを介してサンマーア王国全土へ売り出せる。
(そうすれば今不正に安く岩塩を仕入れて販売している業者が得ている儲けをそのままクロムウェルの冒険者ギルドが得られる、か)
まあ、冒険者ギルドにとっても悪くない話ということだ。クロムウェルの治安を考えても──
「後、大地の裂け目に行くためのキャンプ候補地についての情報があれば買い取らせて頂きますが」
「か、買取!?」
グレゴリーさんは驚いた顔をするが……何でだ?
「私共の話に耳を傾けて下さるばかりか、情報として信用して下さるなんて!」
ええっ、どんだけ酷い扱いを受けてきたんだよ……
(そりゃ、助けてもらっても警戒するよな)
人間に対する信用ってゼロどころかマイナスだな。
「私達は皆さんと対等な関係を築きたいと思っています。直ぐに信じてもらうことは難しいかもしれませんが……」
これは俺の偽らざる思いだった。獣人達は何にも悪くないのにこんなに虐げられているのはおかしい!
「あ、ありがとうございます。その恩に報いるためにも大地の裂け目までのキャンプ作りに全力を尽くします!」
涙を流しながらそう言うグレゴリーさんを見ながら、俺は改めて獣人達のために出来ることをしようと誓うのだった。
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