第135話 キャラバン
「ふう……終わったわね」
一見楽に倒しているように見えるかもしれないが、そうでもない。このワームという魔物はHpが無茶苦茶高い。しかも、図体がデカいため、下手をするとコイツに踏みつぶされる危険さえある。
(だから、速攻で倒さないとヤバいんだよな……)
ジーナさんが弱点を調べてくれていたり、リィナが連携の仕方を考えていてくれたりしたらこんなにスムーズなだけで、結構厄介な魔物なのだ。
「ギアス荒地……危険な場所だな」
「ええ。ミアが感知してくれなかったらもっと苦戦していたでしょう」
そうそう! ミアが奴らを先に見つけてくれるのも大きい。コイツラの怖さの半分以上は地面から奇襲をかけてくることだからな。
「また襲われない内に先を急ご……ん? なんだ?」
何か騒がしいような……
「誰か襲われてるな。どうする?」
クロードさんが聞いてくる。が、答えは決まってる!
「助けましょう!」
「こっちだ!」
俺達はクロードさんの指す方向へと急いだ。
※
(良かった、間に合って)
駆けつけた時にはどうなることかと思ったけど、何とか間に合い、ワームを撃退することが出来た。
「ありがとう。危ないところを助かった! 君は何処の部族のものかな?」
キャラバンのリーダーなのだろうか。砂埃フードを被った一人の男が近よってくる。
(部族?)
何の事だろう?
「不覚にも蛇竜獣(ワーム)をあれほど簡単に撃退する勇士がいるとは知らなかった。是非名を教えてほしい」
そう言いながら取ったフードの下から現れた顔は……
(獣人か)
そういや、ギアス荒地は主に獣人が通行してるんだっけ。ってことは俺達も獣人だと思われてるってことか。
(どうしようか……)
って、正直に言うしかないよな。
「僕らは冒険者です。俺の名前はフェイです」
「に、人間!?」
眼の前の獣人の表情が一変し、後ろの仲間を守るように後ずさる。えっ……人間ってだけでここまで警戒されるのか!?
「我らをどうするつもりだ、人間!」
「いや、どうって……」
何かめちゃくちゃ誤解されてる。クロムウェルではかなり酷い扱いを受けていたし、積もり積もった恨みや不信とかがあるのかな……
(しかし、魔物から助けて疑われるなんてどんだけ信用ないんだよ!)
一体どうしたら誤解が解けるのか……
「あれ……もしかして飴玉のお兄ちゃん?」
ん、その声は?
「ニーナちゃん? 何でこんなところに」
「このキャラバンはお父さんのだから」
あ、なるほど。ちなみに、“飴玉のお兄ちゃん”というのは、ジーナさんと話しているときによく飴玉を差し入れていたからだ。
「……ニーナ、知り合いなのか?」
最初に俺に声をかけた獣人がそう尋ねると、ニーナちゃんはニッコリと微笑んで頷いた。
「うん! 前へ話した酷い人間から守ってくれたお兄ちゃんだよ」
「何っ……間違いないのか?」
「うん。お兄ちゃんは私だけじゃなくて他の獣人の子にも優しかった。だから、大丈夫」
「そんな人間が……いや、しかし……」
獣人は少しの間、ぶつくさと独り言を言っていたが、直ぐに姿勢を正し、俺達に頭を下げた。
「助けて頂いたのにお礼も言わず申し訳ありませんでした! このグルゴリー、一生の不覚です! どうかお許しください!!!」
「あ、頭を上げてください!」
俺はそう言ったが、グルゴリーさんは中々頭を上げてくれない。こまったな……
「そうは参りません。私達の命の恩人であるだけでなく、娘の窮地を救って下さった方への数々の暴言、マハノフ族の風上にも置けない行いです!」
えええ……
「とんでもない! 俺がこのブリゲイド大陸での人間の獣人に対する扱いを分かってないせいなのです。良ければ、その辺りを教えては貰えませんか?」
「そんなことをお望みなのですか!?……いえ、恩人のお言葉であらば勿論!」
そう言うと、グレゴリーさんは野営の準備をするようにと周りに指示を出した。何とか話し合いが出来そうだな……
※
「フェイ様は凄い力をお持ちなのですね」
試しに〔サランウォール〕でキャンプの周りに張り巡らせた魔物よけを見ながらグルゴリーさんが呟く。誤解は少し解けたみたいだが、今度は何だが持ち上げられ過ぎている……
「聖──いや、これはたまたま……」
正直に応えかけて、俺は慌てて口を噤んだ。スキルを聖獣から貰ったとか言ったらますます畏まられてしまうかも知れない。
「こんな力をお持ちの方に俺は何てことを!」
「いや、それは。それにこちらも助かりましたし」
グレゴリーさんは大地の裂け目までの拠点作りに喜んで協力してくれるとのことだった。というか、拠点づくりはこのギアス荒地を行き来する獣人達にとっても悲願だったらしい。
(始まれば、グレゴリーさんの属する部族以外にも協力してくれる部族が出て来るだろう、って話だったな)
最初は途方もない話のように思えたけど、これなら何とかなるかも知れないな。
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